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「離婚後共同親権」導入は何のため? 「多様化」というマジックワード

「離婚後共同親権」導入を柱とした民法改正法案は、明日3月14日から国会で審議が始まる。しかし、「なぜ法改正が必要なのか?」という基本的なことが、いまだ明確になっておらず、「多様化」というマジックワードが飛び交っている。
この記事では、審議入りを前に、3つの問いについて考えてみたい。



3月8日、閣議後の記者会見で、小泉法務大臣は、民法改正案について「多様化の中での社会的なニーズ」を踏まえたものであると説明している。(*1)
また、共同通信(3月12日)も、「改正案は、離婚後も父母双方が養育に関わりたいとの声が出るなど、家族関係の多様化に対応」と報じている。(*2)

Q1.立法事実は何か?

 法案論議の出発点は「立法事実」であり、「共同親権」も何ら特殊なものではない。

立法事実とは、法案の目的と手段を基礎づける社会的な事実のこと。法案の必要性や正当性を根拠付けるものであり、説明責任を果たす意味でも、憲法・法律に矛盾抵触していないかを審議するためにも、立法における非常に重要なポイントである。

「離婚後共同親権」導入の民法改正案の最大の特徴は、「立法事実が存在しないこと」ともいえる。「離婚後共同親権」導入と、「養育費」「面会交流」「共同養育」の問題との間には、論理的な因果関係がない。


Q2.法改正により何が大きく変わるのか?

現行法(*3)が実質的な「選択的共同親権制度」であることは、推進派の議員も認めるところである。
嘉田由紀子議員は「仲のいい夫婦、話し合いができる夫婦だけが共同親権ということであれば、今でもできる。」(*4)と述べている。また、梅村みずほ議員も「法制審では、葛藤の状態にない父母の場合に共同親権という議論がされているが、それは現行法でも当たり前にできることだ。」(*5)と発言している。

では、今回の民法改正により、何が大きく変わるのか?
それは、 「非合意・強制型」共同親権の導入である。すなわち、父母の合意がなくても裁判所が共同親権を命じる制度であり、別居親への「拒否権」付与ともいえるものだ。

Q3.父母の合意なき共同親権は、子の利益になるのか?

法制審議会家族法制部会では、「合意型」共同親権ならよいのではないか?という提起から合意形成が行われた。そして「合意型」を突破口に「離婚後共同親権」の導入を既成事実化した上で、なし崩し的に「非合意・強制型」導入へも舵を切っていく、という審議会運営がなされた。

 「共同親権にすることすら合意できない父母」に、長期に渡って「共同決定」を強制することが、子の利益になるのはいかなる場合か? 
この極めて基本的な問いについて、法制審議会も法務省も、何ら明らかにできていない。


さて、明日3月14日、衆議院本会議で改正案の趣旨説明が行われる。岸田政権は、これらの基本的な問いに答えられるのか? 国会審議に注目したい。

<参考資料>
*1 小泉法務大臣発言

*2 共同通信記事
共同親権法案、14日審議入り 家族関係の多様化に対応
(2024年3月12日 共同通信)

*3 現行法
民法第766条
第1項 父母が協議上の離婚をするときは,子の監護をすべき者,父又は母と子との面会及びその他の交流,子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は,その協議で定める。この場合においては,子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
第2項 前項の協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,家庭裁判所が,同項の事項を定める。

*4 嘉田由紀子議員発言

*5 梅村みずほ議員発言


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