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「本と香りをめぐる対談集」Vol.2「裏庭」~文学アロマフェア~

2021/12/6(月)~12(日)文学アロマフェア~大切な誰かに贈る1冊の香り~@BOOKSHOPTRAVELLER

BOOKSHOP TRAVELLERは、約100人のひと箱店主たちが棚を借りてつくる下北沢の本屋。そこに集う個性豊かなひと箱店主たちと、“言葉×香りのアロマセラピー「読むアロマ」”のアロマ書房のコラボレーション企画のレポートnote「本と香りをめぐる対談集」を連載していきます。第二回目は「花ちゃん文庫」の齋藤惠都さんです。

文学アロマフェアの詳細はこちら


ひと箱店主:花ちゃん文庫 齋藤惠都

【プロフィール】
都内某女子校の国語科教員。趣味は銭湯めぐり。これまでの活動歴は「book pick orchestra」「文芸雑誌 緑の日」「俳句zine hi→」
BOOKSHOP TRAVELLERでは、むすめ(花ちゃん)や教え子と共に読みたい本を並べる。「教科書に載ってないけど勧めたい本」がコンセプト。選書の鍵は、短詩・戦争・花。

【選書した本】
裏庭(梨木香歩、新潮社)

【作品概要】
双子の弟である純が死んで以来、照美は、父にも母にも構われない日々を過ごしている。同級生の綾子のおじいちゃんだけが心を許せる大人だったが、ある日、おじいちゃんは脳溢血で倒れてしまう。その一報を聞いて、おじいちゃんの思い出話によく登場した丘の麓のバーンズ屋敷に立ち寄った照美は、秘密の裏庭に迷いこむ。



「本と香りをめぐる対談集」Vol.2


アロマ書房:こんにちは。今回、「大切な誰かに贈る1冊」ということで『裏庭』を選ばれましたが、選書の理由を教えてください。

花ちゃん文庫 齋藤惠都(以下、齋藤):花ちゃん(三歳のむすめです)にいつの日か手渡したい物語を考えました。ファンタジーの世界で冒険をくりひろげ、そこでの経験が生きる力になる物語です。「裏庭」を読んでいると、主人公・照美の精神を深く、深く、潜っていくような気持ちになります。はじめは、いかにも異世界らしい不思議な土地を通過していきますが、さいごには、地底の奥の奥、地獄、無意識、まっくらで土の匂いと死臭のするところをひたすら進むのです。そこから戻るわけなので、深層から上昇して息を吹きかえすような読後感があります。
また、この作品は、照美の道行きを描くパートと、照美のお母さんやレイチェル・バーンズなどの大人たちの人生を描くパートとが、交互に表われます。大人の心の核には、子どもだった頃の自分があるのだということが、実感できます。
そして、日本の草花や樹木、イギリスのハーブなど、美しい緑の気配が色濃いのも、この作品に惹かれる理由です。

アロマ書房:ありがとうございます!『裏庭』は、私も大好きな梨木香歩さんとの出会いの1冊でとても思い出深い作品です。「娘さんにいつの日か手渡したい物語」という選書の理由にじ~んとなりました。
では次に、香りを作る参考にさせていただきたいのですが、作品の世界観を色に例えるなら何色でしょうか?

齋藤:さみどり(と、土の茶色)

アロマ書房:作品の空気感を表すとしたらどんな言葉になるでしょう?
※ 選択方式でお答えしていただいています

齋藤:重い、あたたかい、内向的

アロマ書房:最後にひと言どうぞ。

齋藤:これをきっかけに、二十年ぶりくらいに「裏庭」を読み返しました。傷を恐れない、傷にのっとられない、傷を大事に育む。おばば達の言葉が沁みました。

アロマ書房:土や植物、育むこと、生きることなど、命を感じさせる秘密の裏庭をそっと覗いたような気持ちになりました。どうもありがとうございました!


