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三つの魔法

“麻衣子…結婚おめでとう!きっと麻衣子の隣には素敵な男性が横にいるのでしょうね…お母さんは…麻衣子が幸せになってくれることが一番の願い…その幸せを見届けられたからお母さんはもう…お母さんにかけられていた魔法はそろそろ解けそうだけど、お母さんはもうここにいられそうにないの…麻衣子、私の分まで…私よりも…幸せになりなさい!お母さんはもっと傍にいたかった…麻衣子、貴女は私の大切な一人娘…貴女の傍にいられなくてごめんね…麻衣子、大好きだよ!”

サプライズで流れたある映像…私も父も彼も声が出ず、涙が溢れていた。
私が本当に幼い頃、母が亡くなってしまい、父と二人暮らしをしている。

『麻衣子!お母さんが倒れたから今から病院に行くから急いで支度しなさい。』

私は父の車に乗り、急いで病院に向かった。私は不安だった…母が?元々母は身体が弱くちょっとした事でも体調を崩したりする感じだったからだ。

『麻衣子!ごめんね…お母さん、倒れちゃった。でもねお医者さんは大した事ないだろう、だって。』

安心した…一大事にならなくて良かったし、ホッとした時だった。

『麻衣子、お父さんはお医者さんとお話ししてくるからお母さんと一緒にいなさい。』

父は部屋を出た。長い時間がたっただろう、父が真っ青になりながら帰って来たのだ…。私達は毎日のように母のところに行ったのだが、最近では学校の帰りに病院にいる母に会いに行くのが日課だ。そんなある日、

『明日になったらお隣の絵梨ちゃん家のお父さんからビデオカメラを借りて来て欲しいんだ…頼めるかなぁ?お母さんが使いたいんだって。』

私はわかった!と返事した。病院で何するんだろ…とは思ったが当時の私には理解できなかった。

『お父さん、絵梨ちゃん家からカメラを借りて来たよー!』
『有難う!明日、仕事の帰りに病院に寄ってみるよ。』

DVDに録画するタイプ。

『お父さん、お母さんはどうだった?』
『お母さん、喜んでたよ!でも渡した途端に病室を追い出されちゃったよ…アハハ。』

この時、父にはわかっていたのかもしれない。笑い方に少し寂しさを幼心にも感じとっていたが敢えて私は言わなかった。そんな時だ、母の容体が急に悪くなったのは。

『麻衣子ちゃん!お母さんが…』

そんなある日、絵梨ちゃん家のお母さんが血相を変えて家に来た。父はすでに病院にいるというので絵梨ちゃんのお母さんが送ってくれたのだが…
バタンと病室のドアを開けると、病院の先生と父が呆然としている…母は…目を閉じたまま動かない。

『麻衣子…お母さん、お星様になっちゃった…』

私は…訳がわからなかった。ただ必死に母の手を握っていたし、微かに体温があるのだが段々と冷たくなっていくのがわかる…私はひたすら泣いていた。
母の死を受け入れられないまま、私は小学生になった。桜さく四月の中で私は小学校の門をくぐった訳だが、父は…

『麻衣子、小学校入学おめでとう!麻衣子…家に帰ったらプレゼントがあるんだよ!何かは…内緒だよ。』

父は何か言いたげだったけど私は黙っていた。嬉しさもあったのだが。父はリビングに私を案内し、そこに座るよう促した。父はテレビをつけ、プレイヤーのリモコンの再生ボタンを押す。

“麻衣子!小学校入学、おめでとう!お母さんはね、訳あってこのディスクの中にいるの。麻衣子の事をいつまでも見ていたいからある魔法使いの人にお願いしたの。麻衣子、小学校に入ったら沢山お勉強して、沢山お友達ができるといいな…”

久しぶりに見た、母…母はいつでも私の事を見守ってくれているんだ…と思うといつの間にかテレビに見入っていたのを覚えている。

『どうだった?お母さんはテレビから出れないんだけど麻衣子の事見ていたいんだって。』

私は母の言う通り、小学生は楽しく、色々なイベントがあるが運動会や授業参観とかは父は必ず時間を作っては参加してくれていた。ただそれでも私は母がいない事に引け目を感じていた。この頃の私は思春期…私は少しナーバスになっていたのかもしれない。中学生になった頃は時々父に当たったりもしたが、父はひたすら謝ることしかしなかった。

