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クリエーター(トレーダー)様と遊ぶ企画 わらしべ長者・第十五章 “魔術”

ホテルを後にした私は再び駅に戻って来た。従業員のらぐさんと名探偵の血を引く猫との関わりは新鮮で意外な出会いに驚きながらも私は再び歩き出す。

大洗を後にし、水戸駅へ。そのあとは東京駅に戻り、大宮駅に進路を取る。私は何となくではあるが新潟に行ってみたくなったのだ。大洗は海に面しているので海は太平洋…と言う事になるが、反対側の日本海に行ってみたくなり、私は新幹線に乗り込んだ。新幹線という乗り物は便利ではあるが、鉄道での旅が満喫できなくなるというデメリットがある。大宮から新潟へは大体2時間くらいの行程で新潟に着いた時は正午近くになっていた。

新潟の駅は大阪と同じくらい賑やかでせかせかと人が歩いていくのだが今はオフシーズンということで少し静かなイメージだ。私は少し観光をしたく改札口を出る事にしたのだが特に目的もなく新潟に来た訳なのでまずは観光案内事務所を探す…最近はこの観光事務所やインフォメーションセンターを探すのが一番だと思うようになっていて、この施設の存在は多いに役に立っている。新潟という場所は広く複数のエリアに分かれているのだが、まずは新潟市内を探索すべく職員に観光スポットを尋ねてみた。

“でしたら歴史博物館なんてどうでしょう。新潟市歴史博物館みなとぴあというのが正式な名称なのですが、明治時代から産業を支えて来た建物で新潟の歴史に興味ある方なら一度は行くべき、と言っても過言ではないですよ。ここからでしたら万代橋行きのバスで行けますよ。”

なるほど…私はバスに飛び乗った。

新潟市歴史博物館みなとぴあ。明治時代から新潟の産業を支えてきた歴史ある建物だ。

博物館は何でも…新潟市歴史博物館(みなとぴあ)では、新潟の人々の営みを、湊町の歴史と低湿地の暮らしをテーマとした常設展示、ミュージアムシアターなどで紹介しているほか、企画展示室、体験の広場、情報ライブラリーを併設している。博物館本館の建物は、明治44年(1911年)建築の2代目新潟市庁舎の外観をデザインに取り入れたもので、敷地内にはこのほか、明治2年(1869年)建築の国の重要文化財「旧新潟税関庁舎」や、移築復元した大正~昭和初期建築の旧第四銀行住吉町支店もある。明治~昭和時代の新潟の象徴的な風景を堀や柳で再現しており、信濃川河口付近の西港や佐渡汽船の出港を見ることもできる…らしく、独特な雰囲気をだしている。館内は当時の雰囲気のまま保存、管理されていてまるでタイムスリップした感覚になる。ただ中は博物館と言うだけあって展示物のパネルでいっぱいだった。

館内を歩き回っていると私は建物の隅でふと階段を見つけた…ただ何かおかしい…パンフレットには階段の案内がないのだが、なぜか目の前に階段はある。しかも館内の雰囲気に対して異様な雰囲気をだしている。私はコソコソと階段を登ってみた。

階段の先には扉があり、鍵穴から光が漏れている。私は、コンコン…とドアをノックした。

“どうぞ…”

ドアの向こうから女性の声がした。

『やあやあ…ようこそ、私の部屋へ。久しぶりのお客さんだね。』

私はキョトンとしていた。部屋はどうやら主人の部屋ではあるが怪しい道具や古そうな本がびっしり…しかも読めなさそうな字で書かれた本が部屋中を取り囲んでいる。部屋の中央にはアンティークな机があり、そこには中性的な雰囲気のおそらく女性だろう人が座っている。

『私は“紺おぎの”って言う魔法学校の学生でここは私の部屋だ。私は本が大好きでね、世界中の魔術書を読み漁っては植物を魔力で育てる研究をしているんだ。どうやら魔力の相対的衝突で空間が歪んでしまってその影響で私のドアと繋がってしまったんだろうね。キミは何か異様な魔力を感じるのだが…。その首飾りはムーンライトの光だね。ムーンライトは人との出会いを導く伝説の鉱石…ムーンライトが光っている、つまり運命的な繋がりがキミと私の間にあるようだね。』

