「唐様で書く3代目」80年サイクル論 ー1ー サイクルの概観
「日本社会は80年ごとに循環している」という見方と、20歳ごとの世代論を合わせて、日本を見ていこうと思います。初回である今回は、概観の紹介です。
80年で1サイクル
「売り家と唐様で書く3代目」
何もないところから初代が築いた大きな財産も、苦労を知らない3代目の代ともなると、家を売るまでに落ちぶれてしまう。その家が売りに出ていることを知らせる張り紙に、何不自由ない環境下で文化的な教育を授かった3代目は、世間で使われている普通の書体ではなく、シャレた中華風の書体で「売り家」と書く。
そんな、世代交代の有様と世代間の違いを表すことわざです。
日本社会は約80年を1サイクルとして循環しています。この1サイクルを、世代論と合わせて見てみようというのが本論の趣旨です。
今年、現サイクルの開始年である1945年から77年がたち、サイクルの終わりが見えてきました。前回は太平洋戦争がサイクル終了の節目でしたが、今回は新型コロナウイルスという世界的な疫病が節目となるでしょう。
奇しくも、1940年東京オリンピック中止の80年後、2020年東京オリンピックの延期という事象が起きました。2021年に開催されましたが、無観客でフルスケールのものではありませんでした。過去のサイクルを分析することは、現サイクルの終わり方と新サイクルの始まり方を考える上で、有益だろうと思います。
1サイクルは4期
古いサイクルの社会崩壊が完了した時点で、新しいサイクルが始まります。日本社会は20年を1期とし、4期80年で1サイクルを形成します。
最初の20年間は、崩壊した社会をマイナスからゼロへと戻す「立て直し期」です。20年かけてゼロに戻した後に「発展期」に入り、20年かけてゼロからプラスへと成長します。俯瞰すると、サイクルの前半は常に上り調子です。
発展期の勢いの先に後半に突入します。20年間の「黄金期」を迎えますが、この時点で成長スピードはすでに減速しています。黄金期の、まさに黄金期を体感している頂点で成長が止まり、それまでの上昇ムードが消えていきます。黄金期の終わりに「社会崩壊期」に入った後、20年間で社会崩壊完了へと至り、1サイクルが終了します。
この、立て直し期、発展期、黄金期、社会崩壊期によって構成されるサイクルの繰り返しが、日本社会の循環です。サイクルは社会崩壊によってはじまり、社会崩壊によって終わります。
社会崩壊は「価値観の大転換」
「社会崩壊」という事態について、どのようなイメージが思い浮かぶでしょうか。
前回の社会崩壊では、全国焼け野原、食べ物も十分に行き渡らず、日本円資産は消滅しました。社会全体が混乱に見舞われますが、自然災害によるものとは大きく異なります。もちろん、自然災害によって社会崩壊が起きたように見えることもありますが、あくまでも引導を渡しただけです。社会崩壊はサイクルの循環を原因としています。
東日本大震災では1万人以上が犠牲となり、多くの家屋や財産が喪失しました。また、福島の原子力発電所の事故により国土が汚染され、全国の原子力発電所は停止されました。しかし、2012年末に自民党政権になってから現在まで、原発の再稼働を積極的に推進する、汚染土での食用作物栽培の試験をはじめるなど、政府は震災前の社会へ戻らせようと躍起になっています。
これは、「価値観の大転換」が起きなかったからです。そのため、まだ現サイクルの価値観のまま社会を構築しようとしているのです。
いったん「ゼロ評価」へ
「価値観の大転換」が起こると、今まで高い価格が付けられていたモノやコト、社会的地位が高いと思われていた役職や職業が、「ゼロ評価」となります。前サイクルを考えてみましょう。
前サイクルの社会崩壊期にあたる1925年から1945年は、「軍人」が権力を持っていました。全国津々浦々から学費無料で集めた秀才達が軍幹部となり、政治にも入り込み国を動かしていました。税収の多くは軍にまわされ、職業軍人は偉くなればなるほど戦死から遠ざかり、社会的地位も高く、高収入も保証されていました。
それが社会崩壊の結果、軍という存在が悪となり、「軍人」という職業に就く人はゼロ、職業自体が消滅しました。職業自体が消滅したということは、そのために培ったスキル、すなわち戦争に勝つためのスキルもゼロ評価、全く価値のないものになったということです。もう、そのスキルでは生計を立てることができないのです。
