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美術館に行かないのがもったいない理由

シンデレラは、かぼちゃの馬車がやってくるまで、自分が持っている「美しさ」という自らが持つ価値に気付きませんでした。もし、かぼちゃの馬車がやって来なければ、いつまでも狭い世界の中で、みじめな人生を送っていたかもしれません。

サルバドール・ダリ《ポルト・リガトの聖母》という作品をご存知でしょうか?
2016年に東京、京都で開催された『ダリ展』でも一番人気だったとか。  

平日の昼間、コレクションを展示している「常設展示室」を巡回していると、誰もいない展示室で《ポルト・リガトの聖母》を前にして、背筋がゾッとする、ということがあります。(現在、福岡市美術館は休館中ですので、休館前の話です。)

天才ダリが、科学の進歩への期待と核兵器の恐怖に怯える世界の中で、愛妻ガラを聖母に見立てて描いた、世紀の大作。これが、自分の目の前にある。いつでも見たいときに見られるところに、ある。しかも、この部屋には、今、(監視員を除き)自分ひとり…。それに気づいちゃったら、鳥肌が立ち、足がすくみますよ〜。

(福岡市美術館の名誉のために言っておきますと、平日の昼間とはいえ、さすがに開館時間中に「自分ひとり」という状況になることは滅多にありませんが。)

このダリの作品は福岡市美術館の所蔵品の中でも間違いなく「スター作品」と呼んでいいものなのですが、こんな名品を福岡市美術館が持っているということを知っている福岡市民は、そう多くはいません。私の感覚では、1,000人にひとりくらいでしょう。かくいう私も、恥ずかしながら3年前に福岡市美術館に配属されるまでは、知りませんでした。いや、見たことくらいはあったかもしれませんが、「私たちの財産である」と認識はしていませんでした。

そう、この世紀の名品は、福岡市民の、誇るべき財産なのです!福岡市美術館という「宝箱」で大切に保管されている「宝物」なのです!(「いや、人類の財産だ!」という見方もありますが…)

「電力王」と呼ばれた松永安左エ門(トップ画像の、野々村仁清《色絵吉野山図茶壺》は松永コレクションのひとつ)など、往年の美術コレクターは、日々、所蔵品を愛で、時に癒され、時に刺激され、人生の糧にしていたのだろうと思います。

時を経て、誰もがその恩恵を得られるよう、1970年代頃から全国各地で公立美術館・博物館の建設が行われ、住民共有の財産として美術品を収集・展示され始めました。 かつて、ほんのひと握りの富豪しか享受できなかった「最高級の美術品を、好きなときに愛でる」という体験が、私たち誰もが享受できるようになったのです!

しかし、今や自分たちの「宝物」の存在すら知らない住民がたくさんいる。いや、「宝箱」たる美術館がどこにあるかすら知らない住民も少なくない。それって、すごくもったいないですよね!

残念ながら、「宝物」が詰まっている美術館という「宝箱」のある場所までは、ある日突然、「かぼちゃの馬車」がやってきて、連れて行ってくれたりはしません。自分の足でその場所まで行くしかありません。

いつまでもやって来ない「かぼちゃの馬車」を待つのではなく、自分が住んでいるまちの美術館に行ってみませんか。美術館というという「宝箱」を開け、そこにある自分たちの「宝物」を眺めてみませんか。それらに癒され、刺激を受け、人生の糧にしませんか。
まちに住むすべての人が、そんな風に、自分たちの「宝物」を繰り返し眺め、愛し、人生に活用して欲しいと思います。

ちなみに、福岡市美術館にお越しいただけると、馬車仕様ではありませんが、草間彌生さんの「南瓜(かぼちゃ)」がお出迎えしますよ〜(o^^o)
(とはいえ、福岡市美術館は現在休館中。2019年3月のリニューアルオープンをお楽しみに!)

サルバドール・ダリ《ポルト・リガトの聖母》ほか、福岡市美術館の近現代美術のコレクションは、現在、巡回展示中です!『モダンアート再訪−ダリ、ウォーホルから草間彌生まで 福岡市美術館コレクション展』お近くの方はぜひこの機会に自慢のコレクションをご覧ください!

埼玉県立近代美術館 2018年4月7日(土)-5月20日(日)

広島市現代美術館 2018年6月2日(土)~8月26日(日)

横須賀美術館 2018年9月15日(土)~11月4日(日)

また,そのほかの福岡市美術館の名品コレクションは,次のところでその一部がご覧いただけますので,どうぞ探してみてくださいね!

松永コレクションをはじめとした古美術 九州国立博物館(4階 文化交流展示室)

旧福岡藩主黒田家伝来の資料 福岡市博物館

アジアに関連する作家の作品 福岡アジア美術館

以上、福岡市美術館“中の人”がお届けしました。