「読者に届く小説」とは何か: NovelJam’ [dash] 2019講評

2018年から、NovelJamという小説ハッカソンイベントに関わっています。最初はエブリスタとのコラボの形で、最近は個人でも審査員をご依頼いただいて、「著者と編集者とデザイナーがスリーマンセルでチームを組み、1泊2日で小説作品を作り上げる」という、このイベントにしかない緊張感を楽しんでいます。

今年も審査にはくわわったのですが、スケジュールの関係から最終審査はテキスト参加となり、授賞式も欠席だったので、「審査したぞー!」感が昨年に比べて薄く……。何となく自分の中で残ってしまった「語り足りない感」を払拭するため、公式の選評には書ききれなかった個別作品への講評を、noteに書いていきたいと思います。

ちなみに、過去にも内藤みかさんや米光一成さんが、審査員目線での振り返りを書かれています。有料記事ですが、これがほんとうに首がちぎれるほど参考になるので、NovelJamの該当回参加者・これから参加しようと思っている人はもちろん、小説を書いている人は全員読むべき! です! リンクを貼っておきます。

全作品と審査員評はNovelJamの合本に収録されます。私自身の昨年の講評は、以下に全文転載しています。

作品の審査方法について

個別の講評に入る前に、前提となる作品の審査方法について書きます。昨年は、「1位3点/2位2点/3位1点」の持ち点がそれぞれ審査員に与えられ、各作品に点数を振り分けてから議論……という形で、受賞者を決めました。

今回は特に持ち点などの指定が無かったため、エブリスタのコンテストなどでも自分が下読みをするときに使用している、「◎○●△×」の五段階で一次評価をつけました。それぞれの記号の意味は、以下の通りです。

◎:文句なしに賞に推したい
○:評価したい
●:評価に悩むが、それを突き抜ける魅力がある
△:ほかの審査員の意見が聞きたい
×:賞には推せない

過去最多となる22作品がエントリー。全作一読し、「有田内一次審査」の結果がこちら。

◎:文句なしに賞に推したい(0作品)
→残念ながら、今回は該当なし

○:評価したい(評価が高いものから順に5作品)
茉野いおた『君の名前を聞かせてほしい』
森きいこ『天籟日記』
戸森くま『失せものは夕凪に』
日野光里『笑い狼は笑わない』
柳田知雪『バラの棘に憧れて』

●:評価に悩むが、それを突き抜ける魅力がある(1作品)
式さん『多頭少女(左から三番目)の憂鬱』

△:ほかの審査員の意見が聞きたい(評価順だけど、ほぼ僅差9作品)
紀野しずく『ふれる』
雨露山鳥『気配』
おおくままなみ『キボウの村』
髙井ホアン『キノウの村』
Saaara『砂場のふたり』
春日すもも『日本普通化計画』
琴柱遥『人狼ファルファッレの最期』
澤俊之『We’re Men’s Dream』
霞弥佳『スワンプガール』

上記以外の7作品については、×をつけました。


すでに発表されている受賞作品一覧を見ていただけるとわかるかと思いますが、私が×をつけた作品で受賞しているものもありますし、もちろんその逆もあります。

そのくらい、NovelJamは毎回僅差の賞だし、そもそも「小説を読んで評価する」なんて、多分に審査員の好みや主観、そして個別の選考基準に拠るものなのです! これは本当に。今回受賞を逃した方も、落ち込みすぎず、また次の創作に取り組んでいただければと思います。

作品の審査基準について

では、有田はどういった基準でこの「◎○●△×」をつけたのでしょう?

NovelJamの選考をするとき、「何を基準に審査するか」はいつも大変迷います。イベントの性質上、それが「完成度」であってはならないと思うのですが、それぞれに策が練られた22作品を比較するためには、どうしても何らかの「価値基準」が必要です。22作品を行きつ戻りつ、今回は「読者に何を届けようとしているか/それがどの程度実現できているか」を重視することにしました。

合本に寄稿した講評では、上位6作品に一言ずつコメントを寄せました。本記事では、個別講評の希望をいただいた方の作品について、私なりにつらつらと書いていきたいと思います。

「全公開で作品へのつっこみを書かれるのはちょっと……」という方もいらっしゃるかもしれないので、初めての有料記事にチャレンジします。何文字程度の加筆になるかわかりませんが、気になった方はぜひご購入ください。


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