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晩年まで光を表現し続けた「モネ」、世界中から愛される秘密

いよいよモネに関するブログシリーズの最終回を迎えました。
これまで6回にわたり、クロード・モネの生涯と芸術について探ってきましたが、今回はその集大成として、モネがなぜ今もなお多くの人々を魅了し続けているのか、その秘密に迫ってみたいと思います。

こちらの記事は、Podcast「アート秘話〜名画に隠された世界〜」にて対談形式で語った内容をもとに書いています。こちらの放送もどうぞよろしくお願いします!

モネの軌跡:光への飽くなき探求

まず、これまでの内容を簡単に振り返ってみましょう。

第1回では、モネの「積みわら」シリーズが2019年に122億円で落札された衝撃的なニュースから始まり、モネの芸術が印象派を超えて抽象絵画の先駆けともなった点を探りました。

第2回と第3回では、若きモネの挑戦と苦難、そして日本の浮世絵からの影響について触れました。伝統的なアカデミズムに反発し、新しい表現を追求する中で、モネは「光」への執着を深めていきます。

第4回では、印象派の誕生とその苦難の道のりを追いました。「印象、日の出」という作品から「印象派」という揶揄された名が生まれた経緯や、初期の展覧会での失敗など、モネたちの挑戦は決して平坦なものではありませんでした。

第5回では、「日傘をさす女」や「死の床のカミーユ」といった作品を通じて、彼の人間性や芸術家としての葛藤を探りました。

そして、第6回では、フランスでの評価が低迷する中、モネがアメリカで成功を収めていく過程を見てきました。

アメリカでの成功、そして晩年へ

モネのアメリカでの成功は、彼の人生において大きな転換点となりました。19世紀末、急速に経済発展を遂げていたアメリカでは、新興の富裕層が新しい文化や芸術に強い関心を持っていました。

1886年、ニューヨークで開催された印象派展覧会でモネの作品は驚くべき成功を収めます。特に「積みわら」のシリーズは大きな人気を博し、1枚あたり4000から6000フラン(現在の価値で約400万円から1000万円)で売れるほどでした。

そしてアメリカで成功し、モネは経済的な安定を得て、ジヴェルニーに新居を構えます。晩年はここで過ごし、後に「睡蓮」シリーズとして知られる傑作を生み出すことになります。

光とは何かを問い続けたモネの芸術

モネの芸術の核心は、「光」の表現にあります。モネは同じモチーフを異なる時間帯や季節で描く「連作」という手法を確立し、刻々と変化する光の様子を捉えようとしました。

「ポプラ並木」「積みわら」そして「睡蓮」といった有名なシリーズは、まさにこの光への探求の集大成と言えるでしょう。モネは、目に見える現実の風景を描くのではなく、光によって刻々と変化する「イメージ」を描こうとしたのです。

印象派の父から抽象絵画の父へ

興味深いことに、モネの評価は時代とともに大きく変化しました。モネが生きていた当時は、同じ印象派の画家であるルノワールの方が高い評価を受けており、作品の取引価格も高かったのです。

しかし、時が経つにつれ、モネの評価は急速に高まっていきました。その大きな要因となったのが、アメリカにおける抽象表現主義の台頭です。1950年代から60年代にかけて、アメリカの画家たちはモネの作品に抽象的表現の源流を見出しました。

モネは「印象派の父」としてだけでなく、「抽象絵画の父」としても語られるようになりました。このように様々な側面からモネの作品が語られるようになったため、モネの作品の価値はさらに高まっていきます。

いろんな角度から語ることができる作品というのは、その絵を他の人に語りやすい、つまりは絵の持ち主が自慢しやすい、ということにも繋がるのです。所有する意義が高まることでその作品の価値が高まっていくものと思います。

そして、特筆すべきは、アメリカの抽象絵画市場の規模です。この巨大な市場においてモネがその源流となる評価をおさめたことが、作品の価値を飛躍的に高める結果になったと思います。

なぜモネは世界中から愛されるのか?

では、なぜモネは世界中の人々を魅了し続けているのでしょうか。その理由を4つ挙げてみましょう。

  1. 絵の親しみやすさ: モネの作品は、写実的過ぎず、かといって難解な抽象画でもありません。多くの人にとって「見やすい」。明るく爽やかな印象を与える作品が多いことも、親しみやすさの要因の一つです。

  2. 「モネ」という名前の言いやすさ: 「クロード・モネ」という名前は、世界中で発音しやすく、覚えやすいものです。この一見些細な要素が、モネの知名度を高める要因とも思います。

  3. 豊富な作品数: モネは生涯で多くの作品を残しました。世界中の美術館で彼の作品を目にする機会が多いことも、人気の大きな要因です。展覧会を開催しやすいという点でも、モネの豊富な作品数は重要な意味を持ちます。

  4. 文化形成における重要な位置付け: モネは印象派の代表的画家であり、また抽象絵画の先駆者としても評価されています。この多面的な評価が、美術史におけるモネの重要性を高め、多くの人々の関心を集め続けています。

さいごに

モネの生涯と芸術からは、多くのことを学ぶことができます。

まず、革新的なアイデアは常に理解されるとは限らないということ。モネたち印象派の画家たちは、当初激しい批判にさらされました。例えば、会社での新規事業立ち上げや、新しいツールの導入などの際に、必ずといって否定的な意見があるのと同じです。

次に、アートと経済との関係の複雑さです。モネの作品は、フランスで評価されなかった時期にアメリカで高く評価されました。そして後年、アメリカの抽象表現主義の文脈で再評価されることで、さらに価値が高まりました。この背後にはアメリカの経済成長も影響しています。

特に、前衛芸術は経済的に潤っている時期でないと、お金が回って来ません。景気が良くなれば、高く売れるし、悪くなれば、売れなくなります。このように、アートの価値には経済情勢の影響が多分に反映されます。

そして何より、自分の表現を追い求め続けること、その信念の大切さです。モネは生涯を通じて、光の表現という自身のテーマを探求し続けました。その姿勢が、結果として時代を超える普遍的な作品を生み出したのです。

モネの芸術は、単に美しい風景画ではありません。それは、自身の「光」への探求を決して諦めなかった一人の芸術家の、壮大な生涯の記録です。

これで、モネに関する連載を終えますが、アートの世界はまだまだ奥深く、探求する価値のあるテーマが無限にあります。これからも一緒に、アートの素晴らしさを探求していきましょう!


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