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盲ろう者の田畑さんとなにかの本を作ろうと思っている件 その14

これまでのお話はこちら

三月の出来事の続きです。

開館時間になったので、21_21 DESIGN SIGHTの企画展「トランスレーションズ展 −『わかりあえなさ』をわかりあおう」へ移動。

触手話をしながら歩く田畑さんと夏実さんを後から撮影(掲載許可済み)。

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コロナの影響で会期を延長したようで、2021年6月13日(日)まで展示しているようです。
和田夏実さんの手話をつかったインスタレーション作品の展示もあります。

わたしは展示を見たり聞いたりすることはできるけど、田畑さんはどうするのかな……。何かの方法で展示を説明してもらうのかと思っていたのですが、とくになにかがあるわけではなく、夏実さんとすこし中を歩いたあと、イスに座って触手話でおしゃべりされていました。どうぞ見てくださいということなので、ひとりで一通り見ました。印象は、最新のテクノロジーを使っているのもありますが、十数年前にICCで見たような感じの懐かしさがありました。「翻訳」という文脈で集めたところが、面白いと思います。

さて、展示を見おわった。この後ランチをする予定。夏実さんは次の仕事があるのでここまでです。田畑さん、展示を「見て」ないけど、いいのか。
田畑さんからは、一緒に行きましょうというお誘いだったので、一緒に鑑賞しましょうとは言われてないのです。こちらとしては盲ろう者の田畑さんはどうやってインスタレーションアートを鑑賞するのか、というのを知りたかったのですが、それに関する質問をわたしから直接してなかったので、ここに誘ってくれたけど展示には興味をお持ちでないのかな……というぼんやりもやもやした状態で最後まで過ごしました。その場でなにかを感じようという雰囲気でもなかった。出展者の夏実さんがついているので、何らかのやりとりはあったと思うのですけど。生まれつきの盲ろうの方は、体験から言葉の概念を広げていくそうなので、目や耳を使うだけで触れない作品の場合、説明されても具体的に思い浮かばすに楽しくないのかな、本人に聞いてないから、これはわたしの想像ですが。そもそもアートって言語だけで説明しようとしたら、説明できない部分のほうが多くて、面白いものではないですね。
 田畑さんが一緒に行きましょうと誘ってくれたことは、ここにわたしを連れてきて夏実さんを紹介してくださるのが目的なのか、一緒にこの場所に来ることが目的なのか、わからずじまいです。

 田畑さん、ランチにお寿司を食べたいとのこと。なぬ!? 六本木で寿司だと!? ちょ、ちょっと待て……!!!  
「ミッドタウンのなかならお寿司屋さんがあると思う」という夏実さんのご助言があったので、お店のある方にもどります。すると、田畑さんが、ホワイトデーのプレゼントを買いたいとのこと。そういえば、朝、会ったときにもスマホに書いていました。クッキーが買いたいらしい。わたしは六本木のお店がわからないので、帰り道の横浜のお店で買えばいいかなと思っていたのですが、六本木で買いたいようでした。夏実さんと分かれる前にその話が再び出たので、一緒にお店に行ってもらえました。よかった。二人のやりとりを見ていたら、わたしにはまだ難易度高すぎる。どういうポイントを説明して、どんなふうに選択してもらえばいいのか、勉強になりました。無事にプレゼントを買って、そこで夏実さんとお別れです。ミッドタウンの真ん中で、田畑さんと二人になりました。ここからは再びスマホの文字を使った会話です。

