ドラッグストア・カウボーイ

 ヤク中の男が、妻と弟分夫婦と一緒に、薬局を襲い麻薬を盗んで暮らしている。警察にマークされているが、賢くて逮捕はされない。が、弟分の妻が麻薬の大量摂取で死に、まっとうに暮らすことにする。が、弟分と再婚した元妻が麻薬を差し入れてくれ、かつての商売仲間が来て殺される。

 麻薬中毒者が、麻薬を切らさないために薬局や病院で盗みを働くという、最悪の登場人物だ。それでも、緊迫感のある映像と音楽は、ラストまで引っ張っていってくれた。

 麻薬を一度やると、他人の迷惑など考えられないようになり、薬をやめようとしてもやめられないのだと聞く。この作品でも、まっとうに生きようとした主人公に、かつての妻が薬を持ってきてくれる。もしかしたら親切心からなのかもしれないが、頑張ってる側からしたら迷惑以外の何ものでもない。ダルクの人の話を聞くと、現実にそんなことが珍しくないらしい。

努力しようとする人を潰すのは周りの人だ。卑近な例でいえば、大学受験にしても、親があまり無理をするなと言ったりする。それも善意によるものだから、たちが悪い。大学受験をクリアしようとすれば、多少の無理はしなければならない。麻薬をやめようとする人に協力するなら、当人がちょっと気持ちが緩んだりした時に、厳しい対応をしなければならない。しかし、当人が苦しんでいるのを見かねて、つい優しい言葉を掛けたりしてしまう。その方が、優しい人と思われたりもして、厳しい人の方が糾弾されたりするからやっかいだ。

麻薬をやめようとしている人に麻薬をプレゼントしたり、受験生に息抜きにとゲームを与えたりすると、それまでの努力が一瞬で水の泡になってしまう。そんなことをする人は、「かわいそうで見ていられなかった」などと言い、そう言う人が思いやりのある人と見られたりもするが、フザケルナ、である。

 世の中でなにがしか結果を出している人は、それなりに厳しい努力をしているものだ。たとえば大リーグの大谷が大活躍しているが、その筋力アップの練習をしているところに、おばあちゃんが来て、そんなつらい練習はやめなさいと言ってステロイド薬をあげたら、今のような活躍はできていないだろう。真の優しさとは、目の前の感情に流されない優しさだ。

目の前の危機に対応することは重要だが、情に流されると判断を誤る。判断基準は、歴史的見地に拠るしかない。自分の生の数十年スパンか、未来の生を含めた数百年スパンか。より長くより広い視野を持つ人が増えれば、世界はより良いものになるだろう。が、そんなことが実現するなら戦争は起きていない。

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