2年で人生は変わるか? -MSPH留学をふりかえる【その1】
MPH/MSPH留学者の多くが「人生を変えたい」と大なり小なり想って留学を決めているんじゃないだろうか。
実際、たった1-2年で人生は変わるのか?
この質問にグローバルヘルスひよっこだった いち留学者としての背中で答えるべく、留学振り返り記事を書きます。その1は留学開始から半年間の内容です。
合格・就職や論文の"結果"だけでなく、何を学び、どうやって意思決定をしてきたか等身大の成長記録を残せればいいな。
留学背景
留学先:MSPH in International Health (Health System) @ Johns Hopkins BSPH (2年間のプログラム, 1年目がコースワーク中心・2年目はプロジェクトベース)
バックグラウンド:公共経済修士 (保健政策の評価スキルをある程度得てからの留学、グローバルヘルスでの実務経験1年のひよっこ)
留学開始時のキャリアの方向性希望:PhD進学での研究者志望あるいは、グローバルヘルス系国際機関でのMonitoring & Evaluation analyst職など
当初の留学目的を振り返る
留学の大目的:field-based & team approachなグローバルヘルスの研究を経験・理解し、進学したいと思えた時にはPhDに合格できるだけの力をつける
MSPH出願当初の関心トピック
(軸1) Health equity (特に地域格差の解消)を目指すための保健政策はどうデザイン/評価できるのか?Universal Health Coverage (UHC)は本当にhealth equityの向上につながっているのか?
(軸2) 生活習慣病による負担が中低所得国でも増える中、政策のcontext sensitivity (上手くいくかどうかが環境や文化の背景に大きく左右されること)も増している。政策評価分野の科学は今後も現場の役に立つのか?
上記の問い方が正しいのか考え直してみること、問いの答えを見つけること・あるいは見つけるためのスキル/ネットワークを手に入れることが当初の私にとって「留学勝利条件」だった。
留学開始 (8月)
最初のアドバイザーミーティング
プログラム長との交渉を乗り越え、無事に第一希望だった先生とのアドバイザーマッチングに成功し、初回のミーティングで「PhDに行きたい、そのためのMSPHにしたいからアドバイスが欲しい」と話した。
受けたアドバイスは大きく以下の2つ。
(1) "トピック/地域/手法"のうち少なくとも2つ、人生をかけて目指そうという分野を決めていこう。これができれば、どこの誰と研究がしていきたいのか見えてくる。
(2) あまり今思っていることに固執しないこと。Hopkinsというブランドがあればある程度の方向転換はできる。PhDはユニークな問い求められるからこそ、実績レースに焦ってばかりせず、見つめ直す時間も大切に。今のテーマは確かに私(指導教官)のプロジェクトと合っている。だけど、本当にそれは君がしたいことか?受験準備を通してプロジェクトニーズに合わせに行かなかったか?……学校に慣れた数ヶ月後、Yesと自信を持っていえるなら一緒にたくさん働こう。
これを受けてのself-reflectionは下記のような感じだった。
研究対象地域にこだわるつもりはない(それが先進国出身の留学生としてグローバルヘルスに向き合う価値だとも思っている)。だから、残りの二つ (トピックと手法) をどうするか。
研究手法はざっくりと、"field-based, program/policy evaluation, quantitative analysis"までは決めていたが、ここの解像度をプロジェクト経験を通して、上げていきたい。
トピックが一番定まっておらず、UHCに生活習慣病にequityに、とバラバラしている。方向転換をするかはさておき、上手く自分の関心をまとめるような再フレーミングをするためのインプットが必要である。
8月留学開始段階で当初の「留学勝利条件」を信頼できるメンターと深堀できたのはとても良かった。
授業・Certificate選択
自分のプログラムの必修授業だけとっていてはtechnical skillの強化が甘かったので、他のdepartmentが提供する授業も選択肢に含めて、履修計画をとても楽しんで決めた。 (受けた授業まとめは別の記事をいつか書きます!)
また、Global Healthはとんでもなく広い分野単位なので、何かCV上で自分の専門性を語れるものを足したいなという思いでcertificateプログラムを探した。"program evaluation in international health"という関心ど真ん中のcertificateを見つけたので取ることに決めた。
1st term (9-10月)
この2ヶ月は授業のサイクルと新しい環境になれるのが精一杯だった。弊学は2ヶ月毎のterm制をとっているので、毎月、中間か期末試験がやってきて、忙しなさが凄かった。
どういうタスク管理をすれば、GPA をキープしながら授業以外の時間が作れるか、など過ごし方の工夫を考えていた気がする。あと、最低限送られてきたメールには全部目を通した。弊学はメーリスが多いのでメールを読むだけでも最新の研究について勉強になった。
あとは、指導教官に提案された「見つめ直し」の一環として、Department of International Healthにいる教授を調べまくった。Faculty一覧表を作ってみて、強みがどこにあるのか・どのチームと働いてみたいのかなどを少しずつ整理していった。(departmentの紹介はこちらの記事でまとめています。)
2nd term (11-12月)
2回目の引越しをしたりして少しばたついたけど、授業にも慣れてきたので、実践機会の獲得にどうアプローチするかの戦略を練り始めた。
キャリアセンターを利用してCVを仕上げる
キャリアセンターがdrop-in zoomで何度でも個人面談をしてくれることを発見した。まずは、自分のCVをすぐに送れる状況にするために、添削をたくさんしてもらった。中でも、自分の大きなストーリーに乗ってこない、あるいは成果を自分の言葉で説明できないような小さな経歴を(羅列型のCVであっても)書かない勇気を持てたことは、1月以降にインタビューでうまく自分をプレゼンする為の土台になったと思う。
留学開始から3ヶ月、以前よりすっきりとした、しかし力強いCV/Resumeが 学内奨学金獲得用と、RA応募用の2種類出来上がった。
