環境保全についての一考察 鳥取にて私は何を為すのか。
鳥取県に沈むまで。
コミヤと申します。
生物採取や環境保全をしつつ、有明海でNPOの水族館の館長を数年やったり、里山保全を絡めた日本酒作ったり、コロナ前はアフリカの辺境まで魚を探しに行ったりもしていました。
昨年の8月頃、なんなら10月頃まで自分が鳥取県に残り、このような活動をすることになるとは思っていませんでした。
今回は私が何故鳥取県に残り、活動をしようと思ったのか、そんな話です。
全ての発端はこの池でした。
2020年当時、鳥取環境大学の学生の方々と個人的に縁があり鳥取県によく来ていました。しょっちゅう鳥取に来る割に、私の行動範囲は鳥取駅から大学までの5kmほど。調査や活動というより、友人たちに会いに行く程度の感覚です。
ある時、友人たちの家の裏山に池があると聞き、ふと立ち寄ったのがこの池です。山間の木々に囲まれた静かな池には見慣れない植物が生えていました。
当時の私の水草力はほぼゼロでしたので、この植物も何か分かりませんが、いつも見かけるタイプの草ではない気がします。
そういう根拠の無い違和感(生物屋の勘?)に基づき、とりあえず持ち帰り、冗談半分でGoogleレンズに通してみると「ジュンサイ」と判定されました。
しかしこのジュンサイ、鳥取県では絶滅危惧種に指定されているだけでなく、鳥取市では既に絶滅したと考えられていた植物です。まさかこんなところにあるわけない。ツキヨタケを焼き芋と判定することもあるGoogleレンズ。また誤同定か。
などと思ったものの、調べれば調べるほどジュンサイなのです。水草屋の知人からもジュンサイだと教えられ、もう疑いようがありません。Googleレンズ凄い。
そして意図せず、市内絶滅した種に出会えたことに驚きました。
というか、そういう絶滅したはずの植物が身近に残っている可能性があるというだけで素晴らしい。胸熱です。
しかし、その翌年には生息地は撤去されました。
そもそも撤去されるらしいという噂から、裏山に池があることを知り見に行った、という流れでした。これ自体は仕方ありません。
それくらい、森の中の忘れられた場所といった感じの池でした。
元々防災重点溜池に指定されていたため、下の耕作放棄されれば農業用水の役目を終えた溜池は撤去されるのです。
残念ながら発見後程なくこの生息地は失われてしまったわけですが、幸いにも工事前にジュンサイを発見することが出来ていたため、鳥取県が別の池に移植して下さいました。
もし半年前に私たちが見つけていなかったら移植すら試みられなかったことでしょう。
気づかないまま失われていく。それはとても恐ろしいことです。
仮に保全対象の種であったとしても、その生息が誰にも知られていなかったら保護することは出来ません。
鳥取池巡り(8~10月)
丁度この頃、2021年8月は鳥取県中部でやっていたプロジェクトを終え退社したタイミングでもありました。そのまま福岡県に帰るつもりでしたが、この問題は誰かが急いで取り掛からなければならない。
私は今、時間を自由に使える「暇人」をやっています。急ぎの用もないですし、調べてから帰っても遅くはない。
それに福岡県には私よりも優秀な生物屋も沢山います。彼らが福岡を何とかしてくれるはず。
ならば私は鳥取県で探すしかありません。
知られないまま失われていく。そういう事態を避けるためにはとにかく何処に何がいるのか調べるしかないのです。
幸いにも鳥取には昆虫に詳しい友人がいます。彼がかなり調べてくれているようなので、虫については大丈夫でしょう。私もそれなりに魚は分かりますし、後は水草と貝類あたりを重点的に見ていけばある程度の鳥取県の水辺についての解像度が深まるはず。
ということで8~10月にかけて、調べ始めました。水草レベルはゼロからスタートですが、やりながら覚えていけば良いのです。
分からなければ持ち帰って同定、それでもダメな時は最強のTwitter先生に教えを乞います。
