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「図書ニュー読書部」2014年4月掲載

2014年に少年写真新聞社の「図書館教育ニュース」の付録版の冊子で連載していた読み物の元原稿です(紙面と若干異なる部分があります)

図書館教育ニュースの読書部を略して図書ニュー読書部です(笑)。紹介する本は実在の作品ですが、架空の読書会です。

 部長「こんにちは。それでは第一回の図書ニュー読書部をはじめます。まずは自己紹介から。わたしは高校一年の東雲朔良です。梨屋先生の読書会に参加しているご縁で、このたび読書部の部長を任されることになりました。よろしくお願いします」
 ありりん「作家の梨屋アリエです。先生じゃなくて、ありりんって呼んでね。ここでは読み方の指導ではなくて、「図書館情報ニュース」を読んでいる皆さんに読書部の雰囲気が伝わるように記録をする役目です。この読書部では部員の皆さんに本に関する話を自由にしてもらいます。はい、次の方」
 ナミ子「えっと、中学三年の砂子菜美真です。ナミ子って呼んでください。きょうは本の話ができるっていうんで、塾友を連れてきました。ほら、トモも自己紹介して」
 トモ「ええと、中三の飯島智裕です。塾は同じだけど学校は別です。本はあんまり読まないんだけど、ナミ子に絶対に来いって言われて。バスケやってて、今日は練習のあとに来たんで、汗臭かったらすんません。で、おれになんの関係あるの?」
 ナミ子「あるある。「週刊少年ジャンプ」で連載している『黒子のバスケ』って漫画、みなさん知ってますよね?」
 部長「アニメにもなっているね。高校の男子バスケの話」
 ナミ子「そう、その主人公の黒子テツヤくんが本の虫って設定で、よく本を読んでいるんだけど」
 ありりん「ちょっと待って、先にあと一人、自己紹介。はい、夏目くん、どうぞ」
 夏目「はあ。高二の夏目奏介です。自分はあまり漫画は読まないかな。本はわりと読むけど。以上です」
 ナミ子「漫画も面白いですよ。でね、お姉ちゃんが買ってきた『黒子のバスケ』を読んでいたら、一巻で発見したんです。黒子くんが辻村深月さんの『凍りのくじら』を読んでるの。これを話したくて、持ってきたんです。ほら、85ページ」
 部長「本当だ。小さくタイトルが書いてある。ストーリーには全然関係ないのに良く気付いたねぇ」
 ナミ子「読書の場面があったらなにを読んでいるか気になるじゃないですか。黒子くんは『細雪』や『こころ』や『うたかた』も読んでいたけど、五巻では『スロウハイツの神様』を読んでいたんです。わたし、嬉しくって。辻村深月さんの本を知っている人に、ずっと教えたかったんです! 読書部って、こういう話をしていいんですよね?」
 部長「いいよ。わたしも辻村深月さんの本は何冊か読んだかな。十代が主人公の作品もあって読みやすいし、人気の作家さんだよね。人の描き方にドキッとする。ひんやりした雰囲気も」
 トモ「ひんやり? 冷凍クジラかなにかの話なの? 漫画は持ってきているのに、肝心の本は持ってきてないのかよ」
 ナミ子「いま友だちに貸しているの。『凍りのくじら』の主人公は高校生の理穂子って女の子。話にドラえもんの道具が出てくるんだよ」
 トモ「なんでくじらで女の子でドラえもんの道具なの? 意味がわからん」
 ナミ子「今度貸してあげる。でも、文庫本で挿絵がないし、ふりがなが少ないから、本を読まないトモにはちょっと難しいかな……」
 トモ「ナミ子に読めたんなら、おれだって軽ーく読めるだろ。おれクジラの肉、食ったことあるし」
 ありりん「わたしは昔オーストラリアでカンガルーの肉を食べたよ」
 ナミ子「そういう話じゃないから!」
 部長「好きな作品の登場人物が自分の好きな作家の本を読んでいたら、嬉しいよね。わたしも黒子くんと辻村深月さんの本の話をしてみたい」
 夏目「話の中に出てくる本って、自分もわりと気になるほうですね。架空の本なのか、実際にある本なのか、調べてしまう」
 部長「ジョン・グリーンの『さよならを待つふたりのために』には、『至高の痛み』という架空の小説が出てくるんだけど、十七歳の主人公ヘイゼルは、その未完の小説の続きが読みたくて作者に会いに行くの。恋人にも同じ本を読んでもらって」
 ナミ子「その本、学校の司書さんに勧められて春休みに読みました。なんか、じわじわくる話だった。自分が生きているって、すごく不思議で、大切なことなんだなあって思えて。命は大切ってわかっているけど、自分の存在とか命の時間について、自分はあんなふうに真剣に向き合ったことがなかったなって」
 部長「主人公はがんの患者なんだけど、いわゆる『泣ける本』というのとはちょっと違ってて、いろんな人に共通する深いことが書いてある、いい本だよね。本の感想のやり取りでストーリーが進んでいく作品って他にもあると思うけど」
 ナミ子「有川浩さんの『レインツリーの国』にも架空の本が出てくる。本の感想のブログがきっかけで、二人は恋に落ちるの」
 部長「そうだったね。実在する本を書いた作品では、今思い浮かんだのは橋本紡さんの『九つの、物語』いう短編集。読んだ人いる?」
 夏目「ああ、ずいぶん前に読みました。大学生のゆきなとお兄さんとのやり取りがべたべたして、自分にはちょっと甘すぎで……まあそのへんはネタバレになるんで言いませんけど。ゆきなはお兄さんの本棚から古典作品や名作文学を選んで読んでいくんです。ストーリーとの絡みもあって面白い。経験によって作品の捉え方が変わっていったり、井伏鱒二が『山椒魚』を改変したことについて登場人物があれこれ違う角度から考えて解釈したりする」
 ありりん「その本、料理を作る場面が多いよねぇ。読んだ後、トマトスパゲティを作って食べちゃった」
 部長「ありりん、食べ物に反応」
 ナミ子「食べ物は気になりますよ。作っている場面を読んでいると、食べる場面よりおいしそうに思うもの。なんでだろう、行程があると期待しちゃうのかな」
 ありりん「小説で描かれる読書も、そんな感じなのかも。自分だったらどう読むだろうって、気になって読んでみたくなるね。参考文献なんかも。そうやって買ったきり読んでない本がうちにはたくさんあるけど」
 トモ「だめじゃん、買ったらちゃんと読まなくちゃ」
 ありりん「はい……しょんぼり」
 夏目「本が手元にあるだけでも、嬉しいものだよ。いつでも読めると思うと、読んだ気分になって安心してしまうことは自分にもある」
 トモ「ふうん。みんな本当に本が好きなんだね。おれだけ場違いじゃん。なんでおれを呼んだの?」
 ナミ子「だってバスケ部だし、きっかけができれば黒子くんみたいに本が好きになるかもしれないでしょう。共通の話題ができたら、塾でも二人でいっぱい話ができるし……」
 トモ「えっ。おまえ、おれと話がしたいの。もしかして、おれに惚れてるの? うほ、顔が真っ赤」
 ナミ子「やだ。何言ってんの。違うよ、バカッ。違いますからね!」
 ありりん「はいはい。こそばゆいから今日はこれまで。また来月ね」


支えられたい……。m(_ _)m