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★『ルピナスさん』バーバラ・クーニー

「世の中を、もっとうつくしくすること」──アリスが果たした本当の約束

以前、こちらのサイトでも紹介した絵本『にぐるまひいて』の作者、バーバラ・クーニーが描いた、これも心に残る作品です。

『ルピナスさん』バーバラ・クーニー

みなさんは「ルピナス」という花をご存じでしょうか。
私はこの絵本に出会うまで、この花のことを知りませんでした。

日本では、まだまだあまり一般によく知られた花ではないと思いますが、アメリカやヨーロッパで何千年も前から栽培されてきたとのことで、日本に伝わったのは明治期だそうです。

ルピナスの開花は春から初夏にかけてで、花の長さは60~70cmにもなるそうです。
ゴージャスでインパクトのある花ですが「昇り藤」の別名の通り、藤の花を逆にしたような姿なので、意外と日本人の感性にも合う花かもしれません。


さて、このお話は絵本の表題と同じく「ルピナスさん」と呼ばれる、おばあさんの一代記です。
語り手はひ孫(ひ姪?)にあたる女の子。
彼女はルピナスさんの小さい頃からのお話を語り始めます。

アメリカの港町に住む小さな女の子アリス(後のルピナスさん)は、移民一世(おそらく)のおじいさんから、遠い国のお話を聞かされて育ちました。
アリスのおじいさんは、船の舳先を飾る船首像を彫ったり、街のお店の看板やオーナメントを造る仕事をしていました。

アリスはおじいさんの仕事を手伝いながら、遠い国への想いを抱いて大きくなりました。

  大きくなったら、わたしもとおいくににいく。
  そしておばあさんになったら、海のそばの町にすむことにする。

『ルピナスさん』バーバラ・クーニー

そんな夢を語るアリスに、おじいさんは、もう一つ「しなくてはならないこと」について話します。
そして小さいアリスはおじいさんとある約束をします。
それは、「世の中を、もっとうつくしくするために、なにか」すること。

アリスはその約束を胸に大きくなり、やがて自分の夢を実現し、さらにおじいさんとの約束を果たすのです。

アリスが果たした約束とは…。


このお話を読むと、大人の方のなかには、アリスの生涯は恵まれた生涯のように思われる方もおられるかもしれません。
たしかに、このお話の中には、大きな悲劇や乗り越え難い困難が描かれることはありません。

彼女は成長して、幼い頃に描いていた夢を、順調に実現していきます。
図書館に勤め、世界中を旅して、様々な冒険をします。
そしてやがて宣言通り世界中の国々を見た後「海のそばのまち」に居を構えます。

そしてそこで海を眺めながら穏やかに暮らしていましたが、おじいさんとの約束の最後の一つを果たそうと決意します。
それは世の中を、もっとうつくしくすること。

年老いたアリスが、病に臥せった床の中で思いついたこととは──。


この絵本を読んで、私が最初に思ったことは、アリスがおじいさんとの約束として行った行為は、素晴らしことではあっても、そんなに難しいことでも、特別なことでもないのではないか、ということでした。

それはたしかに、物理的に「世の中を、もっとうつくしくすること」には
違いありませんが、それは別にアリスではなくても、やろうと思えば多くの人が、すぐにでも出来る事だと感じました。

しかし、この美しい絵本を眺めていると次第に、そんなささやかな思いつきや行為が、やがて大きな美しさや価値を生み出すのではないか、という思いが浮かんできました。

自然の美しさほど、人の心を穏やかに豊かに楽しいものにするものはないですし、それを大切にする人の心は、時や場所を越えてたしかに繋がっていくのですね…。

絵本の最後の数ページに、アリスが本当に果たしたおじいさんとの約束の重みと素晴らしさが描かれていると思います。
それは目には見えないけれども、大切な約束の継承なのではないでしょうか。

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