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和風カルド・ヴェルデ 〜キャベツとじゃがいものスープ考〜

五感とともに記憶を旅する。

どこかで見た風景や、出会ったかたちを目にしたときに、旅の記憶やあじの思い出が甦ることがある。
香りや手触りも含めて、かかわった感覚が多いほど、それは鮮明に現れる。
時間とともに再編成された自分の記憶を辿ってみることは面白い。曖昧な記憶が作り出す別世界へ、もう一度出かけることができるからなのだろう。
いまだから出来る自在の旅へ出かけて見たいと思う。

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 2016年初頭、暖冬のせいなのか、とても立派なキャベツが1玉178円で山積みにされていた。おいしそうだったので買って帰ったのだけれど、さてどうやって食べようかとキャベツを眺めていて、『丸元淑生のスープブック』(講談社刊)に掲載した「キャベツとじゃがいものスープ」を思い出した。このレシピは、ポルトガルのスープ「カルド・ヴェルデ」をベースにして、丸元先生がつくったオリジナルのレシピだ。丸元料理のフィロソフィーのひとつである「魚のストック」を使い、豊かな味わいになるスープだった。キャベツを見つけた日、あいにく魚のストックの準備がなかったのだが、思いついたらスープが飲みたくなってしまった。魚のストックのかわりに「昆布だし」を使ってつくってみることにした。

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 カルド・ヴェルデは、去年の夏の終わりに訪れたポルトガル・リスボンのレストランで味わった。ポルトガルのレストランのスープには、ケールも使われていて、じゃがいもと玉ねぎでつくられたスープの中に細かく切られたグリーンの野菜、ケールが見えている。それとスライスしたチョリソーが入っていた。食べたのはリスボンの「o Martinho da Arcada」という観光客の多い店だったが、焼いたイワシがおいしかった。必ずついてくるじゃがいもも、とてもおいしく感じた。スープにも期待したのだけれど、塩がキツく感じたのはちょっと残念。でも、このスープを飲んだおかげで丸元レシピの「キャベツとじゃがいものスープ」の味わいを思い出すことができた。

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 さてつくろう、と思って自宅の野菜室をのぞいてみるとじゃがいもは1つだけ、あとは小さな新じゃがだけだった。最善が尽くせない時は次善を目指そうということで、じゃがいも3個分になるように計量した新じゃがを洗い、そのまま蒸し器に突っ込んで、1つあったじゃがいもの皮をむいて切り4カップの昆布だしの鍋に。玉ねぎはスライスして、じゃがいもを入れる前に鍋に入れておく。新じゃがが蒸し上がったところで、次々に皮を剝いて切って鍋の中に放り込んだ。じゃがいもがやわらかくなったところで、鍋にバーミックスを入れて一気に粉砕すると、おいしそうなじゃがいものスープになった。塩と黒コショウで調味してから、グレイターでおろしたキャベツを入れてグリーンが深くなり火が通ったら、出来上がり。煮込み過ぎない方がおいしい。魚のストックでつくるキャベツとじゃがいものスープとは少し違った、やや繊細な味わいの和風カルド・ヴェルデとなったのだ。

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丸元淑生 オリジナル・レシピ

キャベツとじゃがいものスープ
(『丸元淑生のからだにやさしい料理ブック スープ・ブック』 1999年 講談社刊より)

 ポルトガルでよく作られるキャベツとじゃがいものスープ“カルド・ヴェルデ”の変形である。キャベツとじゃがいもの量は“カルド・ヴェルデ”とまったく同じだが、たまねぎが1個加わっている点と水ではなく魚のストックで作ろところが異なっている。

 魚のストックを使うことで作り方が非常にかんたんになり、味も安定して、だれが作ってもまず失敗がない。ほとんど手間がかからず、じゃがいもを煮る時間でできてしまうけれども、キャベツの加熱が過ぎないように注意すれば、感動的な味になる。最もおいしいキャベツの食べ方の一つで、傷んだ胃にはとくによいスープである。

[材料]
キャベツ——300g
じゃがいも——3個
たまねぎ——1個
魚のストック——5〜6カップ
塩、ブラック・ペッパー 適量

[つくり方]
1.魚のストック5〜6カップを鍋にとりふたをして弱火にかけておく。
2.じゃがいもの皮をむき2〜4つに切って入れ、たまねぎを粗く切って入れ、ふたをして弱火の加熱をつづける。
3.じゃがいもに竹串が通ったら、たまねぎと一緒にブレンダーにかける。
4.鍋に戻して塩とブラック・ペッパーで調味する。
5.ブラック・ペッパーは入れすぎないよう味をみながら入れる。味が調ったらふたをして弱火の加熱。
6.キャベツをグレイターでおろす。
7.強火にしてキャベツを入れ、キャベツのグリーンが深くなったところで出来上がり。すぐに火を止める。

魚のストックのとり方
(丸元淑生のシンプル料理② さらに進化した健康メニュー&レシピ集 1995
年 講談社刊より)

[つくり方]
1.切り落とした身と頭、骨はすぐに煮出してストックをとる。
2.湯が沸いてきたら魚を入れる。
3.魚の鮮度がよいとアクはあまり出ない。
4.最初に出たアクは玉杓子でとり、その後のアクは網杓子でとる。
5.30分間くらい魚を煮出してから、野菜くずがあったら入れる。切り端や古くなったセロリなど。野菜を入れて30分で濾してとる。

※ こちらのレシピは、すべて著作権者の許諾を得てご紹介しています。

アレンジ・レシピ

キャベツとじゃがいものスープ
[材料]
じゃがいも 160g(普通のじゃがいも約3個分)
キャベツ 300g
玉ねぎ 1個
昆布だし 4カップ
塩、黒コショウ 適宜

[つくり方]
1.鍋に4カップの昆布だしを入れる。
2.玉ねぎを薄くスライスして1の鍋に入れる。
3.皮を剥いたじゃがいもを適当な大きさに切って2の鍋に入れる。
※ 今回は新じゃがも使ったので皮をむくために先に蒸しました
4.じゃがいもに火が通ったら、バーミックスで粉砕する。
5.キャベツをグレイターでおろして4の鍋に入れる。
6.キャベツに火が通り、塩と黒コショウで調味して出来上がり。

VOL.02 2ND.SEP.2016初出/26TH.JUN.2020 加筆

遠藤一樹(えんどうかずき)
株式会社イーター 代表取締役
プロデューサー、編集者、コピーライター、ライター

1961年、横浜市生まれ。桑沢デザイン研究所卒業後、デザイナーから編集者となる。『ホットドッグプレス』編集部を経て、いとうせいこう氏らとプロダクションを設立し、取締役を務める。多くの雑誌・書籍制作、広告制作を経て、1996年に制作プロダクションEater(www.eater.jp)を設立、代表取締役に。雑誌『asayan』を立ち上げ編集し、後に男性ファッション誌『HUGE』をプロデュースして創刊から10年間(2013年12月まで)制作を担当する。現在は、コミュニケーションツールやカタログ制作、ブランディングなどに携わる。もちろん編集と執筆も日々続けている。1994年から担当した丸元淑生氏の料理書、書籍は7冊。食に対する考えとライフスタイルに大きな刺激と影響を受け現在に至る。TCC会員(東京コピーライターズクラブ/1998年新人賞受賞)。


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