続けて紺おぎのさんは…

『回りくどい事はナシだ。ではこのサクラチョウの苗木をあげよう!この苗木は、私の研究の成果で特別な土でしか育たない。しかも継続的に魔力を注いでいかないと途端に枯れてしまうのだが、上手に手入れをすればそれはもう、綺麗なピンク色のチョウがヒラヒラと舞うような花を咲かせるんだ。……単にきれいなだけじゃないかって?そんなことないさ。桜には神様が宿っていてね。邪気を払ってくれて、良いことを運び込んでくれるんだ。春の季節は気がめいりやすいから、神様が桜に邪気を払わせてるんだよ。それに、美しいものを見ると気分も良いからね。
これだけ聞くと胡散臭いだろ?ふふ……このサクラチョウの前の持ち主の話をしてもいいかな。彼らはとても広大な田畑を持っていたんだよ。ただ、信じられないくらいに農業に向かない土だった。何とかできないかと手を変え品を変え、とにかくできうる限りのことはしたんだ。でも、どうにもならなかった。それである時、隣村に行ったんだ。品のいい農作物が有名でね。そうしたら、ピンクの蝶が畑にいるじゃないか。「害虫を放していていいのですか?」と聞けば「あれはサクラチョウ、この畑の守り神です。あの蝶が来てから内は安泰です」というものだから、夫婦は頭を地面にこすりつけて「お願いします、一匹だけでいいのです。分けてくださいませんか」と頼んだのさ。一匹だけなら……と渋々ながら分け与えてもらい、夫婦は涙を流しながら帰宅した。帰ってそうそうにサクラチョウを畑に放してみたところ、みるみるうちに豊かな土になって、その年から豊作だったんだって。
……信じられないって顔をしているね。まあ、説明したところで信じるかは君次第だしね。あ、でも。……もし、自分でサクラチョウを使うなら気をつけるんだよ。なぜって、さっき話した隣村なんだけどね、翌年には流行り病で次々と村人が亡くなっていったって話だから。』

神秘的な空間と素敵な方を描いてくださった紺おぎの様には感謝ですよ。

一見して桜の苗木のように見えるのだが、少し違う…蝶がヒラヒラと舞っているようで蝶が桜の花のように見える。私はガラスケースの中の苗木に見惚れていた。

『おっと…魔力が不安定になりつつある…急ぎたまえ!ドアの外へ!このままだとキミは元いた場所に戻れなくなってしまう。』

私は紺おぎのさんにお礼をしてドアの外に飛び込んだ。
気がつくと私は図書館らしき建物の前の前に立っていた。ふと見渡すと背中に何か違和感がある…というよりも背負っていたバックパックがない!確か肉食獣の頭骨の水晶を入れていたはずだ。慌てて紺おぎのさんの部屋に置いて来たか、無くしたのかもしれない。

新潟市立中央図書館。

仕方ない…彼女にバックごと手に渡っている事を願って彼女との事を覚えておこうと思う。その代わりに、私の手にはサクラチョウの苗木がある。確か彼女は特別な土で魔力を肥料とする、って言っていたな。サクラチョウって?と疑問に思った私は図書館に入った。

中はすごく綺麗で本の種類が沢山ある。私はサクラチョウについて調べるべく奥の“自然科学”と書かれた本棚を見つけ、あちこちキョロキョロしていると一冊の本を見つけた。この本は周りの本と比べて明らかに古そうで違和感を放っている。

“サクラチョウを託す”

と、辿々しい日本語で書かれていたが著者は…“紺おぎの”とある。本を開くと見覚えのあるバックを背負い、頭骨の水晶を嬉しそうに持っている彼女の肖像画があった。

“サクラチョウの苗木の開発に成功した私、紺おぎのは苗木を一人の女性に託した。私が住む地域では魔力が枯渇した影響で草木一本生えない大地になってしまったからだ。このままでは大地の恩恵を受けれなくなるどころか、魔法都市としての地盤さえ廃れてしまう。彼女が住む遥か未来の世界は陽の光が常に輝いており、大地も汚れていなく澄んだ土であるならきっと苗木は魔力という触媒がなくてもきっと大地にサクラチョウの花を咲かせる事ができるはずだ…四年の一度の特別な日、日出づる国の不死の山の中央にサクラチョウは芽付き、天を地を…桃色に染め抜くだろう。苗木を託した異国の女性の運命を変える事を願って、私は彼女からいただいたこの頭骨の水晶と背負い袋を貰い受けこの事を後世に伝えよう。そして世界の復興を願い、私は永遠に伝説として語り継がれるよう…旅に出る…”

私はあの時…彼女の部屋にバックごと置いて来てしまったのか…彼女、紺おぎのさんはきっと世界を復興したはずだ。世界中を行脚して…目的は違うが、彼女も旅をしたと思う。
私は本をコピーしようとカウンターにいる職員に許可をもらう事にした。

『その本ですか…?登録番号もないし、お客さんが忘れていったものかもしれませんよ?それに当館は新書しか取り扱っていませんし。お客さんの本ですか?それ。』

ん?確かに周りの本は新しい本ばかり…紺おぎのさんはここに来る事を知っていたのかもしれない。私はこの本を持つことにした…

不思議な地図の場所…複雑なロジックが少しずつ解けそうにある…。
今回はイラストを提供してくださった紺おぎの(X・旧Twitter:@kome_0141)様、有難う御座いました!

・猫毛の毛玉糸
・熊のぬいぐるみ
・肉食獣の頭骨の水晶→バックごと紛失(後に紺おぎのさんの部屋に置いて忘れてきたことが判明)、紺おぎのさんに譲渡
・魔法樹“サクラチョウの苗木”→紺おぎのさんから譲渡

・不思議な地図

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