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35arts|SHIBUYA PIXEL ART 2022(渋谷ヒカリエ8階「8/ CUBE」)

渋谷の街を舞台に開催されるピクセルアートの祭典、SHIBUYA PIXEL ART 2022に行ってきました!

ピクセルアートとは

ピクセルアートというワードは、初耳の方もいるかもしれません。ファミコンのゲーム画面のような、白黒もしくはカラーの正方形を組み合わせてイメージを描き出すドット絵、そのロジックを使った表現が「ピクセルアート」です。
なめらかに動くリアルタッチの表現ができるようになった現在でも、ドット絵のスマホゲームやアニメーション、イラストレーションがたくさん生まれています。
最近では、ほぼ日手帳で「MOTHER2」の絵柄が採用されたり、紅白歌合戦でもドット絵のアニメーションが放送されましたね。

私もファミコンやスーファミはギリギリ遊んだ世代ですし、ポケモンも初代から金銀まではやっていたので、ドット絵には懐かしさと親近感を覚えます。ドット絵もゲーム音楽も、あのピコピコには気分を高揚させる何かがある……。

公式HPや研究者は、ピクセルアートを以下のように定義しています。

「ピクセルアート」いわゆる「ドット絵」は、1980年代に普及したコンピューターやゲームの機能的な制約のもと発展した低解像度の描写である。

Shibuya Pixel Art 公式HPより

次に、このピクセルアートの単位は、おおむね以下の特徴を持っている。
a. 正方形またはそれに類する形状をしている。
b. 互いに大きさが等しく、かつ、碁盤状の縦横グリッドに沿って配置される。
c. 単位ごとにひとつの色を持つ。

『メディア芸術カレントコンテンツ』
松永伸司「ピクセルアートの美学 第1回 ピクセルアートとは何か」より

SHIBUYA PIXEL ARTでは、上記の定義をベースに解釈を広げ、デジタルの静止画・動画から、彫刻や絵画、アイロンビーズやブロック、刺繍まで、多種多様なジャンルのピクセルアートを募集しています。
2018年より毎年開催され、2020年にはデビューわずか数カ月のアーティストmaeさん、昨年はカナダ人アーティストonionさんが最優秀賞に輝きました。

ジャンルもアーティスト歴も国籍も関係なく、多彩なアーティストによるピクセルアートへの愛と創造力がぎゅっと詰まったコンテストなのです!

今年のテーマ:ピクセルアートで、世界と再びつながる

審査員の作品

今年は「ピクセルアートで、世界と再びつながる」をテーマに、現役のピクセルアーティストや映像作家、評論家など、12名いる審査員の半分が海外審査員、応募者の3割が海外アーティスト(会場のスタッフ談)という国際的なコンテストとなりました。

アーティストは「シブヤ」「生まれたて」「ゲームオーバー」「歌舞伎」「バナナ」のいずれか、または複数のモチーフを組み合わせて制作した作品を、TwitterまたはInstagramにて投稿。審査の結果、最優秀賞や審査員賞、オーディエンス賞、特別賞、各部門賞が決定します。

2022年9月25日に各賞が決定、表彰式が行われました。
トロフィーは彫刻家・現代アーティストの鈴木一太郎さんによる、ドット絵彫刻。デジタルから生まれたドット絵と木製の手作り感とのギャップが面白いですね!

ノミネート展示レビュー

最優秀賞&審査員賞ノミネート作品

最優秀賞ノミネート作品
最優秀賞ノミネート作品

ピクセルアートと一口にいっても、荒いドットでモチーフや動きを単純化させたコミカルな作品もあれば、細かいドットで風景を描くエモーショナルな作品もあります。
作品のテイストも、カラフルでゴチャゴチャしたポップな作品、カフェイラストのようなオシャレな作品、ファンシー雑貨を思わせるカワイイ作品と、ピクセルアートの枠組みの中で、アーティストが自由に個性を発揮した作品が並んでいました。

作品の傾向としては、やはりゲームの印象が強いのか、「ゲームオーバー」をテーマにしたプレイ動画風の作品やキャラメイク風の作品が多くノミネートされていました。
往年のファミコンゲームを想起させる作品がある一方、奥行きや立体感を出すドット遣い、髪の毛や衣服の微細な動き、繊細な色のグラデーション、くすんだ柔らかい色彩の作品には、解像度の高いデジタル画面に慣れ親しんだ世代の感性が反映されています。

また、これまでの受賞作を通してみると、女の子をメインモチーフに「シブヤ」の風景を描く作品も多い印象です。海外作家も「シブヤ」の街並みや駅構内など、日本の都市風景を表現していました。
街頭ビジョンや電光掲示板もピクセルによる表現なので、相性がいいのでしょう。奥行きのある空間や色のコントラストを強めた光の表現によって空気感を演出する作品は、ピクセルアートの主流のひとつと言えそうです。

一番印象に残ったのは「バナナ」で、テイストやジャンルを問わず多くの作品に登場していました。全体テーマがバナナなのかと錯覚してしまうほどです。
バナナはポップアートの巨匠アンディ・ウォーホルやイタリアのマウリツィオ・カテラン(壁にバナナを貼った作品の作者)も作品化したポップアイコンであり、「バナナの皮を踏んで滑って転ぶ」のは、ベタな展開の代表格でもあります。
キャッチーな見た目とコミカルな展開を予感させるバナナは、アーティストの想像力を掻き立てる格好のモチーフとなったようです。

