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泳ぐ子ども。


その子は、
海で泳ぐのが大好きだった。
朝起きるとすぐ海に向かって走っていく。


それに気づいた1つ上の姉が、
おむすびを持ってそのあとを追い、
海辺で朝ごはんを食べさせる。

おむすびをあっという間食べ終え、
その子は、海に飛び込む。



朝の海はまだひんやりしていて、
気持ち良い。
楽しくて、ひたすら泳ぐ。
ぐんぐん、ぐんぐん。



たまに仰向けになって浮かび、
日を浴びながら考える。

「魚になったら、ずっと海で泳いでいられるのに…」



海を泳いでいると、
小さな魚たちに会う。
仲間同士で同じ方向に向かって泳いでいく。


その日は、大きな魚が一匹、
ゆったりと泳いでいた。


いつもなら近づかないのに、
ふと一緒に泳ぎたくなったその子は、隣に並び、一緒に泳いでいった。



大きな魚は、
その子の泳ぎに合わせるように、
ぐおーんぐおーんとゆっくり進む。


あぁ、楽しいな。



いつの間にか、大きな魚たちに囲まれていた。

みんなでどこに向かうのだろう。
魚たちのお家はどこなんだろう。
そんなことを考えていたら、
なんだか身体が溶けていく感じがした。


「まるで魚になったみたい」
と、その子は思う。


ぐわーん、ぐわーん。
ざぼーん、ざぼーん。


進めば進むほど、
大きな魚たちは増えていく。

海岸はもう見えない。


少しだけその子は不安になった。
あんなに魚になりたかったのに…。



急に魚たちが止まった。
大きな魚たちが一斉に止まるなんて。


すると、
最初に一緒に泳ぎ始めた大きな魚がその子のところに寄ってきた。
海岸の方へ向かって泳ぎ始める。
自然と身体が動き、その子も共に泳いでいく。



海岸に、姉の姿が見えた。
こちらを心配して手を振っているようだ。
その子はほっとする。



大きな魚にお礼を言おうと振り向くと、その魚はもう遠くの方を泳いでいた。



「ありがとう」



その子は小さな声で呟いた。




おしまい。


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