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小さな魚たちの昼食

旅の記憶は、写真だけとは限らない。
僕の家の冷蔵庫には、いつも小さなコラトゥーラ・ディ・アリーチの瓶が入っている。
この調味料は、僕の旅の記憶とつながっている。
2017年の9月、僕はアマルフィに居た。
サンタ カテリーナに泊まり、アマルフィの街を散策した。
その記憶とTVで観たアマルフィのチェターラを取材した番組の映像が重なりながら、頭の中にしっかりと残っている。冷蔵庫を開けて、この瓶を手に取るたびに、またあの青い海を見たい衝動に駆られる。

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 5月も最終週になろうかという週末のこと。ようやく天気も戻って気持ちのよい日曜日になった。昨日、散歩のときに買っておいたしらすを使ってパスタを作ろうと思っていた。ぷくっとした釜揚げしらすはシンプルに、ペペロンチーノに入れてみるのがいいだろう。冷蔵庫をのぞいてみると、ちりめんじゃこもあった。ふと、残りわずかなコラトゥーラ・ディ・アリーチが目に止まった。
 このコラトゥーラは、イタリアのアマルフィ海岸の漁師町「チェターラ」で作られているかたくちいわしの魚醤で、旨味のある発酵調味料だ。2017年の夏の終わりにアマルフィを訪れた際に街のみやげもの屋でも特産品として、たくさん見かけた。そのとき泊まっていたホテル・サンタ カテリーナで、またホテル近くのレストランでうまい魚介をたくさん食べた。どの料理を振り返っても、シンプルに作られているように思えた。果たしてコラトゥーラが使われていたものがあっただろうかと思い出してみるのだけれど、その答えは見つからない。ただ、この瓶を見ると必ずあの美しい海岸線とホテルからの景色が頭に浮かぶ。

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 食材を探して、トマトとかぶとたこのサラダにちりめんじゃことイタリアンパセリを混ぜ入れたサラダをつくってみた。味付けは、オリーブオイルとバルサミコ酢、塩、コショウにレモンを少々。パスタはリングイーネがあったので、これを使うことにした。フライパンにオリーブオイルを入れて、赤とうがらしを半分に折って入れ、スライスしたにんにくも入れる。パスタは、鍋の湯に塩をひとさじ入れたら味をみてから茹で始める。アルデンテで仕上げたいから6分にしよう。フライパンのにんにくが色づき始めたら、ひとつかみのしらすを入れて少しだけ火を通す。パスタが茹で上がるまでに、大葉を5〜6枚出してきて、さっと洗ってよく水を拭き取ってから刻んでおく。フライパンにはコラトゥーラを小さじ2杯くらい入れて、和えておく。パスタが茹で上がったらフライパンに移して少し加熱する。このとき、しらすをもうひとつかみ。最初のひとつかみと熱の入り方が違って味わいが複雑になることを期待してみた。ゆで汁も70ccほど入れて水分がなくなったら仕上げにオリーブオイルとレモン少々を振って、皿に盛りつけてから大葉をバサッと乗せて出来上がりだ。

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 アマルフィにも負けない青い空を眺めながら、ビールでパスタを食べている。窓の下に広がる真っ青な海を想像しながら、ロゼワインを開けた。サラダの中のトマトの酸味にちりめんじゃこの小さな味が加わって、漁港の近くのレストランに居るような気分で、たくさんの小さな魚たちのランチをたいらげた。
 天気のいい休日を惜むように、もう一杯ロゼワインをグラスに注いで、バゲットを切り、外を眺め直した。

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トマトとかぶのたこのサラダのレシピ

 冷蔵庫の野菜室にある野菜や材料でつくるサラダのレシピは、あくまでも参考程度の内容だ。おいしいかなと、組み合わせてみる日々のサラダのひとつ。

[材料]
トマト 1個
かぶ  1個
ちりめんじゃこ 大さじ1
たこ 60gくらい
イタリアンパセリ 少々
オリーブオイル、バルサミコ酢、塩、コショウ 適量

[つくり方]
1.トマト、かぶ(皮をむく)、たこをそれぞれ食べやすい大きさに切ってボウルにいれる。
2.オリーブオイルで和えて、ちりめんじゃこを加え、バルサミコ酢、塩、コショウで調味する。
3.刻んだイタリアンパセリを加えてまぜ和わせたら、盛りつけて出来上がり。

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小魚たちのパスタ

この日は、シラスがあったので、コラトゥーラ(かたくちいわしの魚醤)と合わせて、たくさんの小魚をいただくパスタにした。この組み合わせは、旬の葉野菜も美味しく食べることができると思う。

[材料]
しらす 20g〜30g(お好みで)
大葉  5〜6枚
リングイーネ(パスタ) 150g(2人分)
にんにく 1片
赤唐辛子 1/2本
コラトゥーラ 小さじ2杯
オリーブオイル、塩 適量
コショウ、レモン(お好みで)

[つくり方]
1.鍋にオリーブオイルを入れ、弱火で刻んだにんにく、赤唐辛子(種を抜いた1/2本)を入れて加熱する。
2.香りが出てきたら、しらすの半分の量を入れておく、少し火が通ったら火を消しておく。
3.大きな鍋に湯をわかして塩を入れて味をみる。やや強めの塩を感じるくらい。
4.リングイーネを入れてアルデンテに茹であげる。
5.パスタを茹でている間に大葉を刻んでおく。
6.鍋にコラトゥーラ 小さじ2杯を入れて、強火で加熱して、パスタの茹で汁70mlを入れ、茹で上がったリングイーネを入れて、残りのしらすを入れたら加熱しながら和えて出来上がり。仕上げにオリーブオイルを。コショウとレモンはお好みで。皿に盛って、大葉をかけて供する。

VOL.2 17TH.AUG.2020

遠藤一樹(えんどうかずき)
株式会社イーター 代表取締役
プロデューサー、編集者、コピーライター、ライター

1961年、横浜市生まれ。桑沢デザイン研究所卒業後、デザイナーから編集者となる。『ホットドッグプレス』編集部を経て、いとうせいこう氏らとプロダクションを設立し、取締役を務める。多くの雑誌・書籍制作、広告制作を経て、1996年に制作プロダクションEater(www.eater.jp)を設立、代表取締役に。雑誌『asayan』を立ち上げ編集し、後に男性ファッション誌『HUGE』をプロデュースして創刊から10年間(2013年12月まで)制作を担当する。現在は、コミュニケーションツールやカタログ制作、ブランディングなどに携わる。もちろん編集と執筆も日々続けている。1994年から担当した丸元淑生氏の料理書、書籍は7冊。食に対する考えとライフスタイルに大きな刺激と影響を受け現在に至る。TCC会員(東京コピーライターズクラブ/1998年新人賞受賞)。

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