生物屋(生物趣味の方々)じゃない方に説明すると、Twitterには初心者から専門家まで幅広い方がやっています。そこに写真を投稿すると教えてくれる方も多いです。新たなジャンルを始める時は毎度お世話になっています……凄い時代です。
池巡りは初日から鳥取県絶滅危惧I類ミズオオバコの新産地を見つけました。幸先のよいスタートです。
鳥取県東部に存在する360個の農業用溜池と、農業用溜池として記載されていない池や砂防ダムなど、水草が生えてそうな止水域は可能な限り調べます。
田畑ごと森に埋もれた先にある池なんかに行くためには薮とダニとの戦いになります。
辿り着くのはなかなか過酷ですが、回ってみると意外と楽しいもの。
木に隠れた小さな池から
谷をひとつ使った大きな池もあります。
富栄養化した茶色い池もあれば
その栄養を使い、ヒシが一面を覆っている池もあります。
既に水面が失われて、薮や森になっている場所も多々ありました。防災として撤去しなくても、利用されず管理されなくなれば富栄養化したり、なんなら池自体が消えることも少なくありません。
やはり初日のミズオオバコの池みたいな場所はそう簡単には見つかりません。
1日に大体10~15ヶ所の池を回って、その中に絶滅危惧種が生息する池を1つか2つ見つけられれば良い方です。
1日に1回10連ガチャを引けるならば、良い池を当てるためにはなるべくログイン日数を増やせば良い。簡単なことですね。
その結果がこんな感じです。
生活の大半を池に全振りした人の予定表。
「普段は何をされているのですか?」「池に通っています」と言っても差し支えなさそうな感じですね。
8月末と10月末に私用で福岡に帰ることがありましたが、最終的には360連くらい池ガチャ引けました(笑)
その甲斐あってか、鳥取市からは新たに5箇所のジュンサイ生息地が見つかりました。誰にも気にされずとも、こうやって残っていたことは本当に良かった!
それどころか、鳥取県東部では1967年以来の発見となるヤナギスブタも見つかりました。ヤバいです、Sレアですかね(ゲームあまりしないのでよく分からない)。
他にも鳥取県初確認となる種を含む多数の希少な生物たちを発見することができました。
探せば探すだけ何か出てくるのでは!という鳥取のポテンシャルは素晴らしい。
友人はゼルダの伝説にかけて「因幡の伝説」と称し、旧友はローラー作戦で蹂躙する感じを異世界転生モノと表現。
個人的にはあつ森に近い印象(プレイ時間1時間)でありますが、何にせよあちこち回って集めていると同時に危機的な側面も見えてきます。
この池では園芸種として持ち込まれた外来スイレンが在来のスイレン(ヒツジグサ)を圧迫していました。
こちらは水路を覆い尽くすオオフサモ。特定外来生物に指定されている極めて侵略性が高い種です。
ここまで繁茂してしまうと水路を覆い尽くし在来種を圧迫するだけではなく、農業用水路の機能を失わせたり、豪雨の際に排水を阻害し越水させ氾濫を助長することがあります。
今回巡った中でも、いくつかの場所はこのような状況に陥っていました。まだまだこういった外来種の侵入状況は把握しきれていませんが、人知れず在来の生態系と入れ替わってる場合も少なくありません。
また生息地自体が失われていくパターンもあります。
人の手が入らなければ池は勝手になくなっていきます。富栄養化が進み、多くの植物が生え、土砂や枯葉がつもり、浅くなり、湿地になり、草原になり、長い年月を経て森になる。湿生遷移と呼ばれる現象です。
昔はあちこちの谷で土砂崩れのたびに谷筋に池ができ、また平野部でも河川が蛇行や氾濫を繰り返すことで無数の池が生まれていました。
池の寿命は長くはありませんが、生まれることも多かったため、その都度生き物は拡散と消滅を繰り返していました。
人が来てからは、平野部の大湿原は水田となり、山間の溜池は農業用ため池に改造されました。鳥取市南側の空山辺りに無数に小さな溜池が点在するのは土砂崩れで出来た池を農業用に改良したものだそうです。
それらの溜池は毎年池干しを行ったりしながら、人工的に遷移を止めている段階にあります。言ってしまえば池は少子化の時代に突入しましたが、人に管理されることで池の寿命も伸びたといえます。