私が注目した作品は@Momoman_jpさんの「モモマン誕生!/Momoman begins」、メタバース世界に「生まれたて」のモモマンが主人公の作品です。同アカウントでは、個性豊かなキャラクターたちに出会う短編シリーズとして、モモマンのアニメーションが複数投稿されています。

細かいドットで描写されたモモマンの造形や色味、スムースな動きは、まるで3DCGのよう。
キャラクターが会話をすることでストーリー性を持たせ、奥行きのある空間に自動車が走ってフェードアウトすることで、閉じられたフレームやフィールドではなくオープンワールドさながらの世界の広がりを感じさせます。

髪の毛が揺れたり花びらが散ったりと、微細な動きを繰り返すgif動画に近い作品、四コママンガのように短い時間で起承転結を表したアニメーション作品など、ループ再生を前提としたコンパクトな世界観の作品が多い中、独自性が光っていました。

LIMITED PIXEL ART部門ノミネート

 64×64タイプ
32×32、16×16タイプ

Limited Pixel Art部門は、16×16、32×32、64×64のピクセル数と制限された色数で表現した作品を募ったカテゴリーです。これはDivoom社が販売するピクセルアート専用ガジェットで表示できる仕様で、会場でもタブレットではなく、該当製品を使って展示されていました。
ゲームのドット絵表現はデータの制約がある中で発展してきた流れがあり、本部門はその原点に立ち返ったカテゴリーでもあります。

ピクセルごとにLEDとフレームが内蔵されているため、ピクセルの粒感が際立ち、くっきりした輪郭線で色のコントラストが強い作品、コマ送りのスピードで動くアニメーションが映えます。

アプリを使って制作したピクセルアートを表示できるほか、SNS通知や天気予報、ミニゲームなど日常生活に役立つ機能も搭載され、AIスピーカーのようにピクセルアートのある生活が楽しめそうです。
(製品紹介になってしまった)

ANALOG PIXEL ART部門ノミネート

ANALOG PIXEL ART部門

デジタル表現に留まらないカテゴリーが、ANALOG PIXEL ART部門です。
今回ノミネートされていたのは、ブロックでピクセルを3次元に展開した作品、刺繍の縫い目でピクセルを表現した作品、手書きのピクセルアートをパラパラマンガで動かす動画作品でした。

ナノブロックでつくられたバナナは、3Dプリンタで画像の粗いデータを出力しようで、デジタルの質感がアナログで表現されているところに面白みがあります。
もっと巨大なブロック作品であれば、マインクラフトやVRの世界に入った気分になれそうです。

最近はマンガやゲームの図案を用いる刺繍作家さんもいるので、デジタルとは真逆の手仕事感ある作品が出てくると、ピクセルアートの理論が深まりそうです。

BEYOND PIXEL ART部門ノミネート

BEYOND PIXEL ART部門

ここまでは「同じ大きさの四角(もしくは立方体)を規則正しく並べてイメージを表現する」という定義に忠実でした。
しかし、BEYOND PIXEL ART部門では、表現手法に拘らず「ピクセル」を再定義した作品が並びます。「ピクセル」を再定義とは、どういうことなのでしょう。

@komiya_ma(ヘルミッペ)さんは、最優秀賞&審査員賞で1作品、本部門で2作品がノミネートされました 。

「物語を生むサイコロ」は、ピクセルアートの描かれたサイコロを転がしてつくった物語を、一コマずつピクセルアート化する作品。「バナナ猿」は、ピクセルアートを隈取りのように顔に出現させるARエフェクトです。

ドット絵キャラクターは、ピクセルの組み合わせがわずかに変化するだけで、表情やポーズが変わります。
それと同じように、「物語を生むサイコロ」ではサイコロの面の出方でストーリーや情景が変わり、「バナナ猿」ではモニターを通して、人間の顔にドット絵キャラクター的な表情の変化をつけているのです。
まさに、既存のピクセルアートの定義を超えて、ピクセルとは何か、ピクセルの効果を再考する作品といえます。

ピクセルアートという発明

ANALOG PIXEL ART部門のように、ピクセルアートの登場以前にあった表現でも、定義に当てはまればピクセルアートになる。ピクセルアートは、「誕生した」というより「発明された」といったほうが正しいかもしれません。

モザイクのタイルやガラス、石畳やレンガ、あらかじめ染め分けた糸で文様を織り出す絣、伊藤若冲の《樹下鳥獣図屏風》、スーラやシニャックといった点描技法の作品、モンドリアンやリヒターも、ピクセルアートと捉え直すことができるのではないでしょうか。
(厳密には、若冲の作品はマスを無視して目が描かれ、点描技法も完全に一定の形状・間隔ではないのでピクセル風ですが)

ピクセルアートは発明されたばかり。まだまだ技法や表現に伸び代があり、新規アーティストの参入にも期待がもてます。
今後のSHIBUYA PIXEL ARTにどのような作品が集まるのか、「ピクセルアート」がどこまでムーブメントを起こしていけるのか、注目していきたいです。

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