私の村の話

行動を受け入れて蹲り朝を迎える一晩は、体力を消耗させる。但し泣く事は私自身より許されない。夏を仄めかす暑さは私を真夜中へと連れ去る。クーラーに身を任せない夜もいいな。窓を名一杯開けて網戸の隙間から入ってくる生ぬるい風は、帰宅途中のサラリーマンの歌声と共に、私の頬をぬるりとねぶる。確か、車のCMの歌だった。この静かな私の時間に出歩けたらどれだけ心が休まるだろうか。

車が通らない深夜に、森や河川敷や灯のない大道路、終電が終わった電車の通らない線路を。蝉や蛙の声と共に歩くんだ。過疎化が大分進んだあの村が孤独でもあったが、それ相応に、いや、そんな孤独を消すほどの遥かに大きな大自然を、19年もの間体感してきた。私は恋しい。夜は動物が出るから危ないと注意されても尚、雲ひとつない星空を観に、20時になると決まって家から飛び出した。その時間帯が家族に怒られない唯一の1時間だった。私はその感覚を言語化できない。悔しい。私が居たあの小さな村と囲む自然が私を育て、故郷だと素直に言える場所になった。あの家を捨てたくない。だが私は東京で働く事となる。東京にいたい意味も少なからず持ち合わせている。私と妹の世代で、この本家が途絶えると思うと居た堪れないな。



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