結果、池に合わせて生きてきた止水域の生き物たちも生き残ることが出来ました。
しかしそのサイクルが失われ、今は池が減る一方となっています。
また、人為的に池の寿命を早めることも増えています。昨今頻繁する水害対策として、使用されていない池の撤去が進められています。
しかし最初のジュンサイの池の事例のように、希少な生物が残っている場合もあるのです。
例えば2021年10月に撤去されたこの池にも、絶滅危惧種のミズニラが生息していました。
環境保全か防災か、自然保護か開発か、そういう話をしているのではありません。防災工事を行いつつも、希少種を保護する方法はあるはずです。
ため池の決壊を防ぐために、予め池を撤去することは仕方ありません。その上でこの残った小さな水辺で生き残れるよう環境を維持することは可能だと考えます。
水を大切にとか、川を汚さないようにしようとかそういう話と同じくらい、生物多様性を守るということは大切な話です。
何百年も人の近くで生き残ってきた生物たちだからこそ、人の手で守ることが出来るはずです。
調査を終えて(11月~12月)
2ヶ月間に鳥取中部~東部で380ヶ所の溜池等の水辺にを調べることが出来ました。8月頃は「希少種が残っている場所を見つけたいな」位だった池巡りが9月の終わり頃は鳥取の池全部回るスタンプラリーと化し、最終的には狂気的な数になってしまいました。
水草レベルは0から15くらい、淡水貝は0から3くらいには上がった気がします(ただしLv100をMAXとする)。
11月頃、ここまでで出揃った鳥取東部の池(約300ヶ所)情報をまとめに入ります。
植物に限ると特に生物多様性が豊かで保全の重要度が高い地点は4ヶ所。絶滅危惧種が生息している池は30ヶ所弱。
30ヶ所程度では多少の普通種が生息していましたが240ヶ所はヒシ等の強い水草か生えているか、何も生えていないという状況でした。多くの自然環境が残る鳥取県でも、全体的な割合で見れば止水域の環境は危機的な状況に置かれています。
残されたいくつかの貴重な生物多様性が残る水辺環境の可視化することで、自ずと保全の必要性が高い場所が決まってきます。
これらの情報を元に、いくつかの具体的な保全案を策定しました。
とはいえ、ここまでは私が自費でやっていた個人的な活動に過ぎません。いくら情報を集めて案を練ったところで実行出来なければ何の意味もないのです。
まずは鳥取県に情報共有です。
実は1ヶ月前頃から知人を介してアプローチはしていたのですが、レッドデータブックの改定業務により鳥取県の生物関連の方々は皆忙殺されていたタイミングでした。
なかなか共有する機会に恵まれず、鳥取県緑豊かな自然課に直接連絡を取ってからも、実際に情報共有をするまでさらに1週間以上がかかりました。生物関連の人手不足を痛感すると同時に、私の空気が読めない絶妙な間の悪さも痛感します。
どうにかアポを取り、鳥取県庁に行ってみると行政の方はとても好意的でした。
同時に300ヶ所以上の池の所在地、現在の状況、生息する生物、管理者のデータ等に大変驚かれていました。どうやら私のTwitterのタイムラインとは違い、世間一般的に池巡りをしてる人は少ないらしい。
とはいえ、鳥取県で未発見の希少種の数々、絶滅したはずの植物、それらの発見にとても喜ばれた様子。持ってきた甲斐があります。
しかし、レッドデータの締め切りは1週間前だったそうで、今回の調査結果をレッドデータ改定に反映出来ませんでした。
バングラデシュでようやく見つけた幻の川サメが既に切り身になっていた時のような、この絶妙な間の悪さを思い出します。
とはいえ、全て無駄ではありませんでした。
今回の情報は行政が整理し、今後の環境保全に活かされます。少なくとも、行政の工事の際に把握されないまま行われることは減るでしょう。
その際に最初のジュンサイ池のような何らかの配慮がなされると思うと安心できます。
また、博物館にも資料提供を行いました。
