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クリエーター(トレーダー)様と遊ぶ企画 わらしべ長者・第十三章 “細工”
突然の火事で家をなくした私はご先祖様の助言で日本中を旅をしているホームレスの女だ。
旅をする…ということは当然お金がかかるし、そのお金もそろそろ不味くなってきた。それに体調が優れない…私は何とか埼玉の奥地、秩父市に辿り着いた途端、倒れてしまった。
『…大丈夫?』
私はある民家で和服姿の女性の声で目が覚めた。
『大丈夫ですか?朝起きて物音がして出てみたら家の前で貴女が倒れていたからびっくりしましたよ…あ、ごめんなさいね、服は大分汚れていたから洗濯させてもらってるよ。』
あれ?確かにパジャマに着替えてるし、匂わない…この人がやってくれたんだ。
『私はRORO、茶道教室をやっていてるんだけど…近所の溜まり場みたいになってるんですが。ま、それはそれで楽しいんですけどね。』
彼女は続けた。
『ところで貴女が身につけてる首飾り…ずっと光ってるんですが、凄く変わった宝石ですよね。』
ん?光ってる?つまり、彼女が次のトレーダーになる訳だ。私は家をなくして安住の地を求めて旅をしている事を話した。
『つまり、貴女は家を求めて旅をしているって事でしょう?それにその首飾り…“鬼の涙”、鬼から貰った首飾りの光に導かれているって事は私が貴女に何かをしないとって事ですよね。ただ、今の貴女は旅をするのは無理だと思うし、体調が落ち着いてからでも良いんじゃない?どうでしょう、私は一人暮らしだし家の事をやってくれると嬉しいな。あ、そうだ…近くの旅館で仲居を募集してるみたいだけど、どう?』
私は彼女の言う通り、甘える事にした。彼女はスマホを取り出し、当然電話をしだした。
『貴女…旅館の仲居をやってみない?私の教え子さんに旅館の女将さんがいるんだけど猫の手を借りたいくらい忙しくてね…募集してる、って言ってたから。』
私は引き受ける事にした。翌日、旅館の女将、と名乗る女性が来た。
『初めまして、私はこの近くの“ゆの宿 和どう”と言う旅館で女将をしています。ROROさんから話を聞いたけどうち、長い間勤めてくれた人が辞めちゃって人を探していたところなんです。え?仲居は未経験?大丈夫!未経験者歓迎しますし、私が仕事を教えますから。』
私は女将の申し出を受ける事にした。旅館での仕事は早朝から夜まで忙しく、女将さんから礼儀作法は勿論、忙しい中、私に色々と教えてくれた。旅館では色々なお客さんが来る…そんな出会いも悪くはないな、と思うようになってきた。勿論、ROROさんの教室も手伝っている。
ここに来てROROさんや女将さんにお世話になりっぱなしだ。私は彼女達には感謝している。そんな生活も半年が過ぎた。
『ねえ、そういえば…貴女の持ち物の中に、掛け軸があったけどあれ…私にくれないかなぁ。茶室に掛けたいんだけど。え?アレで未完成なの?』
私は掛け軸をあげる事にした。
また違う日、ROROさんはある人と会っていて留守番を頼まれた。何でも未完成の掛け軸を完成させるんだとか。翌日古物商を名乗る人がその掛け軸をまじまじと見つめて、
『ROROさん、これ…確かに未完成のお軸ですよ。これを描いた人物、“月光石の砂”を求めていたが志半ばで亡くなってしまってね、月光石を探していたらしいんだ。知ってるかい?月光石。』
彼女はうーん…と首を傾げていたが、私は間に割り込んで最後の月光石を差し出した。
『ほう…これが月光石か…なかなか綺麗な鉱石だ。これを加工する際に出る砂を掛け軸に塗すんだけどどうだろう…私にお軸と石を貸してくれないかなぁ。知り合いに宮大工がいるんだが彼なら完成させる事ができるはず。』
古物商を名乗る人は掛け軸と石を持っていった…一ヵ月くらい預けたかと思うが掛け軸が返ってきた。軸自身、何が仰々しい…それでいて前とは違う雰囲気をだしている。
『この掛け軸は確かに未完成なもので、ある事をするとことで落款印が浮き出るようになっていたんだよ。ただそれは特別な顔料でないと反応しないようになっていてそれが何かわからなかった…まさかと思ってこの鉱石を、粉末にして顔料を作った訳だ。昔の贋作対策って感じかな。月の光だけに反応しきらきらと光るような感じになるよ。』
と古物商の男性は言った。確かに私が貰った時には下の方にある落款印はなかったし、シンプルな竹の絵だった。それがこんなになるとは!
『ただな…顔料を作るのに工具をいくつか壊してしまったらしいが伝説の鉱石を加工した男として有名になるからお代はいらんと。アレ、月光石…通称・オリハルコンだろ?世界中の優れた道具でも加工は無理だろうな。』
私とROROさんは苦笑いをしていたが、宮大工さんはさぞかし鼻高々だろうな…と思った瞬間だった。
『これが完成した掛軸か…しかも月の光にだけ反応する、茶室に癒しができたし、雰囲気も良い感じだよ。じゃあ、そんな貴女に…これを。』
彼女は桐の箱に大事にしまわれた茶碗と茶器一式と茶葉を出してきた。
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『これは特別な茶碗で家に代々伝わるもので、この茶葉で点てて飲むと幸せが訪れるシロモノで茶碗・茶器・茶葉のどれかが欠けてもダメなんだよ。つまり三種の神器ってやつ。気分が悪い時は煎じて飲んでみるといいよ。』
私は改めて貰っていいのか聞いたが、
『私は一人で生きて来たけどお茶の道に進んだ事で私なりの幸せを掴んだし、こうして貴女と出会ったのも幸せの一つ。だから私にはこれは要らないし、これを使わなくても充分だから。幸せって何も誰かと…じゃなくても幸せの形は全然違うんだよ。貴女だけの幸せのために役に立ってくれるなら私は本望だよ。』
私は有り難く受け取る事にした。
今回はRORO様のイラストを使わせていただきました。感謝です。
・未完成の掛軸と最後の月光石(オリハルコン)の鉱石→完成した幸せになる月の光にだけ反応する掛軸
…完成後RORO様に譲渡
・代々伝わる茶碗と茶器一式、茶葉
→掛軸の返礼、RORO様から譲渡
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