見出し画像

はじまりの猫

今日は私の創作活動のルーツに関することを書きます。

 生きていく中でその人をその人たらしめる重要な出来事、経験といったものが多かれ少なかれ誰にでもあり、画家の場合はそれが自身のイマジネーションの根源になったり、作風を決定づけるターニングポイントとなることがあります。今日は、私の創作を形作る1つの大きな要因となった「猫」についてのお話。

+++++

 添付している画像は、動物に武器や鎧をまとわせた「武装せる動物」という私の一連の作品の中でも、代表的なものの1つともなっている「歩兵」という単体モデルのシリーズ作品です。自身のウェブサイトからオーダーを受け付け、実在するペットを兵士にするという試みです。

この画像の作品はそのシリーズの29作目「ジジ」

 「ジジ」は今からもう20年以上前、私が実家で小学校1年生の時から飼っていたメスの錆猫です。20歳を目前に老衰で亡くなった長寿の猫でした。名前は幼い私がつけたのですが、まあ某宅急便の黒猫からのパクりです。実際それほど黒くもないしメスなのですが...

 この作品はセルフオーダーという形のマッチポンプ的なちょっとずるい(?)注文なのですが、ジジは必ずシリーズに仲間入りさせたいと思い、3年くらい前に時間を見つけて描き上げました。


+++++

 昨今は野良猫・犬の保護活動等が盛んになり、室内飼いが強く推奨されるようになりました。街ではどぶ川のあったような場所は整備されていき、私の個人的な観測の範囲ではありますが、生き物に触れる機会の希少価値が高まっていることを肌で感じることも増えました。

 そういった風潮の中で、動物や虫などを(主に子どもにとっての)「生きる教材」と表現することもたびたび目にします。私はこれは物的に”利用する”ニュアンスの強い表現で敢えて使いたくはないなぁと思うのですが、生き物が様々なことを結果として我々に教えてくれる、与えてくれるということ自体は確かだとも思っています。私もジジからたくさんの学びを得ました。

+++++

 ジジは、その母親となる白猫がお祭りの帰りに家まで着いてきてそのまま住み着き、妊娠し、物置のダンボールの中で生んだ猫です。そのジジもまた、どこかの野良猫と交尾をして、我が家で子を産みました。

 出産ののち避妊手術をし、その後は完全に人間家族の一員として余生を過ごしました。晩年はボケもあったのか他所の家の軒下で涼んだり、近所を徘徊するようになったりしていました。そして、最期はリビングで息を引き取りました。

 文からお分かりの通り、外の行き来は自由にさせていて、今ではなかなか考えられない良くも悪くもおおらかな飼育でした。さすがにもうこのような飼い方は出来ませんが、哺乳類3世代の生命のサイクルを生で見るというのは「ペットの世話をする」というだけに留まらない、貴重な経験でした。

 ジジの性格は穏やかで賢く(錆猫は比較的そういった傾向にあるようです)、甘えん坊。子ども相手としても適格だったかもしれません。兄弟猫がいる中でも私はそんなジジを特に気に入り、ジジを当時遊んでいたゲームの魔法使いなどに見立てたり、擬人化させた絵などをたくさん描いていました。今の絵はその延長線上にあるとも言えます。

 この出会いがなければ私が絵描きになる道はなかったかもしれません。あるいは、全く違う作風の絵描きになっていた可能性が高いと思います。

+++++

 ジジは10年近く前に亡くなりました。

 ペットの飼育、家族やパートナーとしての動物との触れ合い。幸せな時間ですが、いつか確実に別れが来ます。

 別れは「姿がなくなっても何かが残っている」ことを教えてくれます。月並みな言葉を使うと「心の中に生きている」というやつですが、使い古されて陳腐にも思えるこの表現は、確かなことなのではないかと私は日々実感しています。

 何がどんな形で残るのか、泥のような悲しみの中から見つかる一粒の金の正体は何なのか。人それぞれきっと違うのでしょう。

 私にとっては「絵を描く力」でした。この経験を、残された力を作品という形で具現化することが、私が実在のモデルを元に絵を描くことの理由の1つになっているのかもしれません。たった数年や数十年しか生きられないけれども、誰かにとってはかけがえのない動物たちがこの生きた証を残すこと。

+++++

 ジジはどこにでもいるような雑種の錆猫でした。自分が誰かに与えた影響など知る由もなく、私の思いなどきっと興味もなく、ただ一匹の猫として生き、その天寿を全うしただけです。

 しかしそんな小さな命が私の作品作りへの種火を与えてくれ、多くの人や全国のペットたちを巻き込みたいと思う気持ちに薪をくべ、その情熱を今も燃やし続けてくれています。

 画家としての自分を形作ってくれた固く強い結びつきであり、はじまりのきっかけです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?