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ひとり旅の記録 #2|福井編2 落ち着きとしずけさと日常
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冷たい朝
6時半に目が覚めた。
日の出まであと10分。Googleマップを見て、経度が少し違うだけでこんなにも日の出の時刻が変わるのか、と驚いた。
外は雪が積もっている。わくわくしてパジャマのジャージのまま外に出る。憧れだった雪だるまを作ってみる。雪玉をころころとするだけでできるものだと思っていたら、意外にも形をつくる作業が難しい。苦戦しているうちに、手はどんどん冷たくなっていく。結果、身長20センチほどの小型雪だるまが出来上がり、わたしはすぐに手をストーブで暖めに戻った。
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ゲストハウス、個々で生活してる(勝手にストーブで靴下干して良いところとか、朝電気つけていいところとか)のにみんなと一緒にいる感じがして不思議。干渉し合わないのにひとりじゃない、みたいな。好きだなぁこの感じ。
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“シェアキッチン”って響きがすでにいいよね。
朝ごはんはパン。昨日SAMMIE’Sに遊びに来ていたお兄さんが置いていってくれたクロワッサン。それと、インスタントのコーヒー。こたつでぬくぬくしながら食べる。途中で起きてきた子に「おはよう」って挨拶するのがなんだか新鮮。
せっかくなら雪国の暮らしを体験してみよう、と思い、スタッフさんに声をかける。「雪かきやってみてもいいですか!」と。シャベル(東日本ではこちらをスコップと呼ぶらしいが)を貸してくれた。外に出て見守られながら、人生初の雪かき。
雪ってこんなに重いんだ。きつい、腰にくる。
想像以上に体力を使う。筋肉痛になりそう。まだまだ雪は残っていたけれど、5分ちょっとでやめてしまった。
出発
荷物をまとめ、スタッフさんにお礼を言って出発する。SAMMIE’Sを出て最初の角を曲がるところまで、玄関先から見送ってくれた。私が雪道をおぼつかない足取りで歩くから、転びそうできっとヒヤヒヤさせていたんだろうなぁ。曲がり角で振り返って大きく手を振った。
雪が屋根からザーッポタポタッと落ちる音がする。雪国で暮らす人々にとっては見慣れた光景でも、慣れていないわたしはいちいちびっくりする。
道路はすでに雪が溶けかかっていて、車が水溜りを踏んでいくのと同じ音がする。
福井駅から海沿いの三国(みくに)へ。
鉄道でおじさんふたりがおしゃべりしている。(うるさい、と一瞬思った。)方言アクセント、語尾が上がって下がる感じが鹿児島の友人にちょっと似ている気がする。
(ちなみに福井弁は「無アクセント」で、語尾が揺れるのが特徴らしい。
参考:https://fupo.jp/article/fukuiben-part1/)
アテンダントさんのいる列車に乗ったことがなかったので珍しいな、と思う。ファーのついたロングブーツがかわいい。
途中の駅に着いたとき、おそらく目が不自由でヘルプマークをつけた方にアテンダントさんが、近くで声かけたり一緒にホームに降りたりしている光景を見た。職務をこなしているだけなのかもしれないけれど、人のぬくもりを感じた。
遠くで風力発電の風車が四機、ぐるぐる回っている。それをぼーっと眺めながら、あぁ海に近づくにつれ雪が減ってきているな、このくらいなら地元でも降ったことあるなぁ、なんかを揺られながら考えていた。
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三国散策
三国駅に到着。そこからバスで東尋坊へ。
冬の日本海は海が青くて迫力がすごい。地平線が広がっていて、どこまでも海と空しかない光景に吸い込まれそうで、どこか怖さも感じる。しばらくその景色を眺めていた。
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近くで観光客価格の若がに丼を食べ、バスで三国駅に戻る。海沿いの道を走っていくと、たった10分ほどで戻ってこれた。
まだ12時過ぎ。特に行き先も決まっていないので、SAMMIE’Sスタッフさんに教えてもらった三国駅周辺を散策してみることにする。
昔ながらの建物が並ぶ街並みは静か。太陽がぽかぽかしている。
途中、小さな石橋(橋と思って見ないとわからないくらいに道路に馴染んでいる)を見つけてテンションが上がった。
海から1本入った細道を歩いていくと、レンガ造りの洋風な建物に出会った。和風レトロな街並みにそぐわない大きな建物。
旧森田銀行本店。大正時代に建てられた銀行で、西欧のデザイン。これが俗に言う大正モダンの雰囲気なんだろうな、と考える。三国が湊町として栄えていた時代には、ここが多くの人々で賑わっていたんだろうなぁ、と想像するのは楽しい。普段は歴史を感じる場所にそこまで惹かれないのだけれど、この場所はなぜか素敵に思えて、ゆーっくりと見てまわった。