「これを調べるには数百万かかるよ」と言われた時には驚きました。委託でやっておかなかったことが悔やまれます。数百万あれば数年は池巡りだけして暮らせるではありませんか。
とはいえ、ここで欲に目がくらめば私に来るはずもない委託を待って待ちぼうけという事態になりかねません。相場を知らない人間で良かった。
そもそも、そういうところに予算が割けないため情報が不足しているわけですけどね(汗)
博物館に直接乗り込んだおかげで、2022年には博物館に所蔵するための標本作りにも取り掛かれそうです。
現状、全くの素人である私が勝手に作った標本があるだけです。これでは私が死んだらそこに貴重な生き物が生息していたという記録は残りません。
ですが、今回のように標本を収蔵してくれる博物館があれば記録は100年後も残ります。
私が参考にした1967年のヤナギスブタの標本や1954年のガガブタの標本などもこの博物館に所蔵されていました。
鳥取県ではガガブタの生息していた池が埋め立てられ絶滅してしまいました。しかし、標本がなければその事実すら知ることが出来ないのです。
2022年版の鳥取県東部の水生植物目録が作れれば、2100年になったとしてもその記録を見ることが可能です。
その頃までに何種類が消えてしまったのか、もしくは新たに発見されたのか、どちらにせよ過去の記録をしっかりと残していくというのは大切です。
全く長生きしそうにない私の活動を後世の方々に使ってもらうためにも、博物館の協力はとても心強い。
2021年8月、池巡りを始めた時には虫屋の友人1人を除いて鳥取県の生物界の知り合いは誰もいませんでした。専門家も行政の方も誰一人知らなかったのです。
ほぼボッチです。池ボッチ。
それが11月には、鳥取県の植物関連の専門家の方々と一緒に実地調査をするに至りました。
虫屋の彼曰く「鳥取県の植物界のオールスター」という顔ぶれだったそうです。気後れしてしまいます(汗)
その日は、これまで集めた情報から特に重要と思われるいくつかの池を回りました。行政や博物館だけでなく、県内の専門家の方々に見て回った環境を共有出来たのはとても良かったです。
今後の調査にも、保全にも繋がる機会になったことは間違いありません。
鳥取県の仲間たち
活動を進めるうちに、鳥取大学や鳥取環境大学の学生や隣県の生物屋が協力してくれるようになりました。
彼らもまた心強い仲間です。
学生たちが地域の自然に興味を持って自主的に活動に参加してくれる。それだけでも環境啓発としては成功です。
それが仮に、環境保全をしたいという意志からではなく、「面白そうなことやってる連中」に何となく集まってきた人達でも構いません。
どんな理由であれ、実際にやっていることが重要なのです。そのうちにそれぞれが活動する理由を明確にしていければ良いのだと私は思っています。
と、真面目なことを語ってみたものの、要は一緒に因幡の伝説をプレイする仲間が出来たことが純粋に嬉しいわけですな。
水辺で楽しむという出発点は私とて変わりません。文字通り、一緒に沼に沈む仲間たちです(笑)
車を停めれないことも多い野外では原付は圧倒的に有利です。ゼロからスタートした私らは熱量と原付の機動力でカバーするしかありません(笑)
タモ網と胴長、白バット、観察水槽、投網あたりの基本装備を整えて、いざ調査!
人数が多ければ持ち運べる道具も増えますし、見落としも少なくなります。そして何より楽しい。これが最も重要です。
後輩が「〇日10:30から空いてます!」なんてLINEして来るようになってきたので、いよいよフィールドに染まってきたなとニヤつくわけです。そして常に暇人を心掛けている私もまた、絶対に誘いに乗ってフィールドに出向きます。
真面目な調査も重要ですが、同じくらいやってる本人たちが楽しむことも必要です。
採って、食って、楽しむ。
水辺で遊ぶ人達のなかから、自分たちが遊び続けられるよう保全もしようという人達が出てきます。やはり一番大切なのは水辺を楽しむこと。
