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『ラークシャサの家系』全26話

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オレたちは鬼なのだ・・・2000年以上の長きにわたり、その時代の統治者のもとで、秘密裏に関係を築いてきた人と鬼。令和の今も、誰にも知られることなく人の生活に溶け込む鬼たち。埼玉県…
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2021年6月の記事一覧

『ラークシャサの家系』第10話

◇「レーダー探知機」 明子は知っていた。この事件に2体の鬼が関わっていることを、そして、その鬼たちがとても凶暴であることを。  ”バラモン”である母親 みどりの能力、予言や予知のような能力を、単純に引き継いだとか・・・まぁ普通に考えると、そんな感じだろう。  そもそも半鬼というもの自体が珍しく、その特徴に関しては、オレたちもよく知らない。 「先ほどお話ししましたように、明子は、バラモンの私と、人間の夫の半鬼です。まずは、半鬼の特徴からお話ししましょう。」  みどりは明子に軽

『ラークシャサの家系』第11話

◇「バラモンの姫」 井村明子を、この捜査メンバーに加えるって、簡単に言いますけど、素人で女子高生でお嬢様、半鬼といえども、人間扱いの個体をどうやって?  ねぇ、みどりさん? 七瀬さん?  翌朝、武蔵ダイカスト工業、応接室。 「あなたが井村明子さんですね?昨晩、七瀬さんと一ノ瀬さん、それとメ、いや、お母さまのみどりさんから連絡がありました。私がこの会社の責任者で指宿と申します。」 「はじめまして、井村明子です。よろしくお願いいたします。」 「今、何人か紹介したい方々がいるので

『ラークシャサの家系』第12話

◇「上野村の道人さま」 武蔵ダイカスト工業の現場は3直2交代の操業。各班が4日出勤して2日休む。それを3班で巧みにずらしながらシフトを組む。そうすると現場は休みなく連続操業となるが、働いている人たちは、ちゃんと2日休めるという訳だ。昼勤と夜勤の間は無人になってしまうが、そこは残業で対応したり、自動運転で対応したりしている。とても合理的なやり方だ。こんな仕組みになっているなんて、実際に工場に勤務しないとわからない。  やはり山崎正の線で調べたほうが良いのか?  上野英、斉藤和

『ラークシャサの家系』第13話

◇「かくしごと」 オレも一応クシャトリヤ。一周目の若造だが、それでも戦士の端くれだ。近くに鬼がいることぐらいはわかる。 「明子ちゃん大丈夫?ほら!キダさん気を付けてよっ!」 緊張感のない七瀬の声。鈍感な奴は幸せだ。 「七瀬さん、キダさん、大丈夫です。離れていきました。」 「私たちに気付いたのかな?ほら!キダさんどうなんですか?」 あいかわらず緊張感がない七瀬。 「あぁ、なんとなくだが気づいたのかもな。ただ、相手に戦意はなかったような気もするけど。」 「私もそんな気はしましたけ

『ラークシャサの家系』第14話

◇「連携プレイ」 その日の夕食は、上野村の食堂で蕎麦を食った。オレは、蕎麦には少々うるさいほうだが、この店の、田舎切り、乱切りの蕎麦は、歯応え良し、香り良しの逸品だった。上品な更科ではなく、蕎麦の風味が引き立つ挽きぐるみでオレの好みだ。鳥取の溝口に住んでいた時、同じような蕎麦をよく食った。蕎麦ツユは、カツオ、昆布、それと、なんだろう?サバか?あと椎茸の僅な香りもあって複雑でキレのある風味だ。総じて水が良いところの蕎麦は美味い。様々な要素の連携プレイも、肝心な水が悪いと台無しだ

『ラークシャサの家系』第15話

◇「休息と追憶」 さて、反撃開始といきたいところだが・・・少し血を流し過ぎた。各部の再生が間に合っていない。特に腹のダメージは甚大。さっきは幻覚を見せて、なんとか攻撃を避けたが、次はどうする?  直接、脳に働きかけて、相手に幻覚を見せるやり方は、一見効果的だが、連続して使うと、効き目が弱くなって、そのうち効かなくなる。しかも、2匹同時は無理。さて、困った・・・  そんな時、なぜか奴らの攻撃が止まった。 「ゔおっ!」 「ゔお、ゔおっ!!」  会話のような鳴き声を交わすと、2

『ラークシャサの家系』第16話

◇「クリームパンとドデカミン」 新しい週が始まった。先週までの出来事に、なにか現実感がない。引っ越したばかりの土地、そして新しい職場ということもあるが、何か浮ついている。鬼退治は、思っていた以上に手こずることになっているし、その結果のあれだ。少し色々と仕切り直しだ。 「はぁ・・・。」 「キダっちー。元気?」  この人は、なぜいつも机の下から登場するのか? 「いや・・・元気ないっす。鴛海さんは、相変わらず元気ね。」 「キダっち、やっぱり元気ないのか・・・でもねぇ、僕、またすご

『ラークシャサの家系』第17話

◇「EPMA」 昼食後、散歩から戻ってくると、七瀬がすでに来ていた。来客用駐車スペースに、七瀬の愛車、白のメルセデスAMG C63が停まっている。デビュー当時のCクラスと言えば、コンパクトセダンという分類だったが、時代の変化と、シリーズの拡充によって、30年ほど前のミディアムセダン、W124と同等のボディーサイズまで肥大化した。七瀬の乗るAMG C63は、4.0L、V8ツインターボエンジンを搭載するハイパフォーマンスモデルで、見た目も他のCクラスに比べて、かなり厳つい。父親が