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★『ゆきのひ』(こどものとも傑作集)加古里子

忘れかけた雪の日の楽しさと、美しい日本の里山の風景を、
ぜひ親子でお楽しみください。

子どもたちに人気のロングセラー『からすのパンやさん』や『だるまちゃん』シリーズで知られる絵本作家・加古里子(かこさとし)さん作の1966年に出版された絵本です。

山間部の里山を舞台に、ある冬の雪の日々を描いた絵本ですが、今から60年近く前の作品ということもあって、今ではもう、日本のどんな田舎にも残っていないような情景も、この絵本の中には描かれています。

『ゆきのひ』加古里子

子どもたちが元気に遊ぶ野山に、雪がチラチラと降り始めたころから、お話は始まります。
少しずつ雪に備えて仕事を急いだり、食料や家の準備をしたり、と働く大人の傍で、子どもたちはまだ元気に、竹馬をしたり、氷を見つけたりして遊んでいます。

雪は一旦溶け、再び積もった雪で、今度は学校での子どもたち──校庭いっぱいを使った雪合戦の様子が描かれます。

そして雪はさらに降り積もりますが、それでも人々は、大人も子どもも、雪とともにある自分たちの日々の生活を営み、特に子どもたちは雪をめいっぱい楽しみ、元気に活動しています。

スキーやスケートにそり遊び、かまくら作りといった楽しみだけではありません。山へ行って大人たちの仕事を手伝ったり、雪掻きもみんなで一緒に行うのです。

こうして、お話の三分の二ほどの部分までは、このように、まだ里山に子どもたちがたくさん居た時代に雪深い厳しい自然の中でも、助け合ってたくましく生きる人々の姿の美しく穏やかな部分が描かれています。

しかし物語の終盤では、雪が吹雪となり、発電所の水が氷ったり、電線が切れたり、線路の除雪が間に合わず、雪崩で埋まったりしてしまいます。
そんなときでも人々は、一般の住人も総出で、力を合わせて雪と格闘します。

よいしょ よいしょ
うんしょ うんしょ

うんとこ どっこい
ふぶきに まけるな。

そして家の中では、お父さんを送り出した家族が、囲炉裏を囲んで、じっと一晩中、寝ないで待つ様子が描かれています。


絵本の中では描かれませんが、きっと冬の自然の猛威に少なくない人々が屈してきた歴史があるのは確かです。

雪が降ったり天候が荒れると、交通がマヒしたり、仕事や学校の予定が狂ったり、と私たちはつい、今の自分の日常の決まり事が遂行できない不都合ばかりを意識してしまいます。

しかしそれはこの絵本の人々のように、本当に、自然と向き合い、ともに生きているといえるのだろうか、とこの絵本を読んで考えさせられました。

私自身も比較的雪の多い地方で生まれ育ち今も住んでいるので、雪の影響で思うように動けずにイライラすることも多々あります。

そして雪が決して美しく楽しいだけのものではないことも、よく分かっているつもりですが、それでもこの絵本のように、家族や地域の人々が支え合い、子どもたちも、そんな大人たちに守られていることを、しっかりと心身で記憶していることは、大切なとこだと思うのです。

この絵本は、半世紀以上前の、里山の雪との暮らしを素朴に描いた作品ですが、普通の人々が、知恵と力を出し合って、自然の中で心豊かに暮らしていた古き良き日本の面影を伝えてくれています。

作者はこの絵本で、自然の厳しさ──人間の暮らしを時に脅かす存在としての自然──を殊更に強調することなく、それでもその中で、自然の恵みを受け、家族との暮らしを守って、支え合い逞しく生きている人々の姿を描いています。

絵本の中で描かれた人間の生活は、過ぎ去った貧しい過去の日本なのかもしれませんが、今の日本の中では有り難い、人々の暮らしであるのもまた事実です。

絵本の中で小さく描かれた、大人が見落としてしまうような人の姿や動物なども、子どもたちはしっかりと見つけてくれるのもまた楽しいひとときです。

忘れかけた雪の日の楽しさと、美しい日本の里山の風景をぜひ親子でお楽しみください。

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