パリ・テキサス

これといった盛り上がりもないのに、なんか最後まで見てしまった。すごいアクション・シーンがあるのに眠くなる映画もあるけど、この作品みたいにスリリングなところがほぼないのに、眠くならないものがある。画角とか音楽とかいろんなテクニカルな積み重ねなんだとは思うけど、それは結局、作り手がどれだけ熱意を注いだかということなのだろう。

主人公は、砂漠で放浪していたところを弟に拾われて、弟の家に来る。そこには主人公の子が、弟の子として育てられていた。弟は、兄を連れてくるにあたり、子どもに事実を伝えた。弟の妻は、かわいがってきた子を連れていかれるのではないかと心配する。その予想通り、主人公は子を連れて妻を探しに行く。養育費振込の銀行を目当てに行って、見事に妻を見つけ出す。主人公は、子どものいるホテルの部屋番号を告げて、妻に行くよう勧める。そして自分はどこかに去っていく。

なんじゃ、それっ。ふざけるな、という言葉しか出てこない。主人公が妻子から去るのに、相当悩んで苦しんだ末だということは分かるけど、やっぱり、ふざけるな、だ。そんな自分勝手が許されるなら、ほとんどの人の苦労は大きく軽減する。みんな、自分を抑えて、人のためになるようにと生きている。それが、しょうことなしにしている結果であれ、利他を自覚してのことであれ、なんにしても自分の思いを通せる人間などほぼいない。自分の思いを忠実に実行して、周りの誰かが幸せにることはほぼない。自分に正直に生きる、というと、かっこいいけど、たぶんそうすると、家族はもちろん、自分も幸せから遠ざかってしまう。

そんなクソ野郎でも、子どもだけは可愛かったと見える。子どもに良かれと、母親と一緒に暮らしなさいと言って、自らは身を引く。釈迦でさえ、子どもはラーフラ、障害だった。それほど子どもの存在は大きい。


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