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ショートシナリオ「20年目の真実」

「嫁と姑」というテーマで昔試作したシナリオ。人間の二面性や対立・葛藤を描きやすいテーマらしいが、結構苦労した課題でした。嫁にも姑にもなったことがないし、今後もなる予定もないので、完全にイマジネーションだけで書いた。シーン描写を意識したというメモが残っているけど、ストーリー先行でテーマの突き詰めは甘いなと思う。キャラはそこそこ描けたかな。


■登場人物
安藤麻呂美(35) 主婦
安藤数江(63) 麻呂美の姑
半田淳吾(15) 中学三年生
店員(女)
店員(男)

■本文

○スーパー・全景(夕)

○同・店先の花屋(夕)
   安藤麻呂美(35)と安藤数江(63)が店先の花屋を物色している。
   数江、お彼岸用の花束二つを見比べながら、
数江「あんたやったらどっち選ぶ?」
   麻呂美、二つの花束を慎重に見定めて、
麻呂美「……そうですねえ」
   どちらにも千円の値札がついている。
   右側の方が少しだけ華やかに見える。
麻呂美「……やっぱりこっちでしょうか」
   麻呂美、右側の花束を指差す。
   数江、これ見よがしにため息をついて、
数江「アカンわ」
麻呂美「え、だって見栄えもいいし……」
数江「ほんま、損得勘定が分かってへんな」
麻呂美「でも同じ値段だし、お得でしょう?」
   麻呂美、怪訝な顔。
数江「ええか、よく見ときや」
   数江、左の花束から数本引き抜いて、素早く右の花束に差し込む。
麻呂美「え!?」
数江「ちょっと、姉さん!」
   数江、近くの店員(女)に呼びかける。
数江「(平然と)これ見て」
   数江、二つの花束を指差す。
店員(女)「……?」
   左の花束がやけに貧相に見える。
数江「なぁ、これ同じ値段っておかしない?」
店員(女)「は、はぁ……」
   数江、左側の花束を指差し、
数江「こっち買うさかい、負けてや」
麻呂美「(呆れて)お義母さん……」

  ×  ×  ×

   数江、上機嫌で花屋から出てくる。
麻呂美「(皮肉交じりに)五百円の得ですね」
数江「得したんちゃう。あのままやったら五百円損するところやってんで」
麻呂美「(げんなりして)はぁ……」
数江「麻呂美はん、家計簿つけてる?」
麻呂美「え? 一応つけてますけど」
数江「ほな昨日何にいくらつこたか言える?」
麻呂美「そ、それは……ちょっと」
数江「うちはな、結婚して四十年、毎日欠かさず家計簿つけて、
 いつ何に金つこたか細かいとこまでちゃんと頭に入れてんねん」
   数江、自分の頭を指差す。
麻呂美「冗談ですよね?」
数江「あほ! 冗談ちゃう。主婦やったら常識やで。
 これからはあんたに家計任せるんやし、もっとしっかりしてや」
  スーパーの入口から男性の声。
男の声「そのカバンの中、見せてくれる?」
   麻呂美と数江、声がした方を振り返る。
   学生服姿の半田淳吾(15)が、店員(男)に肩をつかまれている。
   店員(男)が無理やり淳吾のスクールバッグに手を伸ばし、
   中からギャツビーのヘアワックスを取り出す。
店員(男)「これ、どうしたん?」
淳吾「(青ざめて)……」
数江「……万引きや。せこいなぁ」
   数江、つぶやく。
   麻呂美、じっと淳吾を見ている。
数江「麻呂美はん、行こ」
麻呂美「(淳吾から目を離さず)……」
数江「麻呂美はん」
   数江、麻呂美の手を引く。
店員(男)「ちょっと、こっちで話そか」
   店員(男)、淳吾の手を引き、店内に入ろうとする。
   その背中に麻呂美の声。
麻呂美「待ってください!」
   振り向く淳吾と店員(男)。
麻呂美「すみません。その子、私の連れで」
   麻呂美、バッグから財布を取り出し、
麻呂美「今すぐ払いますから……」
数江・淳吾「(あっけに取られて)……!」

○同・道(夕)
   スーパーから少し離れた道端に、麻呂美、数江、淳吾が立っている。
淳吾「(俯いて)後で、払いますんで」
   淳吾、手元のギャツビーを見ている。
麻呂美「いいのよ、そんなの」
   麻呂美、レシートを財布にしまおうとする。
   数江がそれを奪い取り、
数江「アカンやろ、そんなん」
   数江、レシートを淳吾に突きつけて、
数江「ほんまに反省してんねやったら、
 うち、すぐそこやから、ちゃんと返しに来てや」
麻呂美「ちょっと、お義母さん!」
数江「麻呂美はん、あんた甘すぎんねん」
麻呂美「……たった数百円じゃないですか」
数江「金の問題ちゃう。こんなん、この子のためにもなれへん」
   麻呂美、むっとして、
麻呂美「私は、そうは思いません。
 この子は、もう二度と過ちを犯したりしません」
数江「ふん、戯言や」