少しずつですが、そうやって水辺を共有出来る新しい世代が増えてきました。人望がない私だけでは今まで出来なかった、地域の若者たちへの広がりを感じます。
また別の側面からも新たな仲間が加わってきました。
教育推進局の農業担当の学生スタッフと工作が好きな元インターンの後輩を巻き込み、鳥取県で見聞きした漁具を作ってみたりもしました。
70代の方が子供の頃使っていたというドジョウを取る道具、どじょうふみ。その作り方は最早失われてしまったのですが、おじいさんの記憶を頼りに学生たちと再現してみました。
竹を伐採し、竹ひごを削り出し、編み込んで、ようやく出来た頃には12時間が経過していました。
これは学術的な側面から言えばあまり意味の無いことかも知れません。ただ、魚に全く興味が無かった学生たちと試行錯誤しながら「どじょうを採るため」に頑張るなんてことがあるでしょうか。
タモ網で捕れば、すぐに、簡単に、沢山捕れます。
捕ることだけを考えれば、どじょうふみ を使ってやる意味はあまりないでしょう。
しかし、皆が楽しむという点ではとても大きな意味があります。
「竹ひご作るのホントめんどくせぇ!」「ここの構造どうなってんの?」「これで本当に魚取れるのかね?」みたいにあーだこーだ言いながら、それぞれの得意分野を活かして楽しく作る。
タケニケーションなんてアホっぽい名前を付けて、気付けば「明日、竹削ります?」みたいな意味不明な会話が生まれる。イマドキの大学生が竹を削る時代も遠くはないかもしれません(笑)
これまで生物というジャンルだけでは得られなかった、新たなジャンルの方々まで巻き込み始めています。
まずもって自分たちが楽しむ。その先に、生物多様性や環境保全に少しでも興味を持ってくれれば良いのです。
まずは興味のあるものに参加する。それで十分。そうしているうちに、人が増えればさらに面白くなっていきます。そして活動もまた、注目され、大きく展開していくことになるでしょう。そうなるのはどれくらい先かは分かりませんが、近い将来、私たちの身の回りの問題に挑んでいけるくらいには拡がっていきそうです。
それはさておき、野外活動が滞る冬、次はウナギ筌と貝刃辺りを削りださねばなりません(笑)
活動の具体化、そしてこれから。
鳥取県での活動はこの半年足らずで尋常じゃないスピードで拡大し始めました。もちろん、前途多難であることには変わりありません。
既にえげつない程に増加した鳥取市西部のオオフサモ。ここの駆除に乗り出そうとした矢先、近くで鳥インフルエンザが発生。
渡り鳥の季節が終わるまで、しばらくどうすることも出来ません。こればかりは諦めるしかありません。
また環境部が取ろうとした補助金についても、致命的に形式に沿った文書作成が出来ない私によって遅遅として進まず「地図の縮尺とかどうでもいいだろが!!!」などと発狂した挙句に、最終的に教育推進局の事務の業務を増やす結果になりました。
これに関してはごめんなさいとしか言えません。
そうやって事務作業を放ったらかしておきながら、今度は侵入初期の特定外来生物オオカワヂシャを見つけたがために、土地管理者の下水道管理室などから駆除の許可を取り付けてきて駆除をはじめてしまうなどもありました。
補助金の申請中に一部の急進派(というかほぼ私)に引っ張られる形で寒空の下、私費で強行したわけです。
なんというか申し訳ありません(汗)
即応の心掛けはともかく、あまりにじっとしていられないのも考え物です。
ただ、そのお陰で800mの範囲に僅か20kg程度しか繁茂していない状態だったため、ことごとくを取り除くことが出来ました。
本拠地だった側溝からも抜き取り、根絶も目指せそうな感じです。やはり外来種問題は早期防除に限ります。
発見から一週間強。わずか2時間弱で対処出来ましたからね。仮に時給払っても6000円とかです。これがもし全面に繁茂していたら、桁がいくつ増えるか分かりません。
外来植物の被害が深刻な自治体は年数千万円も対策に使っている場合があります。
こうなると、予算がいくらあっても足りません。やはり侵入状況の把握、早期防除が必須です。