運命の授業 "Large-Scale Effectiveness Evaluations of Health Programs (LSEE)"
certificateの一環としてとった LSEE というクラスが本当に素晴らしかった。この授業を受けただけで、留学にきた価値があったと思っている。
"Evaluate health programs from conception, planning and design through data collection, interpretation, and analysis in low-and-middle-income settings" をするための専門性を身につけるための講義で、Dr. Melissa Marx を筆頭にCDCやUSAIDでグローバルヘルス分野でのevaluation studyを率いてきた講師陣が経験を盛り込んで話してくれた。
Evaluationというトピック学習を通して、「グローバルヘルス」プロジェクトの全体像をずっと具体的にイメージできるようになった
簡易的にまとめると上記のような流れで、(STEP 1)でリサーチの核を作り上げた後、私が想像していたよりずっと早い段階でlocal stakeholderとの関係性の構築が始まるようだった。すなわち、研究の詳細がpolitical なダイナミズムに揉まれながらできていた。「グローバルヘルスは実務と研究の接点」とは分かっていたが、想像以上に現場に近い課題解決アプローチが(少なくとも弊学では)取られていた。
これを踏まえて、RCTができるとか、コホート研究ができるとか、DiDにしようとかそういうリサーチデザインの細かい部分の専門性は、グローバルヘルスの専門性の全てではないと考えるようになった。
(STEP 2)が始まった時点で、グローバルヘルス研究にはevidence gapを埋めることに加えて、組んだパートナーにどんなnext stepを提供できるかが勝負になる。
(STEP 5)はいつまでも待ってくれない。ドナーのプロジェクト更新時期が1年後にあるならば、それまでに結果の出せる研究デザインでないとエビデンスの白黒にかかわらずpolitical willは次に向けて出来上がっていく。
「いつまでに、どれくらいの予算で、誰にstoryを提供したいのか」に研究者の視点で考え抜く:常に限られた資源の中で、パートナーシップから生まれる実務的要請と、エビデンスの強度のバランスを研究者として見極めながら、プロジェクトデザインの最善を取り続けるのがこの分野の戦い方なのだと学んだ。また、上記の実践の中で、mutural capacity-buildingを推進することは必須のミッションであり、「RQを設定し、答えを見つける」というプロセスを通して社会の状況をより良く理解し現場とともに成長しよう、と多くのリーダーが当たり前に考えていた。
専門性の奥が深すぎる。ちょっとでも気を抜けば、実務家になってしまう。その分野で、研究者としてのプライドを持ち続けることがいかに難しいかすごく伝わってくる。一生勉強してもたどり着けるだろうか…
めちゃくちゃ面白いな?!
と思った(笑) 多分、上記の感覚は新しいfundingに常に溢れ、実務方面にも発言力を持つJohns Hopkinsで学べたから得られた感覚だと思う。
この感動をもって、PhDを目指す決意が固まった。自分のトレーニングギャップがわかったし、研究プロジェクトがグローバルヘルスにもたらしている価値の形が掴めたからである。
決意新たに、当初の目的を一旦練り直す
年末が近づいてきた頃、新鮮な学びに自分の心が躍っているうちに、目標を練り直してみることにした。
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STEP 1-5の出来るだけ多くのフェーズとフェーズ間の繋がりを経験し深く理解する。
stakeholderと作り上げるコラボレーションプロジェクトの醍醐味を学び、論文という成果物が世界を変えるというよりも、そこにたどり着くまでの "knowledge generation"の過程でまずは成果を出すことについて、自分の言葉/経験で語れるようになること
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この問い方にあまりセンスがなさそうだ。
(1)専門家を求める現場と(2)専門家に投資するドナーの存在 を弊学で身近に感じた。この二者が揃う限り、(たとえ価値を生み出せていなくても)グローバルヘルス研究を誰かがやっていく。
論文自体が世界を変えるか?については、正直、しばらくやってみないと分からなさそうだ。でも、上述のように研究のプロセスにも意味があるならやり甲斐は十分じゃないか、と思った。
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このトピック関心のre-framingプロセスはうまく言語化するのが難しい。
UHCの授業をとった。このterminologyが必要以上にfinancialのトピックに結びついて語られすぎじゃない?と思った。経済学も大好きで、「経済学=お金の話をする」という自分のバックグラウンドへの安易な解釈をされるのが苦手なこともあり、UHCとは違う言葉を使って自分の関心を示したいな、と思った。UHCは結局手段だ。
弊学にはMDの生徒が結構多い。その中で非MDの私が担うべき視点は、"horizontal"アプローチ(疾患ベースでターゲットを決めたりするverticalの対になるアプローチ)だなと再認識した。
課題も課題解決の鍵も地域/現場密着にあると信じている人間として、似たスピリットがあるトピックがいいなと思った。
…こんなことをぐるぐると考えながら、一旦出した自分のトピックキーワードの答えは、
Strengthning Community-oriented Primay Healthcare
です!一旦ね、という気持ち。でも、人生大事なタイミングでは決め打つことが大切なのでね!!
まとめ
振り返り記事その1は最初の半年でおしまいです。
ここまで、人生を変えるような「成果」は何も出ていません。
でも、こういう自分の目標をどう捉えるか、という部分での成長をずっと続けていきたいなと思います。
留学、いいじゃん!と思ってくださる方が、少しでもいれば嬉しいです。
その2では、パワーアップした目標に向かって、ついに具体的な機会を取りに行く話を振り返りたいと思います。
振り返りその1、おわり。
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