1946年、政府は新円切替によりインフレーションを抑制しようとしたものの、結局は抑えきることができず、軍幹部時代の高収入を原資として貯めた円建て資産はゼロ評価となりました。
社会崩壊により、支配階級であった「軍人」というポジションの社会における価値は完全にゼロとなったのです。
持てる者にとってはプラスがゼロになるという点で、社会崩壊はとても恐ろしいことです。しかし、社会的地位、それを維持するためのスキル、円建て資産がゼロ評価になるということは、社会的地位の低さ、高等教育を受けられなかったことによるスキルの不足、円建ての負債もゼロ評価となることを意味しています。
持てる者も持たざる者も、格差が元よりは是正された状態で次のサイクルが開始されます。社会崩壊によるサイクルの終わりは、既得権がからみついた古い社会を更地にした上に、新しい価値観にもとづく社会を築いていくための契機となるのです。
そういった新しい社会への適応は、古い価値観の下で長年暮らしてきた中年よりも、若い人たちの方が有利でしょう。
サイクルの「テーマ」
サイクルは、そのサイクル自体の「テーマ」をもっています。「テーマ」とは、社会がサイクル内で実現しようとする目標です。社会崩壊を体験した人たちが、より良い社会の再構築を目指します。
明治維新後から第二次世界大戦敗戦までの前サイクルにおけるテーマは、「封建社会から市民社会へ」というものでした。黄金期の終わりに普通選挙法が成立しましたが、全体主義国家となって社会崩壊し、テーマはサイクル中に実現しませんでした。前サイクルのテーマは、現サイクルにおいて実現されました。
江戸後期から明治維新までの前々サイクルにおけるテーマは、「国際社会の一員としての日本へ」でした。開国して列強各国と条約を結びましたが、それらは不平等なものでした。世界の中の一等国として、国際連盟の常任理事国にまでなったのは、その次のサイクルである前サイクルでした。
このように、サイクルのテーマを実現するために社会は大きく変わっていきますが、そのサイクル中には実現されません。社会崩壊後、次のサイクルで実現されることになります。
サイクル中の4世代
社会は、20歳の年齢幅にわけられる「世代」によって運営されます。社会に出てから20年までの若年層、その20歳上までの中年層、さらに20歳上までの老年層です。これら3世代が社会を形作ります。
社会崩壊完了時の若年層が、サイクルの初代となります。20年後、初代が中年層になった時に、2代目が若年層として社会に現れます。その20年後、初代が老年層になった時に、3代目が現れます。さらに20年後、サイクル開始から60年たつと社会崩壊期に入り、初代が社会から消え去ります。この時期に、4代目が若年層として社会に顔を出しはじめます。
これら初代から4代目までの4世代により、1サイクルが形成されます。
社会に対してもっとも大きな影響力を持つのが中年層で、それを支えるのが若年層です。ただし、新サイクルの開始時のみは、若年層がテーマに対して最も大きな力を持ちます。老年層は実質的にはサイクルのテーマを左右することはできません。
4代目は、自身のサイクルにおいて高く評価される価値がゼロになっていく社会崩壊期に、中年層である3代目の下で、若年層として社会への適応を強制されます。社会崩壊(=価値観の大転換)後の新サイクルの立て直し期では、新しい価値観をもった後続世代が、新しい初代としてサイクルのテーマを推進します。
社会崩壊期に若年層で、新サイクルの立て直し期に中年層である4代目は、自身のサイクルにおいても新サイクルにおいても、サイクルのテーマに主体的に影響を及ぼすことができません。
また、2代目と3代目が、自身のサイクル中の価値観に合わせることで、比較的容易に獲得できた社会的地位や資産にも、4代目の多くは縁がありません。
結果として、4代目は「失われた世代」となります。
今回はサイクルの概観の紹介でした。次回は、明治維新から敗戦までの前サイクルについて分析します。
まとめ
・日本社会は80年ごとに循環している
・サイクルは社会崩壊にはじまり、社会崩壊に終わる
・前の社会崩壊からもうすぐ80年
・4つの世代が1サイクルを形成する
・最後の世代は「失われた世代」となる
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