今回の時給換算に侵入状況の把握が入ってないことについては、外来種の分布の把握に関してはイシガイを探している時に見つけたのでノーカンです。
……もちろん、冗談ですよ(笑)
今は私ら環境部の熱量で物事を回しています。外来種の侵入状況の把握という喫緊の課題のみならず、9月頃にやった池巡りのような分布調査。
これらは何をするにも必要な情報です。私らが行った調査に限らず、レッドデータブックの選定に関わる人たちも多くがボランティアに近い形でそういった事業に取り組んでいます。
これはとても危険なことです。レットデータブックをはじめ多くの情報はまだ辛うじて各地の熱心な生物屋の個人技に支えられていますが、もしこの先の世代、そういった熱量のある人達がいなかったらどうなるのか。
現に鳥取県東部の水草の情報はがっつり抜け落ちていたではありませんか。
本来はしっかりと予算を取るべき基盤の部分です。ただでさえ行政や大学の余力がなくなっている現状、こういった分野に予算が割かれる可能性は低いでしょう。
それをカバーする存在が必要です。
目指すべきは若者の熱量と力技で解決してきた今までのやり方ではありません。もちろん、しばらくはその力技、個人芸に頼ることも多いでしょう。
しかしそれは常に活動の立ち枯れの危険性を孕んだやり方でもあります。
だからこそ、チームとしての環境部。仕組みとしての環境保全が必要なのです。
減っていく予算の中でどのようにして生物多様性を保全していくか。どうやって地域に還元していくか。低コストでありながらも、自活していける活動でなければならないと考えいます。
教育推進局の後押しもあって、鳥取県ではその具現化が可能ではないかと感じています。
この辺りはソフト面の話になりますから、フワッとしていますし、同時に何とも言い表しにくい目標でもあります。
なのでこの記事では、今後取り組むいくつかの具体的な活動を述べて一端の区切りにしたいと思います。
鳥取県東部で発見された希少種の生息する池の調査・保全
鳥取県東部で全国的にも極めて希少な水生植物が発見された。この池には数多くの絶滅危惧種を含む水生植物が生息しており、さらなる調査及び規制を含めた保全方法を模索していく。
鳥取市西部に侵入したオオフサモの駆除
鳥取市西部にて拡大中のオオフサモの被害軽減、防除を目指す。またオオフサモ以外にも、各地の在来種を著しく圧迫する園芸スイレン、ハゴロモモ、オオカワヂシャなど対応する。
街中観察会の模索
鳥取市の中心部、鳥取駅の周辺にも多くの魚や甲殻類、植物などが生息している。その多くが普通種だが、街歩きの延長としての街中観察会は自然観察会のハードルを下げることが出来ると考えている。
街中観察会に限らず、街へ向けた興味の入り口創りを目指す。
水路・河川環境の調査
2021年は溜池を中心に回ったため、2022年は水路や河川にも調査範囲を広げる。網羅的に鳥取県東部の水辺環境を把握する。
直近でやっていくことはこんな感じになると思います。
いやはや、まさかこんな長文になってしまうとは。昨年のまとめを書いていましたが年末に間に合わず、年が明けてもなお書き終わらず、このタイミングとなってしまいました。
しかも、いろいろ整理しようと思って書き始めたのに、どのタイミングで鳥取で活動していこうと決断したのか自分でもよく分からないという。8月どころか、おそらく9月頃までは福岡に帰るつもりでしたからね。それが、この地を知れば知るほど鳥取の沼にはまっていくように、気付けばすっかり居着いてしまいました。今回の場合は沼というより池ですかね。
恐ろしい、鳥取の池。
福岡の貝を調べる仕事も……暖かくなったらちゃんと調べに戻ります(汗)
ともあれ、目の前には手が届く範囲にやるべき事がゴロゴロ転がっています。寒さにかこつけて家でゴロゴロしてる暇はありません。それらをしっかり拾っていきつつ、活動が回っていくように、努めていきたいと思います。
新年早々にハチャメチャ長い文章、失礼しました。
私の人生がまた加速し始めました。まだまだ活動は続いていくんで、今年もよろしくお願いします!!!
