コロニアル風焼そばパン
脳味噌が煮えてしまいそうな暑さが続いてる。
プールサイドでひと息つくことも、海辺のリゾートでのんびりと過ごすことも叶わない夏。しかしながら妄想の旅なら誰に束縛されることもなく、自在に好きな場所へと出かけられる。
本棚には、そのきっかけになりそうな背表紙が並んでいる。「旅のラゴス」筒井康隆の隣に、「ラオスにいったい何があるというんですか?」村上春樹を見つけた。ルアンパバーンの街、確か僕は村上春樹を読んだ後に行ったことがあった。
そんな記憶と送られてきた食材が結びついて編み出された、思いつきのレシピを妄想の記憶とともに書いてみることにした。
ソウマファームから送られてきた野菜は新鮮でおいしいものばかりだった。だから間をあけずに2度頼んでしまった。どちらにもたっぷり入っていたのがコリアンダー (香菜)だった。僕は香菜が大好きでメニューにあれば頼んでいるが、苦手な人も多い食材のひとつだろう。家族は苦手だと言うので、この大量の香菜を一人で食べることになる。マルディグラのパクチーサラダ(香菜の爆弾)のような味つけができたなら、ペロリと食べられてしまうのだと思うが、そこが難しい。なかなかプロのつくるような味わいにはならない。結果、いろいろな料理に使ってみる。馬刺しに合わせてみたが、これはなかなかいける。鶏肉や豚肉とも相性がいい。ちょっと辛味をたしてあげれば、エスニックな味わいの料理になる。一緒に送られてきた新玉ねぎと一緒に食べるのもよさそうだ。
そう、あれはラオスに旅したときのことだった。僕らは取材でルアンパバーンに行ったんだ。小さな街だったけれど、そこにはAmantakaがあって、そこに滞在する記事をつくるために訪れていた。一週間ぐらい居たかな、4日ほどでほぼ撮影は終えて、カメラマンの福ちゃんは朝から屋台のコッペパンみたいなものを食べていた。街の中には食べる屋台みたいなのがいくつもあった。ナイトマーケットでもたくさん出ていたけれど、ハエも気になったり、僕はちょっと苦手だった。残り2日間は、自由に過ごそうということになって、僕はコーヒーを飲みに行くことにして、街のタクシー (三輪車)にぼったくられながら、ホテルで聞いたパン屋さんへと向かった。Le Benton eafe, Frenek Bakery というところがあって、そこでコーヒーとクロワッサンを買った。この街にはパン文化もちゃんとあって本格的なバゲットやパン・ド・ミなんかも焼いていた。すらっとした背の高い男の子が、ハードパンを一本買っていたのが気にり見ていたら、 目が合ったのであいさつした。
彼の名前はトランといって、 ベトナム系フランス人だと言っていた。「そのパンはどんな料理と食べるの」と聞いてみた。するとトランは「今日はヌードルと一緒に食べるんだよ。僕の家はすぐそこだからよかったらおいでよ」と笑った。時間があったから、トランの家に行くことにした。お父さんとお兄さんは仕事に出かけていると言った。やはりすらっとしたお母さんが出迎えてくれて、どうぞと言われるままにおじゃましたんだ。パンの話をして盛り上がっていたら、お母さんが「ヌードルを作ってあげるから食べていきなさいよ」と言い出した。「うれしい、 ありがとう」と返して、ごちそうになることに。 ついでに、 せっかくだから作り方も教えてほしいと頼んでみたらOKだった。 もともとクアミーっていう焼きそばみたいな料理があるそうなんだけど、ラオス人は辛いのが大好きで、すごく辛くしちゃうらしい。でも自分たちは、ハノイの出身で長い間フランスにも居たので、もう少し違った味つけが好きなんだと言う。同じエスニックでも、もう少しエレガントな感じらしい。 ヌードルは玉子麺って言っていたと思う。
