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『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が『冥王星から来た宇宙人』だったら

最近、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が、あやうく『冥王星から来た宇宙人』というタイトルになりそうだったという裏話を知ったんだけど、もし『冥王星から来た宇宙人』みたいなわけわからんタイトルだったら、映画はあそこまでスマッシュヒットしたかな!?とか思ったりしたんだけど、どうなんですかね。

こういう裏話って好きだな。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』ネタでまだ続けると、最初はマイケル・J・フォックスではない役者で撮影が進んでいたらしい。どんどん撮影するなかで、映画のトーンがなんか暗くて、「ああ、やっぱりマイケルじゃなきゃだめだー!」ということになり、そこまでの分を全部取り直したんだって。ヒットのためなら、それくらいのことしないとだめなのかなと思うと怖いけどね!

この間もnoteに書いたけど、今回の『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』も編集者Kさんと私ののあいだで多くのタイトル候補があったっけ。あやうく『目の見えない白鳥さんとアートを見たら、ワンダーランドに降り立った』というタイトルに決まりそうだったんだけど、「要素が多すぎて意味がわからん」という指摘を受けて断念。もうちょっとトーンダウンして『見えない人とアートを見にいく』 といった案もあったんだけど、それは私は違うんじゃないかという意見。というのも、目の見えない人とだったら誰とでも同じ体験ができるわけじゃないし、白鳥さんだからこの体験ができたわけで。

というわけで、タイトルにもダイレクトに「白鳥さん」っていれちゃえってことになりました。ヒットにつながるかはわからないけど、まあわかりやすいし、なんかすっきりかな。

いよいよ明後日発売なので、そう、なんか裏話をしましょう。締め切りあるんだけど、いろいろそっちのけで、何か書きたい気分。

本を手にしてもらえるとわかるんだけど、けっこう分厚い本である。見本が届いたときに、え、こんな分厚かったの!?って本人もびっくり!

ページ数がいっぱいあるのかというとそんなこともなく、ごく普通な336ページなんだよね。そうか、本文用紙がちょっと厚めなのね。

昨日この本屋さんたちのツイートを見て、この本って何センチくらいあるんだろと思ってしまい、ふと測ってみたところ27ミリくらいだった。ということは、本屋さん達の通販に使われてるクリックポストとやらにおさまるのかおさまらないのか。もしかしてギリギリなの? 緩衝材いれると厳しいのか? ぜひ収まって欲しいがどうなんだろう、ということで自分でも友人に一冊クリックポストで送ってみることにした。いまから投函するのでまだ結果はわからない。これ読んでるかわからないけど、菅原くん、受け取ったら教えて?

本の作りについて カラーVSモノクロ

この本は開いてみてもらうと、ところどころカラーのページが現れる。アート作品の写真が出てくるページである。この本には32のアート作品の写真が掲載されている。

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一般的に、書籍に写真をカラー写真を載せるとなると、メジャーなやり方は「口絵」と言われる方法である。単行本、雑誌などの巻頭にまとまって入っているカラーページ、あれです。なんで口絵っていうんだろ。本の最初にあるからかな?

なにも最初じゃなくて真ん中らへんにめとめて入れるという手もある。この場合も口絵というのかどうかはよくわからないが、どちらにせよカラーのおページをまとめるメリットは、印刷コストが低く抑えられることだ。そのロジックはまた後述する。

今回の本も、「口絵でいいじゃないか、なにを贅沢いっとるんじゃい」というという考え方ももちろんあったんだけど、自分としてはどうしても今回ばかりは口絵がピンとこない。

この本は、アート作品を見ながらした自由な会話が、本の心臓部である。絵と会話が遠く離れちゃうと、どうもお休み中の美術館みたいで、チグハグした読書体験になるのではないか。考えれば考えるほど、絵と会話はシンクロしないとダメだわ、絶対そう!と確信を持った。

しかし、そうするとどうしても本文のあちこちをカラーにしないといけない。これは大変なことだ。しかもなるべく印刷の費用をおさえるためには、全ページカラーではなく、一部だけをカラーにするしかなかった。

もうちょっと具体的にいうと336ページの本というのは、16ぺージの紙の束が21個束ねられているという計算になる。だから考え方としては、どこかセレクトした16ページの束だけをカラーにする、という考え方である。さきほど「口絵はコストが安い」と書いたんだけど、それは最初の16ページなりなんなりだけをカラーにすれば良いわけなので、当然コストは抑えられる。

だけど、今回、32の作品の展開に合わせてカラー写真をあちこちに散らばすには、どう少なく見積もっても、21の束のうち、8束をカラーにする必要があった。さらに厄介なのは、その1束/16ページのうち、カラーにできるのは、半分の8ページだけだときてる。ややこしいですよねー?

そこで、うまく内容と合わせて作品写真を配置するにはどうしたらいいのか。

答えとしては、ちゃんとした台割りを作り、本文を書く私自身が、出てくる写真の位置にあわせて本文も調整していくしかない。

台割り死守!絶対!!

