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家探しで足が攣る

2020年4月4日(土)

【Day 16】

今日はいよいよインスペクション(内見)の日。

いくつになっても内見は、理想的な生活を夢見てワクワクする極上のエンターテインメントである。セルフアイソレーション明け、2週間ぶりの外出となれば尚更だ。

今日はアッコが6軒の内見を予約した。最初のアポは9時ということで、いつもより2時間も早く7時に起床し(つまり、この2週間9時まで惰眠を貪り続けた)、そそくさと朝食を済ませると、家族全員で久しぶりの外に飛び出した。

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セルフアイソレーションが明けたとはいえ、今はニューサウスウェールズ州全体で外出禁止期間だ。きっと街がゴーストタウンと化しているだろう。

生活に必要不可欠な外出はOKとされているけれど、もし怪しまれて声をかけられたら即言い訳できるようにしておかないとな。「住む家がないと生きていけないんです!」的な。We can't live without looking for our house to live!とかかな?

やや緊張しながら通りへ出ると——

——なんのことはない。みんなめっちゃハングアウトしてるやんけ!

レストランやカフェはクローズ中だが、テイクアウトはできるし、みんなソーシャルディスタンス(フィジカルディスタンスという方がいいかな)を意識してはいるが、どう見ても「生活に必要不可欠な外出」には見えないリラックスムードが漂っている。

やや拍子抜けしたが、同時に安心したことも確かだ。これで堂々と歩ける気がする。

さて、3軒目のアポの前に少し時間が空いたため、物件の目の前にある公園で時間を潰した。

さすがラグビーが盛んなオーストラリアと言うべきか、公園のほとんどの面積をラグビーコートが占めていた(そしてそこで自主練中のラガーマンもいた)。

広大な芝生の敷地を見るや、犬のように駆け出す三女。その横を本物の犬たちが走っている。贅沢な空間だ。

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犬たちを見ながら長女が呟く。

「こんな広い公園があったら犬を飼わないともったいないよー飼おうよー」

長女は以前から犬を飼いたくて仕方がない。しかし、その期待には応えられないのである。主に(僕の)経済的な理由で。

「無理だなー、おとうがママぐらい稼げるようになったら飼えるかもしれないけど」

「そうなの?」

僕の言葉を真に受けた長女は、いきなり前を歩くアッコの元に駆け寄り、大声で問いただし始めた。

「ねーねー、おとうがママぐらい稼げたら犬飼えるの?」

アッコはそんな長女を諌めた。

「やめてよ、大声でそんな話」

「なんでー?」

「恥ずかしいから」

「えー、でも誰もウチらの話わかる人いないじゃん」

長女がなおも大声で話す横から、聞き慣れた言語が飛んできた。

「いいぞー、次はジグザグドリブルな!」

そこには、サッカーを練習する日本人親子の姿があった。明らかに稼ぎそうな日焼けした精悍なお父さんがチラリとこちらを見たが、決して恥ずかしいことなんかないのである。

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6軒全て見終わった上で、こちらでのインスペクションの印象はというと、日本とそんなに変わりはない。

物件前でエージェントと待ち合わせ、鍵を開けてもらい、中を見る。わからないことがあれば質問する。エージェントは必要以上に話しかけてこないし、押し付けがましい売り込みもしない。人にもよるだろうが、概ね日本における内見と同様な感じで事は進んでいく。

家はどれを見ても素敵だった。想像はしていたけれど、どの物件も作りがデカく、相場の高いエリアかつ限られた予算の中で選んだ物件であっても、日本で住んでいたどの家よりも余裕で広かった。無駄にデカい僕としてはありがたい限りである。

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今日見た限りの物件の共通点として、
・どの家もデカい食洗機とオーブンはデフォルト(ロースト系料理がいつでもできる)
・トイレ2個付きは当たり前(お腹が弱い僕としてはポイントが高い)
・駐車場も基本的に付いている(2台分も珍しくない)
といったところが挙げられる。

僕は明らかに3軒目が気に入っていた。メゾネットタイプの物件で、2階が屋根裏部屋のようになっていて、子供が通れるネズミの巣穴のような壁裏のストレージがユニークな物件だ。

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直感的に居心地もよく、サッカー親子に恥ずかしい話を聞かれた公園も目の前で景色も良い。スーパーや学校まではやや遠いが、やはりくつろげる家というのは何よりも得難いものがある——

「やっぱり5軒目の家が素敵じゃない?」

——アッコが、当然異論はないだろうというトーンで聞いてきた。

「え?」

「5軒目。やっぱりスーパーとか学校が近いのが一番大事だと思うんだよね」

「うん、そうだね。やっぱり通学とか買い物は毎日のことだからね」

……一人暮らしでもない限り、いい家探しのコツは、妥協と柔軟な考え方を持てるかどうかなのである。

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さて、2週間自宅に軟禁されるということは、想像をはるかに超える運動不足を招くようで、たかだか5、6km歩いただけで、元体育会バスケ部、バリバリサーフィンをやる僕の両足は、今、びーーんと攣っている。

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