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生タラの傑作料理〜タラのグラシオサ風〜

僕自身の旅と食と人との出会い、巡り会ったモノのことを 記すことから始めてみることにしたART OF LIFE。 少し先まで書きすすめてみたのだけれど、面白いこと、 興味のあることに、次から次へと出くわす毎日が目の前にある。 自分の中の旅と食の「引き出し」を、自在に開けたり閉めたりしながら、 いろんな季節の「旅と食のはなし。」を書いてみたい。 そして先日、ある方から「お料理のレシピ、マルゲンさんでしたっけ?」と聞かれて、 2秒くらい反応できなかったのですが、 ↑「マルモトヨシオ」と読みます。 MARUMOTO式料理レシピとでも記した方がいいのかな。 料理をつくりながら考えてみよう。

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 僕にとって記憶に残るタラの料理の代表選手が、この「タラのグラシオサ風」である。その香りと味わいは、一度食べたら生タラの季節が楽しみになる料理なのだ。最近つくったのは、今年の5月2日だ。食材や料理のメモが残っていた。この日は、北海道にいて小樽の南樽市場に行っている。ししゃもやつぶ貝、帆立貝と一緒に生タラを買った。その夜に、「タラのグラシオサ風」をつくったのだが、あまりのおいしさに近所のS先生に電話をして、半分の料理を鍋ごと届けることにした。合気道指導、整体指導などをされているS先生とは27年を超えるおつきあい。小樽によく来るようになったのも、震災後にS先生が拠点を東京から小樽に移して、そこに遊びに行ったのがきっかけだった。

 家にうかがうと、S先生は仕事をしていて、食事をまだとっていないということだった。札幌からお嬢さんが戻られたら一緒に召し上がってくださいと、鍋ごと置いてきた。「もし余ったら、翌日ご飯を入れてリゾットみたいにして食べるのもおいしいですよ。鍋は今度とりに来ます」と付け加えた。

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 翌日、鍋を届けてくれたお嬢さんのKさんに、「味はどうでした」と聞くと、「残念ながら、先生が一人で食べちゃいました」と笑っていた。「そうですか、また今度つくりますね」と約束したので、冬が近づいて市場で生タラを見つけたら、ぜひつくってみようと思っている。
 この料理の圧倒的な魅力は、出来上がってふたをとったときの香りにある。もう、その時点で「おいしい」と確信してしまうほどなのだ。丸元先生の著書の文末には、「応用範囲が広い。ブリでもおいしく出来る」とあるのだが、未だ試したことがない。長い間つくってきたレシピだけど、ふたをとったときのあの香りは生タラに限る、という思いが強いからなのだろう。今年はその概念を外して、一度つくってみようと心に決めている。この料理は、他の材料の調達が楽だし、プロセスも少ないので、構えなくてもすぐにつくることができる。よい魚(やはり生タラかな)と出会ったら、即思い出したいレシピのひとつだ。


丸元淑生 オリジナル・レシピ

タラのグラシオサ風
(丸元淑生 続新家庭料理 家族の健康を守るヘルシー・クッキング12章 暮らしの設計192 1989年 中央公論社刊より)

 生のタラが手に入る季節、これくらいわが家の食事を充実させてくれる料理はない。スペイン領カナリア諸島のグラシオサという小さな島の料理だが、まさにタラ料理の白眉である。びっくりするくらいおいしく、栄養も満点の料理が実にかんたんにできてしまうのだ。
 つくり方の要点。タラは皮と骨をとり、食べやすい大きさに切って、さっと湯にくぐらせておく。野菜はすべて輪切りにする。使う野菜は玉ネギ、トマト、ジャガイモ、ピーマン。この四つは欠かせない。
 鍋にオリーブ油をしき、トマトを並べる。そのつぎに何を並べるかは自由。ただ最後をジャガイモにする。つまり、トマトとジャガイモの層のあいだに、他の材料の層をつくるわけだ。そして各層に塩と白コショウをふっておく。
 トマトを一番下にするのは、トマトから出る汁で焦げつくのを防ぐためである。一番上にジャガイモを置くのは、ジャガイモの火の通りが最も悪いからで、そのジャガイモに火が通ったときにはちょうどいい具合に他の材料にも火が通っているという工夫なのである。
 普通の鍋では焦げつくので、従来はキャセロールでしか出来なかったのだが、ステンレス多層構造鍋だとうまくいく。ふたをして極弱火にかけ45分間放っておくだけでよい。ふたをとるとなんともいえず食欲をそそる匂いがたちのぼり、もう料理は出来ている。
 このレシピのすぐれた点は、魚と野菜が見事な味のまとまりを見せるところで、食後に栄養的に満ち足りた充実感が得られる。なお、使う魚はタラに限るというものでもないので、応用範囲が広い。ブリでもおいしく出来る。

[材料]
生ダラ(切り身)——4〜6切
トマト——4〜6個
玉ネギ——2個
ジャガイモ——4個
ピーマン——2個
パセリ——2〜3茎
セロリ(なくても可)——1茎
調味料 塩、白コショウ

[つくり方]
1.必ず生ダラ(塩をしていないもの)を使う。鮮度のよいものは白くなくこういう色をしている
2.皮と骨をとり、食べやすい大きさに切って、さっと湯をくぐらせておく
3.パセリはみじん切り、他の野菜はすべて輪切り。オリーブ油をしいてトマトを一番下に並べる。その上に何を並べるかは自由。各層に塩と白コショウをふる
4.一番上にジャガイモを並べる
5.ふたをして45分間、極弱火にかけて出来上り

野菜からこんなにジュースが出るが、極弱火でないと焦げる。輪切りの厚みはジャガイモを1〜2ミリ、玉ネギ1ミリ、ピーマン3ミリ、トマト5〜6ミリ、セロリ2ミリが適当

※ こちらのレシピは、すべて著作権者の許諾を得てご紹介しています。

VOL.04 09TH.SEP.2016初出/1ST.JULY.2020 加筆

遠藤一樹(えんどうかずき)
株式会社イーター 代表取締役
プロデューサー、編集者、コピーライター、ライター

1961年、横浜市生まれ。桑沢デザイン研究所卒業後、デザイナーから編集者となる。『ホットドッグプレス』編集部を経て、いとうせいこう氏らとプロダクションを設立し、取締役を務める。多くの雑誌・書籍制作、広告制作を経て、1996年に制作プロダクションEater(www.eater.jp)を設立、代表取締役に。雑誌『asayan』を立ち上げ編集し、後に男性ファッション誌『HUGE』をプロデュースして創刊から10年間(2013年12月まで)制作を担当する。現在は、コミュニケーションツールやカタログ制作、ブランディングなどに携わる。もちろん編集と執筆も日々続けている。1994年から担当した丸元淑生氏の料理書、書籍は7冊。食に対する考えとライフスタイルに大きな刺激と影響を受け現在に至る。TCC会員(東京コピーライターズクラブ/1998年新人賞受賞)。


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