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たぶん一番たくさんつくっているスープ・レシピ

数日前、リビングでつけっぱなしになっていたテレビで、
医師がファイトケミカルは重要であると話していた。
健康であるために、病気を遠ざけるために、その植物化学物質が大事だと話し、
ご自身の食生活の一例を挙げ開陳していた。
その中に、カボチャとにんじん、玉ねぎ、キャベツを煮たスープがあった。
チラッと見ただけなので、どのようにつくっているのかは確認できなかったが、
同じ材料で自己流の野菜のスープをつくって、3日間食べ続けた。
最終日は、パリで入手したカレーパウダーとガラムマサラで
即興のカレースープにして食べてみた。一期一会の即興の料理には楽しさがある。
そして完成されたレシピは、つくるたびに感動的なおいしさが味わえる。

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 僕がこのスープを最初につくったのは、1990年だったと思う。その年に僕は結婚したのだけれど、それを機に家にビタクラフトの鍋がやってきて、それと同時に丸元先生のレシピも入手したのだった。このレシピは、さらに前の「丸元淑生のクック・ブック」(文藝春秋刊)でも紹介されているが、本に書かれた言葉通り「完成されたレシピなので誰でもおいしく作ることができる」スープ・レシピなのだ。

 元はイタリア料理でZuppa di lenticchieという名前で、いまならネットで検索すれば様々なレシピを見たり読んだりすることができる。意外に汁っ気の少ないものもあったり、微妙な材料の違いも楽しかったりするが、僕はこの丸元レシピが一番気に入っている。
 ちょうど10年前にいま住んでいる家に引っ越して、キッチンが新しくなった機会に丸元先生と奥様のサナエさん、写真家のYさん、友人のYさん、美容家のCさんらをお招きして、このスープをお出ししたことがあった。先生はとても喜ばれ「きっとこのスープをつくっているだろうと思った」と破顔した。師匠から一応「合格」をもらったこのスープは、シンプルなレシピゆえ調味する塩の量がとても気になる。お招きしたこの日にレシピを一点だけ変えてスープをつくった。マカロニを別の鍋で茹でてから、スープに合わせて仕上げた。こうすると、マカロニが吸う水分を計算せずにスープをほぼ完成させておけるので、最後の仕上げがとても楽になる。塩加減が決まりやすい。師匠はその説明を聞いて「なるほど」と笑ってワインを飲んだ。ワニブックスから2007年に刊行された『ファイトケミカルが健康寿命を延ばす 短命の食事 長命の食事 丸元淑生』に掲載されたレンティル・スープのレシピは、材料はトマトの数が2個に、手順はコンキリエを別の鍋で茹でて加えるという内容に変更されていた。それを読むとこの日の食事を思い出す。日本のトマトだとイタリアのものよりも味わいや酸味が淡白なので2個にしたのだろうか。そこのところは、飲んだワインとともに記憶の彼方へと消えてしまった。いずれにしてもよく先生がいっていた「名曲と呼ぶにふさわしいスープ」だと思う。

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 過日、このスープをまたつくった。一緒に、白身魚のカルパッチョやイカフライ、空豆とパルミジャーノもつくって食べてみた。うーん、うまいと自画自賛。マカロニは、その時あったショートパスタを使っている。
 その翌朝、味噌汁の代わりに、余ったレンティルのスープをお弁当に持っていった。ご飯にも結構合う。残っていたマカロニが水分を吸ったり、豆が煮崩れて、前の晩の味わいとは少し違ってくるが、それはそれとしてうまいスープとして食べられるのだ。

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丸元淑生 オリジナル・レシピ

レンティルのスープ
(『丸元淑生 続新家庭料理 家族の健康を守るヘルシー・クッキング12章』 中央公論社 1989年刊)

 レンティルは直径5ミリくらいの平たい豆で、ヒラ豆とも呼ばれている。レンズ豆ともいう。色は、緑、茶、赤といろいろある。
 この豆は小豆同様、まったく水で戻す必要がない。すぐにやわらかく煮える。だからかんたんにスープができる。このスープはイタリア料理の傑作のひとつである。完成したレシピなので誰が作っても失敗がない。
 ここではセロリの葉を香りつけ程度に使ったが、たくさんある場合はそれでとったストックで豆を煮たほうがよい。
 マカロニは水を吸うので、煮詰まりすぎている場合は湯を足して調味しておく必要がある。

[材料]
レンティル——1カップ
セロリ——2茎
玉ネギ——2個
トマト——1個
ニンニク——1片
マカロニ——1.5カップ
調味料 塩、黒コショウ

セロリは薄く小口に切る。玉ネギは薄くスライス。ニンニクはつぶす。トマトは粗く切っておく。

[つくり方]
1.豆を洗って8カップの水を加え、弱火で煮る
2.沸騰したらセロリの葉を入れる
3.セロリの葉は入れて30分間で出しておく。この茎は棄てずに味噌汁の実に使う
4.ニンニクはつぶす
5.別の鍋でニンニクをオリーブ油で炒める
6.ニンニクを少し焦がしてから玉ネギを入れる
7.玉ネギがしんなりしてかさが減ってきたら、セロリを入れる
8.セロリに火が通ったらトマトを入れる。少し炒めて、
9.豆を煮ていた鍋をこちらに移す
10.ふたをして弱火で煮る。その間ときどきふたをとってかき混ぜ、トマトの皮を除く。トマトが煮くずれ、豆がやわらかくなったところで、塩と黒コショウで調味する
11.マカロニを入れ、
12.マカロニが煮えたら出来上り

※ こちらのレシピは、すべて著作権者の許諾を得てご紹介しています。
※ 引用の文章で、原文に記載されている「ページ数」を一部割愛しています。

VOL.05 13TH.SEP.2016初出/01ST.JULY.2020 加筆

遠藤一樹(えんどうかずき)
株式会社イーター 代表取締役
プロデューサー、編集者、コピーライター、ライター

1961年、横浜市生まれ。桑沢デザイン研究所卒業後、デザイナーから編集者となる。『ホットドッグプレス』編集部を経て、いとうせいこう氏らとプロダクションを設立し、取締役を務める。多くの雑誌・書籍制作、広告制作を経て、1996年に制作プロダクションEater(www.eater.jp)を設立、代表取締役に。雑誌『asayan』を立ち上げ編集し、後に男性ファッション誌『HUGE』をプロデュースして創刊から10年間(2013年12月まで)制作を担当する。現在は、コミュニケーションツールやカタログ制作、ブランディングなどに携わる。もちろん編集と執筆も日々続けている。1994年から担当した丸元淑生氏の料理書、書籍は7冊。食に対する考えとライフスタイルに大きな刺激と影響を受け現在に至る。TCC会員(東京コピーライターズクラブ/1998年新人賞受賞)。


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