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オムライス

 検査を全て終え、後は結果を待つのみの私に外出許可が出て、1日だけ家に帰る希望を出した。
 この頃の私は、握力が幼稚園児並みで歩行も自力で出来ず、車椅子や歩行器を使いかろうじて立てる状態だったが、私の帰りたいと言う希望に、家族みんなでサポートしてもらい家に帰ることになった。どうしても帰りたかったのは子供が心配なのと、当分帰れないと言う覚悟からだった。久しぶりに会う娘達は私に駆け寄り、私の側から離れようとしません。下の娘はポロポロと大粒の涙を流しています。相当寂しかったのでしょう。私だけが不安で寂しいのではなく、子供や主人も不安と寂しさの中で生活していたようです。
  この日の食事はなんと主人が作ってくれました。家事も料理も殆どしたことがない彼だが、必要に迫られれば、人間何とか出来るものだと証明してくれるような頼もしい彼がいた。家族みんなで食べる食事は笑いが絶えず、賑やかな時間で、自分の手でお箸を持ち、何とか食事を出来ている姿を心配そうに見る家族だったが、喜びを感じながら楽しい時間を過ごせた。
 翌日のお昼は私が頑張った。メニューはオムライスだ。
 今まで簡単に切れていた玉ねぎのみじん切りが1時間も掛かり、フライパンを持ち上げる事も、お皿を片手で持つ事もできない姿を見て主人が、
「俺が作るよ」
と言ってくれながらも、私が自分で出来る事をしたいと言う気持ちを伝えると、何も言わず見守ってくれていた。
 時間もかかり見た目も悪いオムライスを
「美味しい美味しい」と家族みんなで食べてくれた。
 こんな簡単な事も出来なくなっていく自分が悲しくて、苦しくて情けない思いで涙が止まらず、家族で楽しくとるはずの食事も、私の涙で台無しだ。普通の事を普通に出来る事が、どんなにありがたい事だったのかを知る事になった。少し力が入らず自由が利かなくなる事で、こんなに暮らしがガラリと変わる怖さを、外泊により体験する事となった。

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