読んだ論文 (Antimicrobial escalation is not beneficial for Gram-negative bacteremia in adults who remained critically ill after appropriate empirical therapy. J Infect Chemother. 2020;26(9):933-940. )

適切な経験的治療を受けた後も重篤な状態が続いた成人のグラム陰性菌血症に対しては、抗菌薬のエスカレーションは有益ではない。Ho CY, Lee CH, Yang CY, Hsieh CC, Ko WC, Lee CC. J Infect Chemother. 2020;26(9):933-940. doi:10.1016/j.jiac.2020.04.011

要旨

適切だが反応性の低い抗菌薬を経験的治療として投与された菌血症患者の転帰に抗菌薬のエスカレーションが有益かどうかを検討するために,第 3 世代セファロスポリンによる適切な経験的治療を受けた後も重症化したままの市中発症グラム陰性菌血症の成人をレトロスペクティブに登録した.多変量回帰モデルで認められた30日死亡率の独立した予測因子を用いて、エスカレーション療法を受けた患者と非エスカレーション療法を受けた患者の間で、院内感染、破綻した菌血症、および院内粗死亡率を比較した。当初、エスカレーション群(51人)では、非エスカレーション群(de-escalation: 81人、非スイッチ: 95人)と比較して、致死的な併存疾患(McCabe分類)と30日死亡率の割合が高かった。適切なPSマッチングを行った結果、エスカレーション群(45人)と非エスカレーション群(135人)の間で、患者の背景、発症時の菌血症の重症度、併存疾患の重症度と種類、および菌血症の発生源の点で、臨床変数の類似した割合が見られた。その結果、エスカレーション群では、非エスカレーション群に比べて院内感染率や院内粗死亡率が高く、抗菌薬の静脈内投与や入院期間が長くなるなど、より悪い臨床転帰が統計的に証明されました。結論として,適切な経験的治療に対する反応が悪い患者に対しては,抗菌薬のエスカレーションは有意な転帰の改善にはつながらず,そうでない場合には,支持療法の戦略や敗血症合併症の適切なコントロールに注意を払う必要があると考えられた。


(読んだ感想)

PSマッチングを活用した検討で、実臨床でよくある、重症で、よくならないからescalationしてみるっていうのは意味が無いよという論文ですね。

まあ、感染症を生業にしている薬剤師としては、実際の患者さんでの結果からは予想がつくような結果ですが、実際に検討したものを報告していただけると助かります。しかし、実際は、こういう報告があっても、患者さんを助けたい一心で担当医は治療を行っているわけで、この結果があるから、菌血症の重症患者でのescalationを否定するわけにはいかないかなと思います。

ただ、本報告の内容とは直接関係は無いですが、escalationをしても、抗菌薬変更時の適切な培養再提出は必要かなと思います。


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