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★『家と庭と犬とねこ』石井桃子

これから長く生きる人たちの未来にとって、
何が大切なことかを考えるために。

児童文学者・石井桃子さんの随筆集のシリーズのなかの一冊です。
このシリーズの本は、過去に二冊、こちらで紹介させていただきました。↓

★『みがけば光る』
★『新しいおとな』

今回ご紹介する『家と庭と犬とねこ』は、上記二冊以上に、著者の普段の生活の中でふと心をよぎった情景や心象、そして思い出の中にあらわれる人や物や風景などについて書かれた、文字通り「エッセイ集」というにふさわしい一冊です。

なので、著者の、子どもと本にかかわる仕事の周辺の事柄だけに興味のある方には上記二冊の本よりも、読み応えがないと思われるかもしれません。

『家と庭と犬とねこ』石井桃子

しかし私は一読してみて、逆に子どもの本に関わる大きな仕事を成された著者の中の本質の部分、その感性の源を見たような気がして、最後まで興味深く読むことができました。
それにしても、著者の記憶力というのはものすごいものだと思います。

単に、出来事や物そのものについての記憶の確かさだけではなく、その情景や風景のなかで、著者自身がどのような言動をとり、どのように感じたかというところまでを記憶し、さらにそれを生き生きとした言葉で表現できるということは…。
やはり、石井桃子という人は普通の感性ではない、ということなのでしょう。

現代は、石井さんが幼少期・青年期をおくられた時代と比べられないくらい、平和で自由で、少なくとも物質的には豊かな時代です。
なのに、人の気持ち、特に子どもたちや若い人たちは、そう感じてはいないように思います。

それは大人である私たちの責任が大きいのではないでしょうか。
子どもや若い人々から、時間を奪い、風景を奪い、自由や思い出までも奪っているのは、大人の側の都合によるところが大きいのだと思います。

さらに彼らの未来までも奪わないように、そして大切な毎日の生活、日々の暮らしの中でのほんとうの言葉を失わせないように、まずは大人が言葉と美しいものを大切に守ること。

このエッセイには、石井桃子さんが大切にしていたものが、たくさんの美しい言葉で残されています。
古き良き時代を偲ぶためではなく、これから長く生きる人たちの未来にとって何が大切なことかを考えるために、手がかりになる一冊です。

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