薬剤耐性グラム陰性菌感染症の治療ガイダンス (IDSA)を読み解いていく -CRE編 その2-


本記事は、主に医療従事者向けに記載をしております。また、本記事の内容は、私の所属している施設などとは一切関係がないことを併せてご承知の上、記事をご覧ください。

はじめに

先日、IDSAから公表された、薬剤耐性グラム陰性菌感染症の治療ガイダンスについて、記事にしています。

この内容を少しずつ読み解いていくという内容で記事を書いています。

初回は、導入部分の抗菌薬に関するセクションについて、内容を読み解いていきました。

2-4回目は、ESBLについて記述されている部分について読み解いてみました。


前回は、CREについて記述されている部分の導入部分について記事を記載しています。

今回は、前回のCRE編その1から間隔はだいぶと開いてしまいましたが、CRE編その2として、Q&Aの内容を読み解いていこうと考えています。

ガイドラインにおけるCREセクションのQ&Aについて

まず、ガイドラインにおける、CREのセクションで扱われているQ&Aは下記のとおりです。

1. CREによる非複雑性膀胱炎の治療に好ましい抗菌薬は何ですか?
2. CRE による腎盂腎炎および複雑性尿路感染症(cUTI)の治療に好ましい抗菌薬は何か?
3. カルバペネマーゼ検査の結果が得られない、または陰性の場合、エルタペネムには耐性があるがメロペネムには感受性があるCREによる尿路感染症以外の感染症の治療に好ましい抗菌薬は何ですか?
4. エルタペネムとメロペネムの両方に耐性のあるCREによる尿路外感染症の治療のために、カルバペネマーゼ検査の結果が得られないか、陰性である場合に好ましい抗菌薬は何ですか?
5. カルバペネマーゼ産生が認められる場合のCREに起因する尿路外感染症の治療に好ましい抗菌薬はどれか?
6. CREによる感染症の治療におけるポリミキシンの役割は?
7. CREによる感染症の治療における併用抗菌薬療法の役割は何ですか?

以上がQ&Aとなります。本日は、1について触れていきます。

尿路感染症の定義について

以前のESBL編ではあまり詳細に触れていませんでしたが、尿路感染症の定義について、少し触れておいた方が良いかと思い、項目立てしてみました。

画像1

上記スライドは、日本化学療法学会/感染症学会の委員会が作成した、JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015―尿路感染症・男性性器感染症―を参考にしています。

上記にスライドを示していますが、単純性は基礎疾患がない場合、複雑性は基礎疾患がある場合とされています。

特徴としては、検出菌が異なる可能性があり、複雑性の場合は、多岐に渡るので、経験的治療では、患者の重症度に応じて、グラム陰性菌、グラム陽性菌を幅広くカバーするような抗菌薬が使用されます
(例えば、タゾバクタム/ピペラシリンであれば、グラム陰性菌 (緑膿菌含め), グラム陽性菌 (腸球菌含め。ただしMRSAなどの耐性菌はカバーできない )をカバーすることができるため、泌尿器科の医師は、複雑性尿路感染症を疑う場合、経験的治療で使用される場合が散見されます)

以上、簡単ですが、尿路感染症の定義について、少し触れてみました。

Q1 CREによる非複雑性膀胱炎の治療に好ましい抗菌薬は何ですか?

では、Q1に入っていこうと思います。

そもそもCRE=カルバペネム耐性腸内細菌科細菌です。

カルバペネム系抗菌薬単剤での治療は困難と考えられます。また、多くのβ-ラクタム系抗菌薬を分解するカルバペネマーゼという酵素を産生する菌も存在します。このため、カルバペネム系抗菌薬以外のβ-ラクタム系抗菌薬ももちろん効果がない可能性があります。

本文では、下記のように推奨されています。

推奨: CREによる合併症を伴わない膀胱炎に対しては、シプロフロキサシン、レボフロキサシン、トリメトプリム-スルファメトキサゾール、ニトロフラントイン、またはアミノグリコシドの単回投与が好ましい治療選択肢である。カルバペネマーゼ検査の結果が得られないか、または陰性である場合には、標準的な注射用メロペネムは、エルタペネムには抵抗性があるがメロペネムには感受性があるCREに起因する膀胱炎に好ましい治療法である。

日本国内で入手可能な推奨の第一選択薬は、
・キノロン系抗菌薬のシプロフロキサシン or レボフロキサシン
・ST合剤
・アミノグリコシド単回投与
となっています。

前述のJAID/JSC感染症治療ガイドライン2015―尿路感染症・男性性器感染症―では、単純性膀胱炎の場合、キノロン系抗菌薬は、閉経前女性で3日間、閉経後女性で7日間の使用が推奨されています。また、単純性腎盂腎炎では、さらに長くなり、7〜14日間の使用が推奨されています。これらを参考に治療期間を決定してはどうかなと思います。
また、日本国内では、若年者での検出菌の場合は、キノロン系抗菌薬の耐性株の出現は10%程度のようですが、ESBL産生菌を保菌しているような場合では、キノロン系抗菌薬の耐性率は70%程度とのことも言われており、キノロン系抗菌薬自体の選択を行うかも検討する必要があるかもしれません(CREとわかっている時点で、感受性は判明していると思いますが・・・)