食感は日本の蒸し麺みたいな感じだったかな。材料は、玉ねぎ(紫だったかも)とパクチーだけ。中華鍋みたいなフライパンに油をひいて玉ねぎを炒めて、火が通ったら麺を入れて、 魚介のストックを80ccくらい入れる。 麺にスープを吸わせて焼きそばみたいにするんだ。味つけは、 ニョクマム(ナンプラー)を大さじ1杯に塩と白コショウを少々。それを皿に取って、上にドバッとパクチーをのせる。パンは端っこのところをスライスして、軽くトーストして、ヌードルに添えた。僕はフォークで焼きそばを食べながら、ときどきパンをちぎって口に入れていたけれど、トランは器用にパンで焼きそばを挟んで食べていた。日本には、コッペパンにソース味の焼きそばを挟んだ焼きそばパンっていうのがあるんだって教えてあげたら「変なの」っていうから「これけっこう似てますけど」って言って笑った。
ワハハハハ、と自分の笑い声で妄想から現実へと戻ってきた。作ってみると誰もがそう思うはずなのだ。「これ、どこに行ったときに食べたっけなぁ」と。そしてナンプラーの香りがアジアの国々へと心を連れていってくれるのだ。僕の場合は、なんとなくルアンパバーンにたどり着いたのだった。 妄想の中で出会ったトランという少年の家で食べさせてもらった妄想の旅の記憶として頭の中に記されている。
ものすごくかんたんに味わいたければ、マルちゃん塩焼きそばで試してみればいいと思う。3玉入っているから、ひとつはノーマルに、もうひとつはナンプラーをちょいたしして、残りのひとつは激辛を試すもよし、しょっつるやいしるを試すもよしだ。焼きそばパンたちは、 どこかコロニアルな雰囲気を漂わせながら、 いずれかの国へと誘ってくれるはずだ。
コロニアル風焼そばパンのレシピ
Sandwich aux nouilles sautees a la colonial という名前は、旧友・安部高樹さんに付けてもらった。もしどこかの国のメニューがあったら、その料理を見てみたい。本文にも記したが、マルちゃん焼きそば塩がもっとも手っ取り早いが、下記のような材料も、ぜひお試しいただきたい。
[材料]
焼きそば(蒸し麺) 1玉
新玉ねぎ(玉ねぎでもOK) 1 / 4 〜 1 /6個
香菜(パクチー) 適量
鰹節(魚介のストックがない場合は鰹出汁で)
食パン(もちろんバゲットでもOK。お好みで)
オリーブオイル、ナンプラー、塩(コショウもお好みで) 適量
[つくり方]
1 鍋にオリーブオイルを敷き、スライスした新玉ねぎを入れて炒める。
2 火が通ってきたら、焼きそばを入れて魚介のストック70ccを入れて蒸し焼きにする。
3 麺が解れ、火が通ってきたらナンプラー小さじ2、塩で調味して出来上がり。
4 皿に盛り付けて、たっぷりの香菜とトーストをのせて供する。
※お好みでコショウをかけて、パンに挟んで召し上がれ。
※辛いのがお好きなら、1に鷹の爪や青唐辛子などを加えるのもいい。
香菜は外せない。合わせる野菜は、新玉ねぎ以外にもキノコ類などもおいしく食べられる。
遠藤一樹(えんどうかずき)
株式会社イーター 代表取締役
プロデューサー、編集者、コピーライター、ライター
1961年、横浜市生まれ。桑沢デザイン研究所卒業後、デザイナーから編集者となる。『ホットドッグプレス』編集部を経て、いとうせいこう氏らとプロダクションを設立し、取締役を務める。多くの雑誌・書籍制作、広告制作を経て、1996年に制作プロダクションEater(www.eater.jp)を設立、代表取締役に。雑誌『asayan』を立ち上げ編集し、後に男性ファッション誌『HUGE』をプロデュースして創刊から10年間(2013年12月まで)制作を担当する。現在は、コミュニケーションツールやカタログ制作、ブランディングなどに携わる。もちろん編集と執筆も日々続けている。1994年から担当した丸元淑生氏の料理書、書籍は7冊。食に対する考えとライフスタイルに大きな刺激と影響を受け現在に至る。TCC会員(東京コピーライターズクラブ/1998年新人賞受賞)。
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