【SS】支配の轍【ショートショート】

 僕は支配されている。そう気付いたのは久々に上司に怒られたときだ。
 自分がいかに停滞した毎日の中にいたのか、どうして気付かなかったのか。いや、答えはすでに誰かが提示していたのだ。気付くには切っ掛けが必要で、切っ掛けというのは画面や書籍からではなく、突然目の前に刀を持った男が現れでもしない限り生まれないものであった。
 上司に怒られた敬意は単純だ。僕は仕事をサボった。夏の暑い日、少しでもすずもうとしただけだ。まあ本当は、仕事が終わり時間が余ったときに隠れ潜んでいただけだが。
 自分は今期で24になる。いかに恥ずかしい行為か思い知らされた。たった数時間のアルバイトで、努めて三年目。僕は仕事をしながら、’創作活動に打ち込んでいる。いつか花開くと信じて──。
 もちろん、それではダメだと気付いて自分なりに試行錯誤を繰り返した。だが花開く気配は感じない。当然だ。僕は怠け者だからだ。
 いつか仕事を辞めて、創作で食えるようになる。なんと怠けた人間だろうか。僕は凡人だ。天才ではない。泥臭く、汗臭く生きていくしかできない。まだ足りない。憧れるだけではまだ──。
 アルバイトは本気ではない。だがこれが仕事である限り、本気で取り組む姿勢はいつか役にたつはずだ。
 意識を変えよう。休憩は二五分に五分だけ。これは作業にも役に立つだろう。

 まずは敵を排除するとしよう。改革に障害は付き物だ。反発があってこそ、ゴムが伸びて強い力を発揮する。まずは敵を作らねばならない。害意のなさそうな人間が突如反発したらどうなるのか。これは実験だ。僕が──私になるための第一歩だ。
 この一年は反発に対処する術を手にし、早めに競争から離脱しよう。
 超消費社会。望むところだ。僕はただでは終わらない。泣きそうな場面を100は繰り返してみせよう。
 僕は本来泣き虫で──私は本来華麗なのだから。

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