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ずっと歩くとお寺を見つけた。軽く回って出ようとしたところ、タイミングが重なりお坊さん(呼び方がわからない...)と遭遇。軽く立ち話をしていると、よかったらお話ししていかれますか、と。ありがたく上がらせていただいた。
目の前にお茶とお菓子を出される。福井市のローカルな洋菓子屋さんのお菓子。ここに来なければ食べることもきっとなかった。こんなところにも旅の楽しみが隠されていたりするなぁと思う。
久しぶりにわたしの話をたくさんした。どうして福井に来たのかとか、いまどんなことをしたいかだとか。ひたすらうんうん、と聞いてくれる。お坊さんって話を聞く天才だなと今更ながら感じる。
御朱印帳を目の前で書いてもらったり、趣味で始めたという三味線を弾かせてもらったりもしながら、図々しく2時間も居座っていた。その間何度も、来てくれてありがとう、素敵な方に出会えた、って言われた。わたしという人間のことをこんなにも丁寧に見てもらえて嬉しいなと感じると同時に、普段それを感じとることってほとんどないなと思ったりもした。
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目の前にはたくさんのお菓子が。
周辺をもう少し散策することに決め、出発する。見送られながら、お坊さんにとって働くって何なんだろうなぁ、と思う。これは次会ったときに。
船が泊まる海沿いを歩く。遠くに雪の残った山が見えて嬉しくなる。日没の近づく空は曇りぎみで、どこか寂しさも感じた。
列車の待ち時間に酒まんじゅう屋さんでお店のおばちゃんとちょっとお話し。発酵しているからアルコールはないんだよ、と教えてくれた。おもしろい。
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街
三国駅から福井駅へ帰る。
車窓から、雪の積もった山に夕方の柔らかく白っぽい光が照らされてるのをひたすら撮っていると、すぐに着いた。
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福井駅のお土産屋さんで羽二重餅を買って、夜ごはんはお蕎麦屋さんへ。昨日ヨーロッパ軒でおじちゃんが教えてくれた駅近くのお店。古い感じのお店だと正直思っていたけれど、広くて小綺麗なお店だ。
おろしそばと天ぷらのセット。おろしそばは冷たくてさっぱり食べられて美味しい。普通のそばより好きかもしれない。
帰りの列車まで時間があったので、Googleマップだけを頼りに街角のコーヒー店へ。おそるおそる覗いてみる。薄暗くてバーのような雰囲気。勇気を出して入り口を押した。
一瞬、入るべきじゃないお店に来てしまったかと思った。(怪しいお店では全くもってなかった。)イカつめのお兄さんがおしゃべりしている。
動揺を悟られないよう、こういう雰囲気のお店慣れてますよという風にカウンター席に座る。(その店はカウンター席のみだった。)
メニューはコーヒーとカフェラテのみらしい。好みを聞かれたので、深煎りのものと答える。コロンビア。めちゃめちゃ飲みやすい。口当たりが良いってこういうことか、といま気づく。
隣でお兄さんふたりはずっと話している。そおっと聞き耳を立てているわたし。どうやら彼らは友達のよう。地味に口が悪いけれど言いたいことをズバッと言う、優しそうなお店のお兄さん。金髪で怖そうだけれどギャグセンスの多分高い、お客さんのお兄さん。ふたりとも良いキャラをしている。会話が面白くてしばらく耳を傾けていた。
コーヒーを飲み終えたあと、わたしも会話に参加させてくれた。(正確には8割聞いていたけれど。)福井に何もない話、趣味がなかなか続かない話、無断で写真を撮る人の話、わたしの地元と福井の話、方言の話。居心地よく、2人の話を聞いて笑っていた。煙草の匂いもなぜだか嫌だとは思わなかった。
そういえば、という風にして歳を聞かれた。19、と答えると若っ!と。その年でひとり旅をするの、すごいね、のようなことを言われ、謙遜するふりをしながら優越感に浸っていた。
気づくと列車の時間に。お別れして駅へ向かう。
帰り
足の付け根が雪道を歩いたせいだ、筋肉痛。(昨日からなる予感はしていた。)
列車に乗った瞬間睡魔に襲われて、気づくと福井からは離れていた。良い旅だったな、とふわふわ。
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ひとり旅の良さって、自由気ままにいることをだれにも止められないところだったり、何者でもない「わたし」としてただそこにいることが許されている(止められることがないし、そこに恐れを感じない)ところだったりするなぁと思う。
「わたし」はその場に存在してもしなくても変わらない、同じような日常が流れていくだけ。
決してマイナスの意味ではなく、いなくても良いということを感覚として持っているからこそ、気負わずそこに入り込むことができているような気がする。
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