夏休みはブルーハワイ
いつもは出勤しているありふれた平日、所用があり有休を取った。用事を済ませたあと時間があったので、少し離れたショッピングモールに買い物に行くことにする。
モールの中に入ると、あちらにもこちらにも子どもたちがいた。休憩用のベンチに男の子が2、3人で座り、額を寄せ合ってゲームをしている。小さな女の子がお母さんの腕にぶら下がって、何かおねだりをしている。兄妹らしき二人が、床のタイルの色に沿ってジャンプを繰り返している。
平日の昼間に一体なにごとと思ったが、すぐに気がついた。
そうか、夏休みだ。
大人たちがだいたい似たような1週間を繰り返し、家と職場を往復しているうちに、夏休みは始まっていたのだ。毎日暑いなーと思ってはいたけど、夏休みだとは知らなかった。
マジで知らんかったなぁ。
自分の人生の散漫さ加減にちょっと驚く。そして、子どもたちの長い休みをちょっと羨ましく思う。
制服を着た中高生たちも、何人かずつで連れ立ってそぞろ歩いている。部活帰りか、それとも補講帰りだろうか。
受験に追い込まれていたりするのかもしれない。だとすると夏休みどころではない。
だいたい夏休みなんてブルーハワイのかき氷みたいなもんだ、と高校時代に友人が言っていたのを思い出す。
あれは何の味でもないし何の匂いでもない。ただ甘いだけですぐ食べ終わってしまう。せいぜいが舌が青くなるくらいで、日焼けがさめるみたいにそれもすぐ消えて無くなる。夏っぽい雰囲気に流されて食べてみるけど、肩透かしにかき消えてしまって、後には何も残らない。
あれは夏の味で夏の匂いなんだと面白半分で言い張るやつもいたけれど、夏っぽいのは名前と色くらいだ、雰囲気だけのイメージ商品だと反撃を食らっていた。ブルーハワイに恨みでもあるのかと思うような言い草ではあるが、まぁ、確かにそれはそうだなと同意する。
あの涼しそうな青に惹かれてブルーハワイを食べてみたりする。食べるうち、これは一体なんなんだろうかなーと、頼りない気持ちになる。舌が青く染まったことを確認する。次の日にはその青も消える。そこまでがブルーハワイ体験のセットみたいなものだ。
それにしてもただの愚痴ではあったのだが、空虚な感じがするのだけは言い得て妙で、「ブルーハワイみたいな夏休み」というのは、そのころ同級生たちの中で流行った慣用句だった。
この地域の小中学校の夏休みは日本の中でも短めだが、それでもまるっと1ヶ月はある。
学校を卒業して久しい社会人としては、夏休みは盆を挟んでの一週間程度。いま一ヶ月の休みをもらえたなら…。何をするのか考えてみたけど、特に何もしないまま終わってしまう図しか浮かばない。
暑さに振り回されて、曖昧模糊と時は過ぎるだろう。だって、子どもの頃だってそうだったし。
ねぇ、そうだよね。
日焼けもしていない今どきの子どもたちに向かって、心の中で同意を求める。
8月も1週間以上が過ぎてしまい、夏休みも残り10日余りだ。知らない間に始まって、もう終わりの方が近くなっている。
終わりかけた夏休みの子どもたちというのは、なんと切なく見えることだろうかと、勝手な感傷に浸る。
夏休みが始まったことも知らないまま8月を迎え、別に予定も立てないまま盆休みを迎え、あとから思い出すよすがもなく夏が行くのを今年も見送るのだろう。
そんなとりとめのない夏でも、終わるとなると惜しい気がするから不思議なもので、夏が夏らしいうちに、夏っぽいことでもするかと、8分の1カットの西瓜を買って帰った。
そこはブルーハワイだろうって?それは短い夏休みまで取っておくことにします。
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