薬剤耐性グラム陰性菌感染症の治療ガイダンス (IDSA)を読み解いていく -ESBL編 その2-

先日、IDSAから公表された、薬剤耐性グラム陰性菌感染症の治療ガイダンスについて、記事にしています。

この内容を少しずつ読み解いていくという内容で記事を書いています。

初日は、導入部分の抗菌薬に関するセクションについて、内容を読み解いていきました。

2日目は、ESBLについて記述されている部分の導入部分について読み解いてみました。

今回は、ESBLのセクションのうち、Q&A 1-4の部分について読み解いていきたいと思います。

Question 1: What are preferred antibiotics for the treatment of uncomplicated cystitis caused by ESBL-E?
質問1:ESBL-Eによる合併症を伴わない膀胱炎の治療に好ましい抗菌薬は何?

以下、本文を和訳しています。

推奨: ESBL-Eによる非合併性膀胱炎に対しては、ニトロフラントインおよびトリメトプリム-スルファメトキサゾールが好ましい治療法である。
根拠:ニトロフラントインおよびトリメトプリムスルファメトキサゾールは、膀胱炎に対する安全で効果的な選択肢であることが示されている[10、19、20]。
フルオロキノロン系薬剤(すなわち、シプロフロキサシンまたはレボフロキサシン)およびカルバペネム系薬剤は、ESBL-E膀胱炎に対して有効な薬剤であるが、他の安全で効果的な選択肢がある場合には、膀胱炎に対するこれらの薬剤の使用は推奨されない。これらの薬剤の使用を制限することは、将来の感染症に対する活性を維持することと、特にフルオロキノロン系薬剤の毒性を制限することの両方を目的としています。
ESBL-E 膀胱炎に対する代替手段としては、アモキシシリン-クラブラン酸塩、単回投与アミノグリコシド、および経口ホスフォマイシンがあります。アモキシシリン-クラブラン酸塩は、無作為化比較試験のデータによると、膀胱炎に対するシプロフロキサシンよりも高い臨床的失敗率と関連していることが示されているため、好ましい薬剤というよりはむしろ代替的な薬剤である [21]。アミノグリコシドは活性型ではほぼ独占的に腎経路で排除される。膀胱炎には単回の静脈内投与が一般的に有効であり、毒性は最小限であるが、堅牢な試験データは不足している[22]。経口ホスフォマイシンは、K. pneumoniaeおよび他のいくつかのグラム陰性菌に内在するfosA遺伝子が薬剤を加水分解し、治療失敗を引き起こす可能性があるため、ESBL産生性大腸菌膀胱炎の治療専用の代替薬である[23、24]。ランダム化比較試験のデータは、非合併性膀胱炎に対する経口ホスフォマイシンの方がニトロフラントインよりも高い臨床不全と関連していることを示している[19]。ドキシサイクリンは、尿中排泄が限られているため、ESBL-E膀胱炎の治療には推奨されない[25]。

非合併性膀胱炎はおそらく、非複雑性膀胱炎とされているものかと思われます。非複雑性膀胱炎の場合は、ニトロフラントインおよびトリメトプリム-スルファメトキサゾールが第一選択薬として推奨のようですが、以前に抗菌薬の解説で触れたように、ニトロフラントインは国内では承認されていません。このため、ST合剤のみが第一選択薬として推奨されているということになります。代替薬としては、アモキシシリン-クラブラン酸、単回投与アミノグリコシド、および経口ホスフォマイシンが推奨されています。このうち、経口ホスフォマイシンは、これも以前の抗菌薬の解説部分で触れていますが、日本国内で販売されているもの、海外で販売されているものは異なりますので、おそらく、そのまま当てはめるのは難しいのではないかと思います。また、アモキシシリン-クラブラン酸はシプロフロキサシンと比べ治療失敗があったとの報告のため、代替薬の位置付けとなっているようです。

カルバペネム系抗菌薬は、通常、ESBL産生菌による感染症では推奨されていますが、非複雑性膀胱炎には、むしろ使うなと記述されています。本文にも書いてますが、将来のために温存せよということのようです。この手のガイダンスとして、このような内容に触れているのは素晴らしいですね。

ちなみに、本ガイダンスでは触れられていませんが、オキサセフェム系、セファマイシン系のフロモキセフやセフメタゾール の使用についても検討が可能かもしれません(以前の抗菌薬編の記事を参照ください)

Question 2: What are preferred antibiotics for the treatment of pyelonephritis and complicated urinary tract infections (cUTIs) caused by ESBL-E?
質問2:ESBL-Eによる腎盂腎炎や複雑性尿路感染症(cUTI)の治療に好ましい抗菌薬は何か?

