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『ラークシャサの家系』第24話

◇「二度目の戦い」

 2匹のアチュートは、前に戦った時とはずいぶん雰囲気が違うというか、前回よりも明らかに強くなっている気がした。約2kmの距離を、数秒で駆け抜けるスピードにも驚いたが、その速度に耐えられるアキコと呼ばれる女にも驚かされる。おそらく、36年前に行方不明になった、メツキの娘ってところなんだろうが、もしかして、この女が、アチュートの戦闘力を高めている?そんな考えも脳裏に浮かんだ。

「七瀬、ちょっとヤバい。明子ちゃんと車に乗って、すぐ逃げられるようにしておいてくれ。」
「そうみたいね。なんとなく人間の私にでもわかるわ。 でも、なにか策が? このまま逃げられるとは思えないし・・・」
「時間稼ぎぐらいは・・・できるかも・・・後で拾いに来てくれれば。」
「なに言ってるの!前回でさえ再生するのに精いっぱいだったでしょっ!真面目に考えてっ!」
「キダさん!」
「明子ちゃん、心配しなくても大丈夫。七瀬と、安全なところに隠れていてくれ。」
「明子ちゃん、ほら、行きましょう。」
「・・・七瀬さん、ちょっと・・・」
「早く!明子ちゃん、何しているの!車に乗って!」
「・・・」

”ガチャ・・・バン”

”ボボボボボ・・・バウンッ!ボボボボボ・・・”

 よしよし、宿泊施設の陰に隠れたな。

「アキコ、こんな奴ら、速く片づけてしまいなさい。」
「はい、兄様。・・・・」

「ゔごっ!」
「ゔっ!」

 2匹のアチュートは、何かを叫んだ直後、左右に分かれた。前回のように連携攻撃を仕掛けてくるつもりなんだろう、思っていた以上に動きは速い。あのアキコと言う女は、最初の立ち位置から動くことなく、じっとしている。

 いったい何の役割を担っているのだろうか?と思うや否や。

”ザッザッ・・・ビビッ”

「痛っ!」

 初弾をくらった。が・・・浅い。
 前回とは違う。相手の攻撃がしっかりと見えている。一度、対戦しているからか? なんだかオレの反応も悪くないなと思った。
 あの鬱陶しいインカムの無いことが理由なのか? なんだか、ごちゃごちゃとうるさい音が入ってこないのが、オレの動きを良くしているのかもしれない。

 他のクシャトリヤはどうなのか知らないが、オレは考える前に動くタイプ。事前に、相手の動きとかを教えてもらっても、そのことが反ってブレーキになって、あまり役に立ってないような気がする。

 次は、また左右からの攻撃?いや違うな。前回同様、攻撃の角度を変えてくるのだろう。何度?90度?今回はそれぞれ45から60度、左へ移動か?

”ドスッ・・・プシュッ、ピュー・・・”
『ぐふっ』

 よしっ! 紗々が作ってくれた、先端を極度が尖った7000番系アルミ合金製の特殊警棒が、奴らの腹部にまっすぐ刺さった。急ぎで仕込んでおいてよかった。

「突然、武器が出てきて驚いたか? これ、超々ジュラルミンって言うらしいぞ。ってお前らに言っても、分からないだろうが。」
 偶然だが、上手くカウンターになった。両腕に仕込んでおいて正解だったな。奴らは全く想定していなかったんだろう。奴らは、ほぼノーガードの状態で、腹を串刺しにされて焦っている。

「ゔおっ!」
「ゔお、ゔおっ!、ゔおぉ。」
 アチュートどもは、アキコと言う女のほうを見て何か言っているようだ。どうやら、奴らに指示を出しているのは、あの女のようだな・・・

 それなら話が速い。
 あまりやりたくはない手段だが、あの女を拘束することが最良だ。

 オレは、アキコの後ろに回って、彼女を羽交い絞めにしようとした。その瞬間、アチュートの1匹が、オレよりも素早くアキコを抱きかかえ、オレからアキコを離した。

「ずいぶんとアチュートを飼いならしているようだな。半鬼とは言え、奴らが人間を守るなんて初めて見たよ。オレの見立て通り、どうやらその女が肝の様だな。」
「まぁ、それがわかったところで、お前には、まだ十分に理解できていないだろう。体力バカのクシャトリヤではな・・・」
 山野の奴、いちいちムカつく。

「さて、アキコ、そろそろ帰るぞ。遊んでいないで、もういい加減、片づけてしまいなさい。」
「はい、兄様。・・・」

 その時、急に空気が凍り付くような、異常な緊張感があたりを包んだ。
 オレだけでなくアチュート2匹も、その威圧的な緊張感で一瞬、動けなくなってしまった。
「な、なんだ?!」


「母です・・・」
「えっ?明子ちゃん、どういうこと?」
「さっき車に乗る時、一瞬、お母さまが近づいてくるような感じがしたのですが、この車の中からだと、分かりづらくて。」

”バラバラバラバラバラバラ・・・・・・”
 しばらくして、細かく早いエンジン音とともに、映画に出てくるような細身の黒い戦闘ヘリが、低空で近づき、オレたちのすぐ近くを旋回していった。

「キダさん!明子ちゃんのお母さまだって!あのヘリ!」
 七瀬が車から出てきた。
「七瀬!なにしてるんだ!車へ戻れ!」
「あのヘリ、明子ちゃんのお母さまだって。明子ちゃんがそう言ってる。」
「はぁ?」

 すぐに、さっきの黒い戦闘ヘリが戻ってきて、ゆっくりと降下し始めた。

「お母さまの愛機、AH-1Z ヴァイパーです。もちろん武装はしていませんよ。何かの作戦のとき、米軍から拝借してきたって言っていました。」
 井村明子も車を降りて近づいてきた。

”ヒューン・・・・・・・”

”カチャ”

「ふぅー、11月になると、もう上空は寒いわね。やっぱりエアコンは必要ね。付けてもらうようにお願いしなきゃ。」


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◇第25話へつづく

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