以下、ここまで述べた経緯と目標の外側の蛇足編。
ここまでのように丁寧でもなく、個人の主観でやりたいこと、思ってることを綴っています。お年玉のつもりでよろしくお願いします。
蛇足編
そして、ここからは完全なる個人的な主観に基づいた野望ですね。
私がやりたいこと、思っていることを好き勝手に語っていきたいと思います。
鳥取県はやはり池がやばい
1900年頃の鳥取市北側の地図。左下の八幡池、中央の多鯰ヶ池、右上には湯山池が見える。
この湯山池、実はもう存在しない池なのだ。
山陰道の福部インター辺りに巨大な池があったのだが、江戸時代からの試行錯誤の末、1950年頃に姿を消したらしい。
埋め立てられる前はコイやフナ、ウナギ、オオナマズが漁獲され、小エビの塩煮が鳥取城下まで運ばれ名物になっていたのだという。このオオナマズといい、エビの塩煮といい、気になるものだらけである。
さらに、鳥取県で絶滅したガガブタの最後の記録もこの池だった。どこまで胸アツな池なんだ。
湯山池は今はもう見ることは出来ないが、湯山池の残骸自体はどうやら残っているみたいなのだ。
なんなら、ここの謎の窪みは1960年代の航空写真から変わらず存在する。水路も湯山池の跡地だと考えると、それだけで胸が熱くなる。
ここには、もしかしたらかつての魚たちがまだ生き残っているかもしれない。
……とはいえ今に至るまでに水質悪化やら外来種やら様々な影響があった。どれほどの種が生き残っているのかは怪しいが。
けれど、教育推進局の代表から、10数年前にこの水路の一角を丸い葉の植物が埋めつくしたという話を聞いた。
普通に考えれば園芸スイレンの可能性が高そうだが、ここはかつてガガブタが生えていた場所だ。昨年はスイレンもガガブタも見つけられず、正体は分からなかった。今年はもっと広域をしっかり探したい。
というか、水路内歩き回って埋没種子を復活させるのも手かもしれない(笑)
鳥取県中部からは2020年には数十年ぶりとなるアサザか発見された。しかも水路を埋め尽くす勢いだ。
どこに何があるか分からない。
そして、鳥取県は最近その発見ラッシュが続いている。居なくなったかもしれない生き物たちがどこかで生き残っているかもしれない。今後やることに書いた池なんて、国内三例目の水草や中部地方が南限など鳥取にいるなんて誰も想像していなかった種で溢れていたのだ。公に発表されるまで種名言えないのがもどかしい。
なんにせよ、ここまで「何かいるんじゃないか」という可能性を色濃く感じられる県はなかなか少ない。
湯山池の近くには多鯰ヶ池があった。この池、というか湖くらいあるバカでかい池なのだが、ここはかつて在来の水草で溢れ、湖底には巨大なカラスガイが潜み、ミナミアカヒレタビラも生息していたという。
残念ながら既に大半の水草は園芸スイレンとハゴロモモに置き換わった。今やブルーギル、ブラックバスが優先し、在来種の数は少ない。
ミナミアカヒレタビラに至っては外来種駆除のための電気ショッカーでも確認されていない。
閉鎖的であるが故に外来種の影響が強く、すっかり置き換わってしまったことはとても残念だ。
対してこちらは巨大は湖山池だが、こちらは千代川河口のすげ替えによって流出河川の湖山川が直接海に繋がったことで環境が激変した。
しばらくは水門を閉めて完全淡水化したものの水質が悪化しアオコも発生。水門を開けて水質悪化に歯止めはかけたものの、それで淡水生物は壊滅。
カラスガイやミナミアカヒレタビラは湖山池からも姿を消した。昔は名物だったワカサギもここ10年弱見つかっていない。
対してヤマトシジミは汽水化で爆発的に増えた。水産行政の側面なら成功とも言える。
多鯰ヶ池からも湖山池からも消えていき、気が付けば鳥取県東部からミナミアカヒレタビラは絶滅してしまったのではないかという状態だ。一応、希少野生動植物種に指定され保護されているが、そもそも残っているかすら怪しい。
しかし、私はまだどこかに残っていると思う。
湖山池にいて、多鯰ヶ池にいて、他にどこにもいないなんてことは無いはずだ。湯山池だって多鯰ヶ池からの水路を繋げて100年以上は経つだろう。移動のチャンスは何度もあったはず。
水路を埋め尽くすアサザが残っていたように、どこかに楽園があるかもしれない。
なんなら、湯山池の跡地となったあの水路とかで再発見されてくれたら最高なんだけれど(笑)
とやかく言っても仕方がない。
因幡のミナミアカヒレタビラが居るのかどうか。運も採取力もない私はローラー作戦を仕掛けるしかない。もちろん希少野生動植物種なので許可も必要だ。
