精霊の木(上橋菜穂子/新潮文庫/2019.5.1)

守り人シリーズをまだ読んだことがない人に「上橋さんの作品ってどんな感じ?」と訊かれたら、場合によっては先にこちらをおすすめしても良いかもしれない。守り人シリーズよりも分かりやすく、スカッと感がある。だけど上橋さんの作品にいつも感じる、別世界に連れていかれるのだけど現実世界の思考にも浸食する感じは変わらない。

自分のなすべきことにまっすぐな生き方ってかっこいいなあと思う。現実ではそれが実を結ぶとは限らないし、実を結んでも分からないのだけど、小説は読者としてそれを見届けられるのが好き。

教えられた歴史が正しいとは限らないし、自分たちの科学で解明できないものがすべて空想だとも限らない。ファンタジーではあるけれど、現実社会にも置き換えて、そんなことも思う。

一方で、人それぞれの正義があって、自分と他の正義がぶつかったときにどうするのかとか。目に見えないものを妄信しすぎることの弱さとか。もっと複雑に世界が絡み合った重厚感が、守り人シリーズにつながるなあと。

精霊の木は、一本の木で、多様な木が集まって森になりそのなかにたくさんの生き物が暮らしているのが守り人シリーズという感じがする。


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