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超能力・閑話休題

二つの試練を成就した私と美月。美月と入れ替わりで“喪失症”になってしまった私は親切な旅館の女将さんと旅館で住み込みで働くお姉さんのお世話になっている。美月も試練の後は疲労困憊だったな…美月の帰還と共に私の症状は一気に回復した。
宿泊費はいらないと言う女将さんは言うのだが、すでに一週間も経ってしまい、流石にそれは…と言う事で“短期アルバイト”として働く事にした。

『仲居の仕事は結構ハードだよ。朝早くから夜遅くまで休まる暇もない。一応、8:30から17:00ってなってるけどね。』

その日から私達はお姉さんの下で仲居の仕事を徹底的に仕込まれた。言葉遣いや礼儀作法…とか。
特に一番ハードなのは…“食事”。大広間に人数分の食事をせかせかと運び、厨房と広間を何往復したことか。この時ばかりか、お姉さんは厳しかった。やっと落ち着いたのは12時。丁度昼食の時間だ。お姉さんは私達にお茶を淹れてくれた。

『お疲れ様!一息できる時間だよ…仲居の仕事って結構ハードでしょ。朝と夕方は結構忙しいけど今はオフシーズンだからこれでも楽な方だよ。今日は予約は一件だけだから今日は上がっていいよ。麻也ちゃんも美月ちゃんも年頃の女の子なんだからやっぱり遊びたいでしょ?
ここから少し歩いていくと“和銅黒谷”って駅があるからそれに乗って行くと秩父市内に出れるから。遊んできなよ。』

お姉さんの言う通り、私達は駅に行き、電車旅を満喫した。西武秩父駅がある西武鉄道はリニアトレインなのだが、秩父鉄道はまだまだ電車が走っているのはそれはそれで風情を感じる。

和銅黒谷駅。近くに神社があるので神社巡りをする方はここで降りて参拝するのがセオリー。

秩父と言う都市は周りを山に囲まれた盆地の中にあるのだが、閉鎖的な空間ではあるが賑やかだったりする。電気文化だというのに、いまだに自転車や自動車が走っているのも時代を感じるし、エアーサイクルもまばら…。ただ西武秩父駅の近くにはRAC(レンタルエアーサイクル)はあったので私達はレンタルした。駅前で私達はエアーサイクルを起動する…“チュイイィン…”と言う起動音でさえ懐かしく感じる。

西武秩父駅。駅構内には沢山のお店があるし、温泉もあるのだ!

私達はエアーサイクルを駆り、ある場所を目指した。女将さんが言っていた神秘的な観光スポットがあると言う。

秩父駅から皆野町方面に進み、吉田と言われる場所にある。入口前の峠茶屋でエアーサイクルを停め私達は腹ごしらえ。

こじんまりとした場所ではあるが女の子が入っても全く違和感はない。

これってデートだよな…と思いつつ、美月との談笑は楽しかった。お店の隣に行きたい場所はある。私達はそこから歩いて入った。歩いて5分くらいのところに大きな滝に出た。

秩父華厳滝。日光の華厳の滝に似ていることからこの名前がついたのだそうだ。

秩父華厳滝…私達は滝に魅せられていた。細い道があり、岩場を渡れば滝壺ギリギリまで近寄る事ができる。美月はそんな光景を私に身体を近づけた。私も美月の身体を受けいれていた…。
二人共声が出ず、ひたすら滝の勢いさを見ている…美月はそんな中…ウットリとしていて目を閉じた…私はドキドキとしていたが…そっと彼女の唇にキスをした…長い間、ずっと。

『…麻也、私はね、麻也とずっといたいし、離れたくない…。私達、これからどんな事が待っているかわからないけどね。』
『うん、そうだね…私も同じ事考えてた。ずっと一緒にいようね、美月…』

私達は再び唇を近づけた…

『ねえ…最後の試練って何だろうね…二つの試練を成就させないといけないんだって事でしょ?』

美月は言った。

『最後の試練か…それを成就する事が私達の目的だからね。美月、私考えたんだけど、一旦家に帰らない?最後の試練について調べなきゃならないし、いつまで旅館に迷惑をかけれないよ。学校もあるしね。』
『うん、わかった…そうしよう。とりあえず今日は戻ってさ、明日は帰りの準備をして明後日帰ろ?』

夜になって旅館に帰って来た私達…女将さんとお姉さんに明後日出る事を話した。

『そう…寂しくなるね。でも貴女たが決めたのだから、私は引き留めない。麻也ちゃん、美月ちゃん…私に娘ができたみたいで私も嬉しかったのよね…』

女将さんは私達の決意に涙ぐみながら話を聞いていた。

『そうか…“一旦戻る”と言う選択肢は登山をする人にとって大事な事。麻也ちゃん達が決めた事だからね、人それぞれだよ。』

お姉さんは複雑な表情をしているが何かを決めた様子だった。
翌日、私達は観光客として彼女達におもてなしをして貰い、最後の一日を私と美月は楽しんだ。

翌朝…私達は、

『女将さん、お姉さん…長い間お世話になりました。私達は一生貴方達の事を忘れません。』

私と美月は深々とお辞儀をした。

『こちらこそ!当旅館をご利用頂き誠に有難う御座いました。またのお越しを一同お待ちしております…元気でね!』

…と、女将さんは私達に茶封筒を渡した。

『貴女達、ここで働いてくれたでしょ?働いた対価を払うのは当然でしょ?受け取ってくれる?』

茶封筒の中には驚く程お金が入っていた。私達は女将さんに抱きついてわんわんと泣き出した。女将さんも涙ぐんでいるのがわかる。

『こらこら…泣かないの。泣かれちゃうと別れが辛くなっちゃう。貴女達が本当の娘だったら良かったのにね…さあ、行きなさい!麻也、美月!』

私は車に乗り込んだ。お姉さんはひたすら黙っていたが、突然口を開いた。

『麻也ちゃん、美月ちゃん…本当にどうも有難う!貴女達の行動で私も決心がついた。私も旅を再開しようと思う。ただ今じゃなくて近い将来…私にもまだやる事があるからそれを終えたらまた旅を続けようと思う。』

私は西武秩父駅で降り、旅館の車をいつまでも見送っていた…

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