↓(途中段階の台割りです)

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とかいっても、この本はパンフレットとかガイドブックとかじゃないんで、あまり文字数の制限に縛られず、書きたいことは過不足なくきちんと書ききりたい。もともと書きたいことを書きたいように延々と書き連ねることを得意とする私のような人間には、ページに合わせて文字数を調整することは修行めいた厄介なプロセスだった。
あっちを削ったらカラーページがずれ、あっちを増やしたらまたページがずれ......うげげげっ。

ああ、やだやだ、こんなことしたくない!と思うんだけど、でも、5秒たつと、ええーい、やったるで、という気持ちがわきおこった。

というのも、私はこの本で読者の方に私たちの鑑賞体験や会話を追体験して欲しいのだ。そのためだったら、文章量を調整し、結果として多少の文章を犠牲とするのはオッケーである。それよりも、読みながらら、写真(作品)を見て、白鳥さんと会話し、楽しく美術館に行く擬似体験をしてほしい。そうして、ゆっくりと読みながらいろいろ考えていく時間を作り出したい。その気持ちだけが怠惰な私を引っ張り続けた。

ゲラに赤字をいれる作業は難航を極めた。「何章は何行削ってください」「何章はむしろ増やしてもOKです」というKさんの指示のもとに足したり引いたりをするのだけど、これがなんということでしょう。なぜか最終的に削った分以上のものが増えている、ということが繰り返された。なぜそういう事態になるのかは全然わからない。ちょうど昨日Kさんもこんなことを呟いていた。


そうなのだ、削ったはずが増えているなんて。なんだろ、時空が歪んじゃったのかな。小人がいたのかな。ただ計算ができないひとなのかな。

そうこうしている間にも校閲さんや関係者から指摘や赤字が入ったりして、そっか、じゃあもうちょっと説明しないとダメか、と思うとまた文字が増え、あっちを調整し、こっちを調整し。あれ、また1行増えてないか?やっぱそうだよね?ああ、気が狂いそう!!なにはともあれ、そういう試行錯誤と七転八倒を経て本文はできあがった。

カバーデザインあれこれ

前も書いた通り、カバーデザインを担当してくれたのは佐藤亜沙美さん(サトウサンカイさん)だが、佐藤さんもまた、さまざまな制約があってちょっと大変だったかもしれない。

本文ページでコストがかかりすぎてしまったので、印刷でできること、そして使える紙も限定されてていた。しかもタイトルまでギリギリまで決まらないので、デザインワークをスタートできない。私はある日、時間がないなかで全然思った通りのデザインの方角に進んでいたらまずいぞ「佐藤さんとしゃべらないと!!」と思い、オンライン会議を提案。なかなか会えないので、オンライン会議で、じわじわデザインを詰めていく編集者Kさん、佐藤さんと私。

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それでも、さすが!!佐藤さんはさまざまな方向で考え抜いていた。「じゃあこうしてみましょう〜」といいながら、佐藤さんはその場でデザインをどんどんブラッシュアップしていく。こうして、あれこれ話している1時間ほどの間にほぼ現在の1色+箔押しのデザインができてきてしまった。

やたら長いタイトル文字を横に読ませたり、縦に読ませたりするのが斬新である。箔押しの赤がぱきっとして、文字も見やすい。一方で丸っこい字体がかわいらしく、ちょっと笑える感じもある。よくみると、文字が少しだけ黒い視覚の端っこにに乗っかっていて、全部がちゃんと見えないのもニクい。

そのほかにも、細々した仕掛けや工夫がいっぱいある本である。そのひとつが、テキストデータの提供である。本の巻末にあるQRコードがあり、そこにアクセスするとテキストデータがダウンロードできる。これは視覚に障害がある人や、文字で追うことが難しい人向けのサービスなので、誰か利用してくれる人がいるととても嬉しいなと思う。

あと、他にもいろいろ気付く人は気づくであろう仕掛けがある。でも、ぜんぶネタバレするのもつまらないので、あとはじっくりと発見してみてください。

イラストは、映画「花束みたいな恋をした」にもイラストが登場した、朝野ペコさん。三人ともいい意味でそんなに特徴のない後ろ姿だから、どこか不思議の国に旅立つような。三人は私たちであり、また他の誰かなのかもしれない。

さて、あとは発売を待つだけである。だいたい4日(土曜日)には店頭に並ぶらしい。サイン本もいっぱい作ったのできっと今頃各地の本屋さんにあるはず!!(把握している限りで言うと青山ブックセンター(東京)、スタンダードブックストア(大阪)、ジュンク堂池袋、ジュンク堂滋賀草津、そしてポルべニールブックストア(追加分))

