薬剤耐性グラム陰性菌感染症の治療ガイダンス (IDSA)を読み解いていく -CRE編 その1-

先日、IDSAから公表された、薬剤耐性グラム陰性菌感染症の治療ガイダンスについて、記事にしています。

この内容を少しずつ読み解いていくという内容で記事を書いています。

初回は、導入部分の抗菌薬に関するセクションについて、内容を読み解いていきました。

2-4回目は、ESBLについて記述されている部分について読み解いてみました。

今回は、Carbapenem-Resistant Enterobacterales (CRE)=カルバペネム耐性腸内細菌科細菌の部分について読み解いていきます。

CREは、もともと海外でNDM型 (インドで流行)、KPC型 (主に米国)、OXA-48型などのカルバペネマーゼ (カルバペネム系抗菌薬を分解する酵素)を産生する菌として知られていました。国内では、西日本を中心にIMP-1型 (亜型のIMP-6も)が流行し、大阪の市中病院などではアウトブレイク事例が過去に報告をされています。最近は、カルバペネマーゼを産生しないCREも検出していますし、カルバペネマーゼを産生していても、カルバペネム系抗菌薬の感受性が保たれている場合などもあり、CPE-CREやnon CPE-CREなどと表現をされ、これらの間で、治療自体を変えないといけないのではということが話題になっています。

そんなCREですが、今回読んでいるガイダンスは”米国”のガイドラインなので、主役はKPCとなりますね。


ここからは、ガイダンスの和訳を下記に記述していきます。

Carbapenem-Resistant Enterobacterales

CRE は 13,000 以上の院内感染を占め、米国では毎年 1,000 人以上の死亡者を認めている [2]。CDCはCREを、少なくとも1種のカルバペネム系抗菌薬に耐性を持つ、またはカルバペネマーゼ酵素を産生するEnterobacterales属のメンバーと定義している[2]。CRE分離株は、一部のカルバペネム系抗菌薬(例えば、エルタペネム)には耐性があっても、他の抗菌薬(例えば、メロペネム)には耐性がない場合がある。CREは、複数の潜在的な耐性機序を持つ異種病原体のグループであり、カルバペネマーゼ産生株と非産生株に大別される。カルバペネマーゼ産生株は、米国における全CRE感染症の約半数を占めている[43-45]。米国で最も一般的なカルバペネマーゼはKlebsiella pneumoniae carbapenemases(KPC)であり、これはあらゆるEnterobacteralesによって産生される可能性がある。米国ですべて同定されている他の注目すべきカルバペネマーゼには、ニューデリーメタロ-β-ラクタマーゼ(NDM)、ベローナインテグロン-エンコードメタロ-β-ラクタマーゼ(VIM)、イミペネム-加水分解メタロ-β-ラクタマーゼ(IMP)、およびオキサシリナーゼ(例えば、OXA-48様)カルバペネマーゼが含まれる[46、47]。CRE臨床分離株がカルバペネマーゼ産生株であるかどうか、および産生株である場合、産生される特異的なカルバペネマーゼについての知識は、治療の決定を導く上で重要である。

修正カルバペネム不活化法およびCarbaNP試験などの表現型検査は、カルバペネマーゼおよび非カルバペネマーゼ産生CREを鑑別することができる[48]。分子検査は、特定のカルバペネマーゼファミリーを同定することができる(例えば、KPCとOXA-48様カルバペネマーゼとの鑑別)。カルバペネマーゼ遺伝子を同定するために米国の臨床微生物検査室で使用されている分子プラットフォームがいくつかある(例えば、Verigene® グラム陰性血液培養検査、GenMark ePlex® 血液培養同定グラム陰性パネル、BioFire® FilmArray® 血液培養同定パネルなど)。表現型および/または遺伝子型検査は、すべての臨床微生物検査施設で実施されているわけではない。Table. 3は、CRE感染症に対する推奨治療法とそれに代わる治療法の概要を示している。CRE感染症に対する治療推奨は、好ましい抗菌薬および代替抗菌薬のin vitro活性が実証されていることを前提としている。

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このセクションで扱われている質問は以下の通り。

1. CREによる非合併性膀胱炎の治療に好ましい抗菌薬は?
2. CRE による腎盂腎炎および合併性尿路感染症(cUTI)の治療に好ましい抗菌薬は何か?
3. カルバペネマーゼ検査の結果が得られない、または陰性の場合、エルタペネムには耐性があるがメロペネムには感受性があるCREによる尿路感染症以外の感染症の治療に好ましい抗菌薬は?
4. エルタペネムとメロペネムの両方に耐性のあるCREによる尿路外感染症の治療のために、カルバペネマーゼ検査の結果が得られないか、陰性である場合に好ましい抗菌薬は?
5. カルバペネマーゼ産生が認められる場合のCREに起因する尿路外感染症の治療に好ましい抗菌薬はどれか?
6. CREによる感染症の治療におけるポリミキシンの役割は?
7. CREによる感染症の治療における併用抗菌薬療法の役割は何?


以上、ガイダンスにおけるCREの導入部分となります。

なお、相変わらず、国内で入手できない 薬剤の提示がされています (Table 3)。

入手不可なものは、ニトロフラントイン、エルタペネム、セフタジジム-アビバクタム、メロペネム-バボルバクタム、イミペネム-シラスタチン-レレバクタム、セフィデレコール、エラバサイクリンが該当するかと思います (2020年9月現在)。

Table.3では、カルバペネマーゼの種類により、使用する薬剤が異なっています。これは、カルバペネマーゼの種類により、活性中心がことなり、セリンなのか亜鉛なのかで使える薬剤が異なってきます。主には、βラクタマーゼ阻害薬の種類がキーになるかと考えられます。詳しく書くと、長くなるので、別の機会にしますが、カルバペネマーゼの種類により薬剤の効果が変わるということを知っておいていただくと良いのではないかと思います。

そうなると、KPC、NDM、OXA-48などが複雑性腹腔内感染症以外で検出された場合、日本で使える薬って、推奨薬はないことになりますね。。。

このため、日本では、これらのカルバペネマーゼ検出菌が出た場合、組み合わせて治療をしていることが多いように思います。

今回は以上になります。

このシリーズを取り扱う時、次回はCRE編 その2として、Q&Aを読み解いていきます。

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