今年の寺の猫
今年も藤の季節が来て、年に一度の寺参りをした。母方の親類が骨となり身を寄せている寺だ。
毎年その境内で出会う猫がいる。威風堂々とした八割れの猫で、本堂縁側の足の陰に姿勢良く座り、お参りする我々を静かに眺めているのが常だ。
昨年会ったときに、また会おうと約束をしたのに、今年は姿を見せなかった。
どうしたのだろう。もうそれなりの歳だと思うし、心配になるが安否を確かめるすべもない。
姿を見たいなと思ったが、猫を待つほど詮無いこともない。待っても、猫は来ない。
潔く諦めて境内を出て、藤が美しい公園として整備されている近接の敷地を散策する。藤色と言われて思い浮かべる薄紫色の花はもう終わりかけで、白藤が満開を迎えていた。
白のほかにも薄桃色や濃い紫色の八重など、さまざまな種類の藤が咲き、甘い匂いが辺りに垂れ込めている。藤棚の下は心地よい日陰で、涼しい風が吹き抜けて長く伸びた花房を揺らした。
今年も見ることができてよかった。また来年も見られますように。
帰り道、車で寺の前を通る。小さな寺の参道は短く、門の間から本堂が見える。
通りすがりに目を向けると、本堂の正面、縁側の真ん中に鎮座して、八割れの猫がこちらを見ていた。堂々とした体軀は、遠目でも存在感がある。前足をきちんと揃えて前を見据え、相変わらず居住まいが良くて惚れ惚れする。なんだお前、絵になるな。
車の中から慌てて手を振ったが、気付いただろうか。
↓去年の寺の猫
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