夜逃げ屋本舗

どっちにも理がある

 借金で困ってる家族を移住させる夜逃げ屋と、貸金を回収したいカードローン会社の戦い。1992年公開。クレジットのローン問題が広まった頃か。ドラえもんで少し早い時期に、のび太の叔父がローン返済で困る話があった。クレジットとかサラ金とかが話題に上った時代だ。消防署の方から来た人が消火器を法外な値段で売るというのも懐かしい。

 世の中の問題は、人間関係とお金だ。お金も、家族関係を守りたいとか世間体を保ちたいとかだから、結局は人間関係があらゆる問題の本質といえる。そのきっかけとなる最大で最多の要因がお金、といっていいだろう。

 この作品の主人公の夜逃げ屋と、クレジット会社の女、どっちにも理がある。クレジットの借金を返さずに逃げるなんて許されない、というのは誰にも当然と思える。返そうにも返せないのだから、知らぬ土地で心機一転やり直す方が有益だ、という夜逃げ屋の理屈も現実的な解決策だ。

どっちが正しいのか、わからない。おそらく正解はない。踏みとどまって借金を返せるケースもあるだろうし、できずに自殺することもあるだろう。夜逃げして、新天地で穏やかに暮らせることもあるだろうし、改心することなく借金を繰り返すということもありうる。

 この作品は夜逃げ屋が主人公だから、そっちに気持ちが寄ってしまうが、こんな商売が広まれば、世の中きちんと回らなくなる。まじめに生きている人が損をすることになる。とはいえ、こんな商売があれば、尊い人命を失う機会が減ることになる。どっちが正解なんてありえない。ケースバイケースで、それを後から振り返ったとしても、何が正解だったか分かることはない。

 世の中、絶対の正義などない。どの立場の人にも、それなりの理屈がある。どっちかの正しい割合が多い、というくらいの違いであって、こっちが絶対正しいなんて言えることはまずない。身の回りの争いを見ても、国際的な紛争を見ても、どちらかが絶対的に正しいということはない。こっちが正義と言い張れる人は、えてして勉強が足りないだけだ。

 それぞれにそれぞれの事情があり、人に迷惑をかけながら生きている。逃げるのは、逃げられる側からすると許せないが、世の中全体から見ればメリットの大きいこともある。借りは返す、というのは基本だ。この基本をないがしろにする人には、どこかで痛い目に逢ってもらえばいいのだが、まじめにきちんと生きようとして、どうしてもどうしようもなくなった人には、やさしくできる世の中だと、借金や人間関係の問題も、生き死にの問題にまで深まらずにすむのかもしれない。

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