○安藤家・全景(夜)
   路地の角にある一軒家。

○同・仏間(夜)
   数江と麻呂美が仏壇に花を添えている。
   仏壇には笑顔の老人の写真。
   丸々と太っていて恰幅が良い。
数江「(ため息をついて)こんな財布のヒモのゆるい嫁はん、
 先が思いやられるわ」
麻呂美「でも、あの子、放っておけなくて…」
   数江と麻呂美、仏壇の写真を見て、
数江「うちの亭主もアホみたいに頑固でお人好しやったけど、
 あんたもたいがいやな」
麻呂美「お義父さんに、会いたかったです」
数江「昔はもっとスマートやってんで。
 ようもてたわ。東京にも女作ったりしてな」
麻呂美「女!? ……嘘でしょう?」
数江「嘘ちゃう。ちゃんと証拠があんねん」
   玄関から淳吾の声。
淳吾の声「ごめんください」
   数江と麻呂美、顔を見合わせる。

○同・玄関(夜)
   玄関に立つ淳吾。
   出迎える麻呂美と数江。
淳吾「さっきのお金……」
   淳吾、封筒を差し出す。
麻呂美「いいのに。そんなの」
数江「なかなか律儀な子やな。見直したで」
   数江、横から封筒を受け取る。
淳吾「……あの、聞きたいことがあって」
麻呂美「なぁに?」
淳吾「さっき、なんで助けてくれたんですか?
 僕、知り合いでもないのに」
麻呂美「それは……」
   数江、封筒の小銭を数えながら、
数江「気にせんといて。この人偽善者やねん」
麻呂美「……私も昔助けてもらったから」
数江・淳吾「え?」
麻呂美「東京にいた頃……もう20年も前のことだけど
 ……クリスマスの夜に」
数江「麻呂美はん、万引きなんかしたんや?」
麻呂美「まあ、若気の至りで、つい……」
数江「やっぱり偽善者や」
麻呂美「でも、すぐばれちゃって」
数江「せやろなぁ。あんたドン臭いもん」
麻呂美「そしたら知らないおじさんが『この子の連れです』
 ってかばってくれたんです」
数江「ほんまかいな?」
麻呂美「お金払ってくれて、盗んだ商品も、
 『君にあげるわ、クリスマスやし』って」
数江「キザな男やなぁ」
淳吾「関西の人やったんですか?」
麻呂美「そう、『こんなん持って帰ったら、
 センスベタすぎるやろって女房に突っ込まれるわ』って、
 笑って私にくれて」
数江「ベタって。あんた何盗んだん?」
   麻呂美、黙って奥に下がる。
淳吾「まさか、まだ大切に……?」
   淳吾、数江と顔を見合わせる。
   麻呂美、日に焼けて古くなったシングルCDを持って戻ってくる。
   ジャケットには、『ラブ・ストーリーは突然に』小田和正の文字。
麻呂美「この歌、当時流行ってて。
 今でもあの時のことを思い出す度に聴くんだけど」
数江「あんた、これ、どこで盗んだって?」
   数江の目がCDに釘付けになっている。
麻呂美「渋谷のHMVです」
数江「渋谷? ……うそやろ!?」
   数江、青ざめた表情でつぶやくと、慌てて奥に引っ込む。
麻呂美・淳吾「……?」
   数江、一冊の帳簿を手に戻ってくる。
数江「20年前のクリスマス……渋谷……」
   数江、ぶつぶつつぶやきながら、懸命に帳簿のページをめくる。
   帳簿にはレシートがべたべた貼られている。
   数江、ページをめくる手を止めて、
数江「あった! ……これや」
   ページを指差す数江の手が震えている。
   麻呂美と淳吾、ノートを覗き込む。
   一枚のレシート。以下の文字が見える。
   『HMV渋谷店、1991年12月25日、
   小田和正、ラブ・ストーリーは突然に』
   余白に書き込みがしてある。
   『物は所在不明。女、ベタなセンス』
麻呂美「こ、これって……?」
数江「1991年の家計簿や。うちの人、ちょうど東京出張で、
 帰ってきたら、このレシートがコートのポケットに入っててん」
麻呂美「1991年12月25日、18時15分…まさか」
数江「銭勘定は合ってるのに商品があれへん。
 こんな歌聴くような人ちゃうし、
 東京の女にでも買うたったんかと思てたけど……」
   数江と麻呂美、顔を見合わせて、
麻呂美「あの人、お義父さんだったんだ」
   麻呂美、感極まった表情。
   数江、麻呂美に手のひらを差し出し、
数江「20年たってやっと帳尻が合うたわ。
 麻呂美はん、代金、早速返してもらおうか」
   麻呂美、うんざりした顔で数江を見る。


■まとめ
・キャラの個性に合わせたシーン描写を意識。
・関西のコテコテ系キャラはまあ出せたか。
・嫁のキャラが今一歩。背景事情の説明が不足。
・オチが強引すぎるか。「ちょっとあざとい」との声も。
・タイトルと内容にややギャップがある。
・タイトルは「姑の家計簿」とかでもよかったかな。

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