以下、本文を和訳しています。

推奨: ESBL-Eによる腎盂腎炎およびcUTIに対しては、エルタペネム、メロペネム、イミペネム-シラスタチン、シプロフロキサシン、レボフロキサシン、またはトリメトプリム-スルファメトキサゾールが好ましい治療選択肢である。
根拠:cUTIは、生殖器管の構造的または機能的な異常に関連して発生したUTI、または男性患者のUTIと定義される。カルバペネム系薬剤、シプロフロキサシン、レボフロキサシン、トリメトプリム-スルファメトキサゾールは、臨床経験およびこれらの薬剤が尿中に高濃度になる能力に基づいて、ESBL-E型腎盂腎炎およびcUTIを有する患者に対する好ましい治療法の選択肢である。カルバペネムが開始され、シプロフロキサシン、レボフロキサシン、またはトリメトプリム-スルファメトキサゾールに対する感受性が示された場合は、カルバペネムによる治療を完遂するよりも、これらの薬剤に移行することが望ましい。このような状況でカルバペネムの使用を制限することは、将来の抗菌薬耐性感染症に対する抗菌薬の活性を維持することになる。ニトロフラントインおよび経口ホスフォマイシンは腎実質では十分な濃度に達しないため、上部尿路が感染している場合は避けるべきである [26、27]。ドキシサイクリンは、尿中排泄が制限されているため、ESBL-E腎盂腎炎またはcUTIの治療には推奨されない[25]。

ESBL産生菌による腎盂腎炎、cUTIに対する第一選択薬の推奨は、エルタペネム、メロペネム、イミペネム-シラスタチン、シプロフロキサシン、レボフロキサシン、またはトリメトプリム-スルファメトキサゾールということですが、以前の抗菌薬のセクションでも触れていますが、2020年9月現在、エルタペネムは日本国内では入手不可な薬剤ですので、メロペネム、イミペネム-シラスタチン、シプロフロキサシン、レボフロキサシン、またはトリメトプリム-スルファメトキサゾールが使用可能なものになります。選択肢が多いですね。

カルバペネム、キノロン、ST合剤ということですね。

ただし、ガイダンスではあまり触れられていませんが、前回の記事でも記載していますように、キノロン耐性の大腸菌の増加などの問題もあります。尿で濃縮される可能性があるため、もしかすると、MICが高くても使用可能かもしれませんが、キノロン系抗菌薬も日本国内では使いにくい (もしくは使えない)症例がいる可能性があります。なので、点滴加療が必要であれば、カルバペネム、内服スイッチは感受性があればキノロンもしくはST合剤、キノロンの感受性がなければ、ST合剤かなと考えます。

ちなみに、タゾバクタム-ピペラシリン (TAZ/PIPC)について、非複雑性膀胱炎の部分や本項目 (腎盂腎炎、cUTI)の部分で触れられていません。しかし、日本の泌尿器科領域における周術期感染予防ガイドライン2015では、高リスク症例に対するTAZ/PIPCは推奨されているんです。

https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/18_ssi_2015.pdf

JAID/JSCのガイドラインでも推奨に入っていて、使用するかは悩ましいところですね。

Question 3: What are preferred antibiotics for the treatment of infections outside of the urinary tract caused by ESBL-E?
質問3:ESBL-Eによる尿路外感染症の治療に好ましい抗菌薬は?

