File.14 遠山ゆうかさん(絵画【アクリル画】)・前島咲さん(インスタレーション)インタビュー
――お二人は、今どのような活動をされているんですか?
遠山:現在は、飯田市と茨城県を仕事や家庭の都合で行き来しながら制作をしていて、展示活動も年に何回か参加させていただいています。
以前はわりと空想的で、天使がいるような風景を描いてたんですけども、最近は空だったり花だったり、身近なものをモチーフに選んで描いています。
前島:今は飯田に住み、制作をしています。基本的に手で触って居心地のいいものを選んでいて、今はフェルトや布、綿でつくっています。
――作品を作り始めたきっかけを教えてください。
遠山:作品づくり自体は、子どものころから絵を描くことが好きだったのでずっとやっていて、展示のきっかけをいただいたのが、かなり昔なんですけど、小学生のときです。美術館の関係の方が作品を見てくださって、そのとき「よければうちで展示してみませんか」と声を掛けてくださって、そこから広がっていきました。
前島:学校は、「つくる」ような学校に行ったんですけど、でもやっぱりアパレルの仕事がしたくて、名古屋でアパレル業をしていました。そのころに何かのめぐり逢いで飯田の芸術家の山内孝一さんに出会ってお話をして、その日のうちに名古屋のアパートを解約して飯田に引っ越して始めることになりました。
――お二人は飯田創造館が開催している「若造展」で知り合われたそうですが、「若造展」に出展したきっかけを教えてください。
遠山:2012年に個展を飯田で開いたときに、日本画院の先生が見にきてくれました。同時期に日本画院展がやっていて会場を訪れたときに偶然「こういう企画が立ち上がったのでもしよかったら」と言われて参加を決めました。
前島:名古屋から帰ったとき、山内先生に「応募して作品を見てもらったら」と言われて参加しました。
――「若造展」に参加された感想を教えてください。
遠山:最初は個人で活動していたので、飯田下伊那にこれだけたくさんの作家さんがいることに感動したし刺激になりました。
前島:みんないろんな楽しいものをつくっているので、すてきだなと心強さを感じました。
――お二人の作品について伺います。
遠山さんの作品のモチーフが空想な物から身近なものに変わったと伺いましたが、何かきっかけはありましたか?
遠山:コロナの影響で、外出がおっくうになる状況が増えたためです。庭先に咲いている菊の花や空、身近なモチーフが増えました。
――コロナ渦で家にいればいるほど、私だと空想の方に思いを巡らせそうなのですが、そこで身近だけど外のもの、というのがおもしろいですね。
遠山:より身近なものが目に付くような感じに変化しているのかもしれません。
――ずっとアクリル絵の具で描いてますか?
遠山:そうですね。途中で油絵に挑戦したこともありますが、アクリルが一番使いやすくて長く制作しています。
――油絵と比べてアクリルのどこが好きですか?
遠山:扱いやすいところです。油絵だと乾燥まで時間がかかり、色の混ぜ方が難しいです。アクリルだと水彩を描く要領で配色できるし、乾燥が早いので、思い描いているイメージが壊れる前に作品を仕上げることができます。
――モチーフはどうやって決めていますか?
遠山:日常の中で風景を見たり感動したり、自分の心が動かされたものを作品にして、いろんな方に見ていただけたらいいなと思っています。空を見て、すごくさわやかな気持ちになったり…そういう感情の動きを大切にしてモチーフを選んでいます。
――最近は具象の作品が多いようですが?
遠山:ここ数年は具象、写実的なものに挑戦する期間でした。また変化していったりするかもしれません。より今の表現を維持しつつ、また心象的な要素がはいってきたりするかなと思っています。
――たしかに写実的な具象の絵ではありますが、その根本には心象、心の動きがあるというのがお話を伺ってわかりました。絵の具の話のとき「そのまま形状が維持できて形が残せる」と聞きましたが、心の動き自体を留めている感じがしてすてきだなと思いました。
――前島さんの作品について伺います。最初に手触りにこだわる理由を教えてください。
前島:最初はフェルトを使ったかわいらしいものを作っていました。(作品は)自分の生活にまとわりつくものなので、あんまり痛い子だと大変かなと思って。
――羊毛フェルトを使おうと思ったのは最初からですか?