そんな中、私は体調を崩してしまい、病院に通院していたのだが、ある女性看護師さんに声をかけられた。

『こんにちは、麻衣子ちゃん。私の事、覚えてる?貴女のお母さんの担当だった、明神…麻衣子ちゃん、大きくなったのね。』

この人…確か、お母さんに会いに行った時、父とよく話していた看護師さんだ。あの頃と比べてだいぶ雰囲気が変わった。名札には“看護師長 明神 遥”とある。

『麻衣子ちゃん、元気なさそうだけど大丈夫?』

彼女は母にない独特な雰囲気があってこの人にだけは何か話せそうな気がする。私は彼女に打ち明けた。

『そう…貴女のお母さんは立派な人だった。自分の体調よりも貴女の事ばかり気にしてて貴女が来た時には本当に嬉しそうだった…ただ帰った後はひたすら、“ごめんね…ごめんね…”って泣いてたのよ。麻衣子ちゃん、お母さんがいない事って辛い事だと思う…でもね、お母さんを悲しませる事はしてはダメ。それだけは約束して?』

そうだった!私はお母さんと約束したんだ!母は私の事を大事にしてくれているんだ、それはずっと変わらないお母さんはお母さんなのだから!
私は彼女、明神さんの一言で目が覚めた。お母さんはもっと私といたかったし、もっとやりたい事だってあったはず…お母さんをがっかりさせてはいけない!と思ったのだ。

私は明神さんに一礼をした。

私はそれから一生懸命勉強した。勿論身なりもかなり変え、茶色く染まっていた髪も真っ黒にして。そんな甲斐もあってか、県内で一番難関と言われる女子校に合格した。

16歳になった私は高校生になった。入学式の後、病院に行き、明神さんに会いに行った。

『麻衣子ちゃん、高校入学おめでとう!麻衣子ちゃん、あの難関高校に入ったんだね!麻衣子ちゃんが頑張ったからだよ。』

と、明神さんは机の引き出しから一枚のディスクを取り出した。

明神さんから貰ったディスクには“二つ目の魔法”とマジックで書いてあった。


『麻衣子ちゃんがここに来るのがわかっていたからね。これは家に帰ったら観なさい。』

私はなんだろう…と思いながら家路についた。父はリビングで待っていた。

『麻衣子、明神さんからディスクを貰っただろ?お父さんと一緒に観よう。』

私は父にディスクを渡した。すると…

“麻衣子…高校入学おめでとう!麻衣子もだいぶ大きくなって美人さんになってて良かった…麻衣子も高校生…高校に入っても頑張って欲しいな…麻衣子、部活は決まった?子供の頃から外で遊ぶのが好きだったからきっと運動部かな?でも勉強も大事だし、疎かにしたらだめだよ?”

母だ!母の姿を見て私は涙が出た…母がいない事を父に当たって困らせたりしてた自分が恥ずかしい…テレビの中の母は…ニコっと笑顔で微笑みながら手を振っていた。母が私の事を見守ってくれているんだ!と。
私は高校に入ってから一層頑張った。色々考えているうちに私は人の為に何かしてあげたい、と思うようになり、明神さんのような仕事をしたいと思うようになった私は医者になりたいと思うようになった。

『母のように病気で苦しんでいる人の助けになりたい!』

が、理由だ。私はひたすら勉強をし、国立大学の医学部に合格した。医者と言う仕事は昼夜問わず色々な人が駆け込んでくる…でも困った人を助けたい、ということだけは忘れていない。そんな中で日々患者さんと向き合う中で私はある男性と知り合った。同じ医局にいる人で優しそうな紳士の男性だ。同じ故郷、というのもきっかけの一つなのだが、実は私の事を他人ながら気にかけてくれていた、明神さんの息子さんだったりするのだが。
明神さんも実は旦那さんを亡くしていて女手一人で彼を育てあげたので性格は彼女に似ている。彼は優しく、お互いの境遇を理解している。

私は彼と知り合い、何度か出かけるうちに彼こそが私と共感し合えると思うようになり、そんな中で彼からプロポーズをされた…勿論、私は…

『宜しくお願いします…』

と返事した。月日は流れいよいよ結婚式の日…ヴァージンロードに続く扉が開かれる…

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