 さて、ランチ。六本木の寿司屋というシチュエーションが怖いわたし。ミッドタウンのお店がわからないと伝えると、「インフォメーションに聞きましょう」と、田畑さん窓口に突進していきます。田畑さんはスマホに文字を書いて、受付のかたに読んでもらって、口頭の返事をアプリで文字に変換して読もうとしますが、そういう経験がない一般の人には、「突然スマホを顔の前に突き出された」という状況になるので、驚く、困惑する、という態度になります。おそらくこのときはスマホを買ってそれほど経ってなかったので、田畑さんも慣れてないんだと思うのです。多くの人は「他人のスマホの画面の文字を読む」という習慣がないのです。それに支援アプリの存在も使い方も知りません。それを伝えるべきか悩みましたが、そんな暇がありません。田畑さんの聞きたいことをわたしが口頭で伝えます。でも、わたしは勝手に「お寿司屋」ではなく、「リーズナブルな回転寿司店」はありますか、に質問を変えました。
おねーさまは「あいにく回転寿司はございませんが……」とフロアガイドのパンフを広げて、お寿司屋さんは二カ所あると教えてくれました。予想通りお高そうなお店です。しかも単品じゃなくておしゃれなセットメニューぽい。これは前回の経験から予測すると田畑さんがお寿司やさんで食べたいと思っているものとは多分違う。田畑さんが食べたいのはおそらく「ご飯のないお寿司」なので、つまりお刺身なのです。値段もですが、デザイナーが作ったようなおしゃれランチに、こちらの要望が通るかわからないので、わたしは全力で回避することに。
「横浜にもどってからランチしませんか」「そうしましょう」 ……よかった!!!
でも、さらなる難題が。ランチの前に郵便局に行きたい、と。なぬ? 田畑さんがさっき買ったホワイトデーのプレゼントを発送したいそう。郵便局を表す手話は、田畑さんから前にいただいた本で知っていました。郵便局はわかりやすい。
郵便局がどこにあるかわからないと文字で伝えると、またインフォメーションの窓口のほうへ。スマホの文字に気づいてもらえないので、わたしが代理で聞きます。すると、休日窓口のある郵便局を口頭で教えてくださいました。が、念のため、ここからどのくらいかかりますかと聞いてみたら、歩いて20分ぐらい、と。気が遠くなりました。ごめん、むり。六本木界隈20分も歩いたらわたしはおしゃれ殺菌されて死ぬ。スギ花粉もコロナも怖い。
今日は日曜だから近くの郵便局は開いていないと伝えたら、休日窓口がある、と。う、休日窓口の存在を知ってましたか……。
「渋谷に行きましょう」と田畑さんが突然提案。なぜ渋谷!? 渋谷の郵便局は日曜日も開いていると記憶していたようです。うん、確かに休日窓口のある郵便局が渋谷にあるね。でも、ちょっと待って、渋谷は横浜へもどる途中にあるけど、渋谷のあの郵便局に行くまで駅から少し歩くよね……と、ぐるぐる考える。田畑さんは渋谷と決めて駅方向に歩き出す。えええ……、言われたとおりに行くべきなのか。いや、むり。わたし、ボランティアや同行支援で来たわけじゃないし、と、ぐるぐる考える。渋谷寄ってから横浜でランチってなったら、もうランチの時間じゃないだろうし、どんだけ時間かかるのか。明日行ってというのはダメなのかな。本心は「面倒くさいからいやだ」の一言なんだけど、家族になら言えてもそれを他人には言えないよ。うーん、他に郵便物出せるところって……あ、思い出した。
「横浜駅のそばにも郵便局の休日窓口があるので、横浜にいきましょう」 どんだけ横浜に帰りたいんだ、自分。(横浜だって得意じゃないけど六本木よりは家に近いだけまし。)
 そうしましょうと言うことになりました。で、来たときはJR湘南新宿ライン+日比谷線でしたが、帰りは東急東横線の特急に乗りましょうとのこと。田畑さんの頭の中には路線図が入っているんだなあ。
 電車の中で、田畑さんから、おなかがすいたので先にランチにして、その後郵便局に行きたいという提案。ランチは前に一緒に行ったのと同じ回転寿司店で。OK、OK、そのつもりでした。はじめにしっかりこっちの希望を伝えておけば良かったんだなあ……。伝えてなかったり、遠回しな表現をしたせいで、一人であたふたしてしまいました。スマホの文字のやりとりでは時間がかかるので必要最低限の言葉になってしまう。手話で「面倒くさいな~」とかの軽口を伝えられるようになったら、楽しいだろうね。

 田畑さんと一緒に歩かないと気づかないことがたくさんあるので、バリアフリーの本作りの参考になるかもと思います。いつも行かない場所で朝早かったのでくたびれましたが、楽しかったです。
(ランチ後、郵便窓口の対応やプレゼント発送の宛名書きのお手伝いをしましたよ。ご安心ください)

『わかりあえなさ』をわかりあうのは、意外と楽しい。

続く


 


支えられたい……。m(_ _)m