以下、本文を和訳しています。

推奨: ESBL-Eによる尿路外感染症の治療には、カルバペネムが好ましい。
根拠: ESBL-Eによる尿路外感染症の第一選択薬としてカルバペネムが推奨されているが、これは主に多施設ランダム化比較試験のデータに基づいている[28]。この試験では、ピペラシリン-タゾバクタムと比較して、メロペネムで治療されたESBL E. coliおよびK. pneumoniae血流感染症患者の30日死亡率が減少した [28]。他の部位の感染症については、同等の臨床試験データは得られていない。それにもかかわらず、パネルはESBL-E血流感染症のエビデンスを他の一般的な感染部位、すなわち腹腔内感染症、皮膚・軟部組織感染症、肺炎に当てはめることを推奨している。ESBL-E非尿路感染症に対する経口ステップダウン療法の役割は正式に評価されていない。しかしながら、適切な臨床マイルストーンが観察された後、抗菌薬耐性菌分離株に起因するものを含むEnterobacterales血流感染症に対しては、経口ステップダウン療法が合理的な治療の考慮事項であることが示されている[29、30]。経口フルオロキノロンおよびトリメトプリム-スルファメトキサゾールの既知のバイオアベイラビリティおよび持続血清濃度に基づいて、これらの薬剤は、(1)経口剤に対する感受性が示され、(2)患者が解熱性および血行動態学的に安定しており、(3)適切な感染源管理が達成され、(4)腸管吸収に問題がない場合、ESBL-E感染症患者に対する合理的な治療選択肢である。ESBL-E血流感染症に対するニトロフラントイン、ホスフォマイシン、ドキシサイクリン、アモキシシリン-クラブラン酸への経口ステップダウンは避けるべきである。ニトロフラントインとホスフォマイシンは血清中濃度が悪い。アモキシシリン-クラブラン酸およびドキシサイクリンは信頼できない血清濃度を達成し、ESBL-E血流感染症のために推奨されていません。

尿路感染症以外は、カルバペネム系抗菌薬が推奨をされていますね。尿路感染症の部分では、出てこなかった、タゾバクタム-ピペラシリンについて、このセクションで初めて出てきていますが、残念ながら推奨はされていません。ガイダンス本文でも触れられていますが、血流感染症で、カルバペネム系抗菌薬より、タゾバクタム-ピペラシリンでは治療失敗が多いという報告に基づいて、タゾバクタム-ピペラシリンの使用は推奨されていません。

ただし、国内では使用されていますね、実際は。この話題は次のQ&A4に続きます。

Question 4: Is there a role for piperacillin-tazobactam in the treatment of infections caused by ESBL-E when in vitro susceptibility to piperacillin-tazobactam is demonstrated?
質問4:ピペラシリン-タゾバクタムに対するin vitroでの感受性が示された場合、ESBL-Eによる感染症の治療にピペラシリン-タゾバクタムの役割はあるのか?

以下、本文を和訳しています。

推奨: ピペラシリン-タゾバクタムは、たとえピペラシリン-タゾバクタムに対する感受性が示されていても、ESBL-Eに起因する感染症の治療には使用を避けるべきである。後にESBL-Eと同定された細菌に起因する膀胱炎の経験的治療としてピペラシリン-タゾバクタムが開始され、臨床的に改善が見られた場合には、抗菌薬治療の変更や延長は必要ない。
根拠。ピペラシリン-タゾバクタムは、多くのESBL-Eに対してin vitro活性を示している[31]。しかしながら、ESBL-E血流感染症を対象としたランダム化比較試験では、ピペラシリン-タゾバクタムはカルバペネム療法と比較して成績が劣ることが示されている[28]。浸潤性ESBL-E感染症の治療におけるピペラシリン-タゾバクタムの有効性は、微生物がESBL酵素の発現を増加させる可能性があること、または複数のβ-ラクタマーゼが存在することによって低下する可能性がある[32]。さらに、ピペラシリン-タゾバクタムのMIC検査は、ESBL酵素が存在する場合、不正確であり、および/または再現性が低いかもしれません [33-35]。

つまり、感受性があってもなくても原則、ESBL-Eによる感染症にはTAZ/PIPCは使わない方が良いよ、Empiricalに開始して、効果のある場合は、膀胱炎に対しては使い続けても良いよということですね。Q&A3で触れられているように、血流感染症での治療失敗がカルバペネムと比較し、TAZ/PIPCで多いこと、解説にあるように、微生物がESBL酵素の発現を増加させる可能性があること、または複数のβ-ラクタマーゼが存在することによって低下する可能性があることが指摘されています。in vitroでの検査は不正確ということも触れられています。確かに、機器によって、同じ菌を検査してもMICの値が異なる場合やそもそもパネル (検査のプレートのようなもの)のみているMICのレンジ自体が違うこともあるので、注意が必要ですね。。。


本日は、途中ですが、以上になります。

私自身、無理なく続けられるようにです。

次回はESBL編 その3として、Q&Aの5から7について読み解いていきたいと思います。





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