水路のローラー作戦なんて半端ない時間と労力がかかるだろう。点を巡る池巡りとはわけが違う。水路という線を因幡地方の平野部で潰していかなければならない。
しかも投網やタモ網という力技で。
これは尋常ではない。しかし、夢がある。
あれだけ仕組みかやらなんやらと宣っておきながらも、やはり憧れは止められないのだ。
ローラー作戦を掛ければ、その最中にまだ見ぬニホンイトヨが見つかるかもしれない。少なくとも鳥取県東部の生物相をかなりの解像度で見えるようになるだろう。
それに、この無謀な夢に付いて来ようとする後輩もいる。先輩が躊躇してどうする。私も彼らに負けないくらい走りぬかねばならない。
これからの鳥取はとても熱い。
鳥取県地域教育推進局との繋がりは予想外の方向から朗報を運んできた。
とある農家の方が使用していない溜池を好きに使っていいというのだ。場所は山間の閉鎖的な溜池。池干しして泥上げした方が良さそうではあるが環境自体は悪くない。
周辺の湿地帯保全の要となる場所にしたい。というか、する。すしかないだろう。
とにかく拠点となるフィールドを手にしたことは大きい。農地管理と絡めながら堅実に、保全の最前線として利用していきたい。そのうち、最強の池として生物界隈を賑わせる場所にしたいものだ。
最後にひとつ、長期的な野望として。鳥取市街地からそう遠くない位置にある巨大な池、八幡池。ここがなんと売りに出ているらしい。
表立ってではないが、おそらく不動産向けに埋め立てて駐車場に使わないかとかそんな話のようだ。どうやらまだ買い手は付いていないとのこと。
この池は鳥取城とも縁が深い歴史ある池だ。しかも昔は一面にジュンサイが繁茂する良い池だったと聞く。
一時期ブラックバスか増え、その後の池干しでバスもいなくなり、今はヒシとザリガニとウシガエルの池になってしまっている。
調査記録もないので、かつての生物相は推測するしかない。
しかし、多鯰ヶ池と千代川、湖山池の間にある巨大な池だ。それらと似たような生態系があったのではなかろうか。私はそう考えている。
そして、その中で唯一の人工的に管理できる池でもある。
買い取れるような財力は到底ないけれど、もし叶うのであればこの巨大な池に鳥取県の平野部本来の水辺環境を再現したい。まだその欠片は各地に散らばっている。拾い集めることができる段階だ。
異世界転生物語
今まで有明海で活動してきた私にとって、山陰地方はもしかしたら存在したかもしれない可能性を魅せてくれる。
有明海異変に関しては、もちろん様々な原因がある。何かひとつが悪いというわけではない。複雑に絡まった多くの環境破壊が積もり積もって瀕死の海を作り上げた。
しかし、戻れない一線を超えたのは、諫早湾干拓事業だろう。
戦後の食糧難の時代に計画された大規模干拓計画、八郎潟、有明海、中海。八郎潟は1960年代に干拓した。有明海は減反政策が吹き荒れる中、私が生まれる1年前の1997年に諫早湾の干拓に踏み切った。干拓後に始まった衝突は、地域、政治、司法を巻き込み今も続いている。
私は豊かだった頃の有明海を知らない。数kmの範囲を埋め尽くすハイガイの群生地も、浜辺を真っ赤に染めるシチメンソウの自然海岸も。
もう見ることは出来ない。
しかし、中海だけは違った。2002年に島根県、鳥取県は中海の干拓事業を中止を決断した。そのお陰で今も両県にまたがる中海を見ることが出来る。
有明海の諸問題は如何ともし難い程に巨大化し、瀕死の海は個人の力ではどうにも出来ない。僅かな局地戦に勝利しても全体では失われていく。
その局地戦ですら、若者たちが全力で数年を賭けたところでひとつとして守れない。
環境保全は負け戦であることは理解している。それでもやはり、環境保全というものは、続けるにはあまりに辛い。熱心な者ほど心を病み、折れていった。私らの活動初期から今も続けている友人が何人残っているだろうか。
そんな中で流れ着いたここは、まさに私にとってのifなのだ。あの堤防が作られなかった世界線。生物相も環境も少し違うし、結局問題は色々あるけれど、それでもまだ分水嶺は越えてない。そのタイミングにやってきたのだ。
まさに異世界転生。旧友は上手い表現をしてくれた。
有明海で工事阻止のために全力だったあの時とは違う、もっと夢がある環境保全。
決して楽観視できる状況ではないけれど、まだこの場所では間に合うのでないだろうか。そんな希望が、私を鳥取に引き留めるのだ。
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