前島:飯田女子短期大学の家政学科の授業で、羊毛フェルトを使ったのがきっかけです。初めて触って心地よくて、いいなあと思いました。授業では服や機(はた)、フェルト、いろいろやっていました。
――色はどうなっていますか?
前島:3色ぐらい混ぜて、いいなと思うところで止めています。
――青系なのは何か意味があるんですか?
前島:黒が好きなんですけど黒をつくってると病んじゃうので。占いで自分の一生のラッキーカラーが青だったんです。
――遠山さんから前島さんにご質問はありますか?
遠山:作品の数が多いですが、どのくらい時間をかけていますか?
前島:1作品(作品群で)500時間と決めています。なかなか新しいものができないんですが…最近は計算しやすいように100本にしています。1個5時間×100本で。
――コロナ禍でかわったことはありますか?
前島:私の作品は会場でも触ってよいことにしています。触って感じてもらうので、コロナで触れなくなってしまい、意味がなくなってしまうときもありました。触って体感することはこれからも大事にしたいのですが。もし触ることができなくても、触るという行為を想像することが大切だと感じ、自分の考えにも変化がありました。
――お客さまが触って作品を動かすと一つひとつの作品の位置が変わり、作品全体の形も変わってしまいますよね?
前島:そうですね。一瞬一瞬なので、実際見に来ないとわからないし、見てもわからないですけど、それもまた面白いし、いいんじゃないかなと思っています。
――作家さん本人が見てない所で作品が変化していくのもおもしろいですね。
前島:リレーみたいですよね。
――お二人に伺います。
表現をするうえで、気をつけていることや大切にしていること、こだわっていることはありますか?
遠山:制作と日常は深く関わりがあると思っていて、生活のペースや精神的なペースを大事にすることが一番大切かなと思っています。
前島:今も悩みつつやっています。バランスをとるのが難しいです。温度と速度がぴったりくると気持ちよく作業ができるんですが…難しいですけど(作品を)つくれる状況はありがたいので、それだけでいいじゃんという感じです。遠山さんは制作と生活とのバランスはどうしていますか?
遠山:夜遅くなるときもありますが、昼間の空いた時間に温かいお茶を飲んで休憩したりします。少しの休息を大事にして、忙しくても食事をとるようにしています。
――さて、お二人は長野県文化振興事業団が行っている若手芸術家支援事業であるnextに登録していただいていますが、登録のきっかけはなんですか?
遠山:若造展の先輩方が登録しており、紹介されて興味をもったことです。
前島:こういう世界、つくる世界を知らなかったので、そういう世界を見てみたい、そういう人たちと関わりたい、つながりが増えたらいいなと思って。おもしろいことがいっぱいできそうな気がしたので。
――実際にnextに登録してみてどうですか?
遠山:昨年登録したばかりですが、思ったより県内にいろんなジャンルで活動されている作家さんがいて新鮮です。県内に無料で貸し出しされているスペースがあるという情報があるので、また活用できたらいいなと思います。
前島:サイトを見るのが楽しいです。人に勧めやすくていい感じです。サイトをみてインスタレーションをやっている人も多いので、そういう人達と交流できたらおもしろいだろうなと思います。
――今後の目標を教えてください。
遠山:今年はグループ展へいくつか参加予定です。継続して作品をつくっていくこと、年に何回か発表を続けていけたらいいなと思います。その中でいろんな人と関わることで変化し、作風も変わりつつ楽しんでいければいいです。
前島:具体的な目標はないですが、この子たち(作品)に埋もれたいなと思います。私が保つ限りつくれればいいな、と。
(取材:「信州art walk repo」取材部 西村歩・中村睦子・竹村里香・伊藤羊子)
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