編集者Kさんも今頃、無事に出版にこぎつけてほっとしているだろうか。それとも、イベントやらフェアやら取材やらの対応に追われてそれどころじゃないかもしれない。

写真掲載の許可というロングジャーニー

私が本文調整で四苦八苦している間、Kさんは写真掲載の許可やクレジットの確認でとても大変そうだった。写真は、こちらで撮り下ろしたものもあるのだが、ほかはどこからか借りてくる必要がある。どちらにせよ作家本人と作品所有者、そして展覧会を開催した美術館の許可がそれぞれ必要だ。たとえば、本にはレオナルド・ダ・ヴィンチの作品も出てくる。これはイギリス王立コレクションの一部なので、そこまで追いかけていかないといけないのだ。そのほか、クリスチャン・ボルタンスキーだったら、もちろん本国フランスにデータを送り、本人の許可を得るということになる。ボルタンスキーは今年7月に亡くなったのだが、その直前に許可をいただくことができた。ボルタンスキーに、私が遠く離れた日本で本を書いていることを知ってもらえたのだろうか、と想像すると不思議な気持ちになる。その他多くの作家さんや美術館とやりとりが行われた。みなさん快く写真を掲載する許可をくださった。ありがとうございました。

そんなことも含め、Kさんと私は進捗状況の確認やらお互いの質問に答えたりで、とにかく今日まで膨大な数のメールのやりとりをした。どれくらいメールしたのかなと思い、いまなんとなく検索してみたら、この2年間でだいたい400通だった。すごいよね。2日に1回はなんらかのやりとりをしている計算になる。

フェアとイベントのお知らせ!

と、ここまで読んでくれたんだみなさん、ありがとうございます。ここからはちょっと告知モード。なんと9/4から、西荻窪の今野書店で一ヶ月の選書フェアをやってもらえることになった。

どうしよう、とても嬉しい。今野書店は実は私がもっともよくいく書店で、ああ、こういうところに自分の本をずらっと並べたいと勝手に夢想していたところなのである。見た目、普通の街の書店なんだけど、選書と雰囲気がいいの。いつも静かに混んでいて、本好きの人が真剣に本を選んでいる感じで、行くだけでなんとなく気分がよくなる場所。

実は、私は、去年の夏までは小規模な本屋さんが一件だけしかない、いわゆる本屋不毛地帯に住んでいた。タワマンが何棟も建ち、人口が大爆発している街なのに本屋さんは一軒だけ。寂しい限りである。しかもベストセラーと実用書が中心の本屋さんだから、もちろん私の本なんか置いてもらえるわけもない。

こうなったら、いつかその書店に自分の本を置いてもらえる日を目標にしようとすら思っていたけど、そんな夢はあまりにも不毛だし、そもそもこんな本屋不毛地帯に住み続けるなんて、ああいやだと感じ、思い切って選んだ新天地が本好きがたくさん住む街、西荻窪だった。そんな街の、地元書店でフェアができるって私にとってはウルトラビッグなできごとです。

どういうふうにフェアが決まったかというと、実は記憶がすでに曖昧である。確か、今野書店で花本武さんがゲラを読んでツイッターのDMでご連絡をいただいたんだと思う(しかし面識はなかった)。
花本さんは私が西荻に住んでいることを知っていたのだろうか? 
それを確認する間もなく、どどどど!!という勢いでフェアが決定。「自己紹介がわりに15冊の本を選んで欲しい」ということなので、過去30年にわたって好きな本を選んだけど、わりと最近の本も多めだ。


そして、せっかくなので今回の例の再校ゲラも一緒に売り場に持っていくことにした。校閲さんと編集者ふたり、私の計四人が手をいれたゲラはどんなものなのか。ま、そんなに激面白いものじゃないけど、本作りのマニアックな裏側に興味があれば、よかったら見にきてみてください。前に牟田都子さんと栃木でトークしたときにゲラの一部を持っていったんだけど、けっこう興味持っている人もいた気がしたので、今回は全ページを一挙公開。

そして、白鳥建二さんの「読み返すことのない日記」も展示する。

「読み返すことのない日記」ってなにそれ??
と思ったかたは、ぜひ本書の第8章を!

なんだかやたらと詰め込んだ感がすごいフェアだなあ。わたしも無意味にウロついている時がありそうなので、無意味に逐一お知らせしたい。見かけたら声をかけてください。1.5メートルの距離をあけてお話ししましょう!

その他のイベント!

9月4日には松本シネマセレクトで映画「白い鳥」上映会&トーク。
ちょっと先になるけれど、B&B(イベント9月15日 with 佐久間裕美子さん)、代官山蔦屋書店(イベントとフェア10月7日 with 和田静香さん&金井まきさん)、ブックスキューブリック(イベント9月22日)、とらきつね(イベント10月3日)などが次々と決定しているので随時お知らせしていきますね。

ねえ、『白い鳥』ってなんだ!?と思ったかた、説明不足ですみません。私たちは、この本執筆と同時進行で中編映画も作っていたんです。そのトレーラーを。白鳥さんとの鑑賞体験、ちょっとチラ見できます。

ではでは!





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