以上のお話から、わたしが作った『裏庭』の香りがこちらです。

『裏庭』ブレンドについて

【ブレンドレシピ】
ゆず クロモジ ジャーマンカモミール
パチュリ ミルラ ヴェチバー


「土・呼吸・育む=植物たちの気配と生きる力」をテーマにして作りました。香りのテイストは、作品の空気感から「重い、あたたかい、内向的」。木々やハーブが香る緑の裏庭です。

ブレンドした香りをひとつずつ解説していきます。

ゆずは、日本の原風景。果実は子供の意味も。冬至のゆず湯は「無病息災」を願うものであり、花ちゃんの健やかな成長をかさねました。

クロモジ(黒文字)は、ゆずと同じく日本人の暮らしに古くからあるクスノキ科の植物。その成分は、おだやかでやさいしい気持ちを促します。知性を感じさせる香り。

そしてジャーマンカモミール。英国の庭の花。学名のMatricariaはラテン語の“子宮”からきており、“女性”や“母”と関連して語られます。「母から手渡す物語」、アズレンブルーと呼ばれる精油の深い青~青緑色から。

パチュリは、時間の経過とともに育つ香り。一緒に土台を支えるヴェチバーとともに、生命を育む大地、基盤を支えます。

そして、ミルラ。聖書の三賢者のお話にも登場し、古い歴史を持つ植物。精油は、樹脂から抽出され、固まる性質を持っています。外傷だけでなく、心の傷も癒す香り。

以上の6つの精油をブレンドし、いつの日か花ちゃんの生きる力の糧となるような1冊と、その香りができあがりました。


裏庭の香りの感想


アロマ書房:完成した香りを嗅いでみていかがでしたか?

齋藤:香りとのお付き合いは、まず、お手紙をポストに見つけた時のわくわく感から始まりました。緑の濃いお庭の油絵を切手にセレクトしていただき、選書に合わせたお心遣いを感じました。手書きの「ブレンドレシピ」も同封されており、言葉を拾うと「植物たちの気配と生きる力」「子供」「母から手渡す」「時間の経過とともに育つ」「外傷だけでなく心の傷も癒やす」など。まさに私が「裏庭」に感じていたイメージが散りばめられていたのです。
 
包みを破って、直に香りをかいだ時は、まず爽やかな蕾や芽の気配を感じました。はじめて空気に触れる新鮮さです。そして、これから華やぐことへの予感です。その奥というか土台に、全く人工的でない、大地を感じました。私は幼少時代に毎週末を祖父の家で過ごさねばならず、ひとりでずっと庭に出ていて人間と遊んだことがなかったのですが(笑)、その頃の庭をなぜか思い出しました。草をむしって薬屋さんごっこをしたり、虫眼鏡で覗いた花に花蜘蛛がいたのに驚いて逃げ出したり、蔦から葉をちぎって鞭にしたり。同時に、その祖父宅の隅から隅まで探検していて見つけた、箪笥の匂いも思い出しました。樟脳に近いような、思い出が古びているような。箪笥の棚を開けるのは、かつてそこに暮らしていた父や叔母の秘密を垣間見るような背徳感と誘惑に満ちていて、好きな遊びの一つだったんです。そうして見つけたブローチを今も大切に持っています。
マフラーの裏にアロマシールを貼って香りを聞きながら一日を過ごしたところ、ふしぎと、だんだんと果実を感じるようになりました。柑橘かなあ……。総じて、体の感覚と衝突することがない、地に足ついた香りだと感じました。「土台」について思いを馳せる体験となりました。ちょっと涙が出ました。

アロマ書房:感想をいただいたわたしのほうこそ、思わず涙がこぼれそうになりました。香りのすべてを受け取ってくださったこと、そしてあらためて感じる香りのもたらすもののすばらしさ。たくさんの気づきをありがとうございました!

完成した香りは文学アロマフェア期間中にお試しいただけますので、ぜひ遊びにきてくださいね。

みなさまのご来店をお待ちしております!


「文学アロマフェア~大切な誰かに贈る1冊の香り~@BOOKSHOPTRAVELLER」開催詳細


開催期間:12月6日(月)~12月12日(日)
会場:BOOKSHOP TRAVELLER(〒155-0031 東京都世田谷区北沢2丁目30−11北沢ビル3F)
営業時間:12時~19時
定休日:水・木



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