ST合剤は、内服薬も注射剤もあり、非常に良い薬剤だと思うんですが、JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015―尿路感染症・男性性器感染症―では、あまり登場しません、残念ながら・・・。JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015―尿路感染症・男性性器感染症―のサマリー本文で少し出てきますが、治療期間はキノロン系抗菌薬と同等で良いと考えられます。

アミノグリコシド系抗菌薬は、注射剤しか全身作用を発揮しませんので、注射剤を使用することになります。今回読み解いている、耐性GNRのガイドラインでは、単回投与となっている(根拠の部分にも単回で良いと記載がある)。しかし、国内のJAID/JSC感染症治療ガイドライン2015―尿路感染症・男性性器感染症―では、具体的には記載されていないが、キノロン系抗菌薬と同様の期間を使用しないといけないかもしれない(具体的なものがないのでわからない)。
また、解説に記載されているが、

一般的に、CRE臨床分離株の割合は他のアミノグリコシドよりもアミカシンとプラゾマイシンに感受性が高い[49, 50]。プラゾマイシンはアミカシンに耐性のある分離株に対しても活性を維持している可能性がある。

とのことです。ただ、プラゾマイシンは日本では, 2020年9月現在入手できないかと思います。
このため、アミカシンが選択肢として上位にくるのではないかと考えます(私の個人的な意見ですが・・・)

また、カルバペネム系抗菌薬の使用についても、前述のとおり、耐性GNRのガイドラインでは触れられています。

メロペネムは、メロペネムに感受性のある分離株のほとんどがカルバペネマーゼを産生しないため、CRE膀胱炎に対して好ましい薬剤である[44]。カルバペネマーゼ検査が陽性の場合は、たとえメロペネムに対する感受性が示されていても、メロペネムは避けるべきである。 (解説部分より引用)

つまり、CREでも、カルバペネマーゼを産生しない株で、メロペネムに感受性があれば、メロペネムを使えるのでは?っていうことが書かれていますね。しかし、これは、米国のガイドラインです。
米国では、KPCなどのカルバペネマーゼ産生菌が検出されています。しかし、日本国内では、IMP型カルバペネマーゼ産生菌が多く検出されており、このうち、IMP-1という酵素の亜種である、IMP-6を産生するCPE(カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌)が多く検出されています。
IMP-6産生菌はステルス型と呼ばれることがあります。
カルバペネム系抗菌薬のイミペネムを指標薬剤とした場合、日本で比較的多く報告されるIMP-6型メタロ-β-ラクタマーゼ産生菌は、感性と判定されるため検出できないことがあります(IASR Vol. 35 p. 285- 287: 2014年12月号より引用、詳細は下記リンク参照)。

施設によっては、メロペネムの感受性の代わりにイミペネムを用いて結果判定をしている施設もあると思います。このため、この辺りは、十分考慮し(地域性等含め)、使用に関しては、検討が必要かと思います。

その他、耐性GNRガイドラインの解説には下記のようなことが記載されています。

好ましい薬剤がいずれも有効でない場合、CRE膀胱炎に対する代替選択肢として、セフタジジム-アビバクタム、メロペネム-バボルバクタム、イミペネム-シラスタチン-レレバクタム、およびセフィデロールがある [51-55]。1つの薬剤を他の薬剤よりも有利にするにはデータが不十分である。ある臨床試験では、カルバペネム耐性グラム陰性菌によるさまざまな感染症に対してセフィデロールを用いた場合、最善の治療法と比較して死亡率が増加することが示されたが、これらの知見は尿路感染症には及ばないようである [54, 56]。フォスフォマイシンの使用は大腸菌膀胱炎に限定すべきであるが、その理由は、fos A遺伝子(Klebsiella種、Enterobacter spp.およびSerratia marcescensなどの特定のグラム陰性菌に内在する)がフォスフォマイシンを加水分解し、臨床的な失敗につながる可能性があるからである [23、24]。ランダム化比較試験のデータは、非合併性膀胱炎に対する経口ホスフォマイシンの方がニトロフラントインよりも高い臨床失敗と関連していることを示している[19]。

上記は概ね、日本国内では使用できない薬剤ばかりが記載されています。ホスホマイシンのことも記載されていますが、そもそも、日本と海外では内服薬の場合は〇〇塩が異なり、吸収率が違います。推奨されている訳ではないですが、ホスホマイシンの使用時は十分考慮が必要かなと考えます。

コリスチンは、上記の薬剤のどれもが選択肢にない場合にのみ、CRE膀胱炎を治療するための代替手段として検討される。コリスチンは尿路で活性型に変換される;臨床家は腎毒性のリスクを認識しておくべきである[57]。ポリミキシンBはCRE膀胱炎の治療薬として使用すべきではない。

上記はコリスチンについて記載されています。コリスチンは安全性の観点から、投与については、患者の状態等をよくよく考えて使用することが必要なのではないかなと感じます。
コリスチンについては、日本化学療法学会から、コリスチンの適正使用に関する指針―改訂版―が公表されておりますので、そちらを確認し、十分な検討の上、使用が望ましいかなと思います (下記リンク参照)。

今回は以上、Q1について記載をしていきました。

次回はQ2以降を順次読み解いていこうと思います。


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