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ブラジルチドメグサ防除作業

noteでは初めまして。小宮春平と申します。普段は海外に魚を探しに行ったり、絶滅種を探したり、野食をしたり、環境保全をしたりしております。
今回、最初の記事は環境保全。1年かけて取り組んだ高良川のブラジルチドメグサ防除がひとつの形になりましたので、ここでご報告させて頂きます。


異変に気が付いたのは2018年12月27日でした。
その日は国内外来種ギギの調査のために福岡県の研究者の方と高良川に来ていたのですが、水面を覆う見慣れない植物に驚かされたのをよく覚えています。

ブラジルチドメグサ

という外来水草に覆われ、幼少の頃から親しんできた川はたった半年の間に様変わりしていました。




写真:柳川市の水路
ブラジルチドメグサは特定外来生物に指定されています。その侵略性は高く、侵入すると瞬く間に水面を覆いつくし、水中の生態系に大きな影響を与えてしまいます。
高良川も例に漏れず、ブラジルチドメグサは瞬く間に増殖し、数ヶ月の内に巨大な群落をあちこちに形成していきました。後に分かったことですが、最初に目撃されたのは2018年8月だそうです。冬になるまでの数ヶ月でこれほどまでに増えてしまうとは、やはりブラジルチドメグサの繁殖力は凄まじい……。
在来の水草は冬にかれるのですが、この種は冬も枯れないため、春に在来植物が新芽を出す頃には水面を埋めてしまいます。そういった生活史も、非常に厄介な点です。


画像 佐賀市 平成31年度当初予算概要

熊本県や佐賀県など既に繁茂してしまった地域では駆除が行われていますが、根絶が困難で長い防除作業が続いています。
例えば佐賀市では平成31年度の予算でブラジルチドメグサやナガエツルノゲイトウなどの外来水草の除去に2000万円を投じています。これだけの予算を投じるのは外来水草が水路を覆ってしまうと、流れを止めて用水路としての機能を阻害したり、大雨の時に越水しやすくなるなど、様々な問題を引き起こすからです。

だからこそ、外来種問題は手遅れになる前に早期防除に取り組むのが重要です。

しかし、行政が動き出すにはどうしても時間がかかります。多くの場合は問題が発生してからようやく対処が始まりますが、ブラジルチドメグサの場合はそうもいきません。
さらにこの高良川は下流が国、中流が県、上流が市と行政区を跨いでしまっているため、どこが対応するのかという問題もあります。






ならば、私たちでやってしまえばいいじゃないか!

年が明けた2019年1月5日、私は仲間たちに声をかけ一回目の駆除を行いました。

このまま春を迎えては手遅れになってしまう。だからこそ気付いた人が動かなければなりません。

特になんの取り柄もない私ですが、幸いにも仲間には恵まれているようで、唐突な呼びかけにもかかわらず集まってくれる友達が……ありがたい限りです!


 



この日、下流部に繁茂していた群落は取り除きました。
5人で約4時間の作業で30袋強。ブラジルチドメグサは生きたままの移動が禁じられる特定外来生物のため、久留米市のボランティアゴミ袋に入れて行政に回収してもらいます。

迂闊に動かすこともできない特定外来生物。行政主体で防除に乗り出すのは難しいですが、市民と行政が役割を分担し、こうやって処分してくれるのはとても有難いことです。

しかしながら防除作業はこれからです。少しでも千切れた茎や地中の根を残してしまえば無限に再生してきます。

それを根気強く回数をかけて抜いていくしかありません。






1月9日、2回目の駆除。
この日除去したのは高良川最大の群落でした。

助っ人に来てくれた北九州の友人と2人、ひたすら作業を進めます。重労働の陸揚げ係と、休憩も兼ねた千切れた葉の回収係を交代しながら数時間繰り返しました。

量が多いだけなら存外なんとかなるもので、おそらく数トンはありそうな群落を除去することが出来ました。

1月19日、この日は信州大学から手伝いに来てくれた友人と上流域の群落を除去しました。

最上流の群落は堰の上に繁茂していました。これより上流では確認されていませんが、いったいどこから群落はやってきたのか。
人為的に持ち込まれたのか、何かしらの自然の要因なのか……。何にせよ私には「確認できる限り取り除く」という方法しか手段がありません。


孤独な戦い

2月1日以降
ここからは個人作業。どうあれ誰かがやらねばなりません。
それが1人だったとしても、気付いたからにはやらないと、気持ちよく明日が迎えられないというものですぜ。

群落を引き剥がすと凄いことに。所狭しと根を張り、マット状に繁茂しています。お前らどんな繁殖力なんだ……野菜だったらどんなに優秀だったでしょうか。
とはいえ実際何度か食ってみた事はあるんですけど、こうやって生えまくってるのは美味しくない部分なんで、食いたいとは思わないし、仮に美味しくてもトン単位の草は食えないですね。

参考 特定外来生物ブラジルチドメグサを食べながら「野食ブームの是非」に対するぼくなりの解を拾う

などと考えながら作業したところで、冬の凍てつく川でひとり作業を続ける辛さが紛れる訳もないのですけどね(笑)

そんなこんなで大量のブラジルチドメグサを抜いているのですが、防除作業において大切なのはどちらかといえば精度です。少しでも取り残せば、こんな感じで次に来た頃には再生してます。根絶のためにはどれほど丁寧に除去出来るかどうかが重要です。
特に陸地に生えたブラジルチドメグサ(お前、浮草じゃねぇのかよ……)の除去の難しさときたら、量だけの水上の群落の比じゃありません。

そのため、ブラジルチドメグサの本線に指を添わせ、茎を折らずに掘り返すにはなるべく素手がよく、冷たい水と砂利混じりの砂や葦の葉で指先はボロボロです。

正直幾度となく「なんで私はこんな辛いことをしてるんだろう」と投げ出したくなりました(汗)

2月2日、2日間の作業で冬季に確認していた分の群落は全て除去できました。大群落を除去する段階から、暖かくなって各所で勢いを増す小群落を探して除去する段階に進みます。



3月1日、年末からの浚渫工事が終わり、中流域に入れるようになりました。

「浚渫で全部無くなってくれてるのでは」なんて安易な期待を胸に行ってみたものの、この工事で川面全面に小さな群落が拡散し、以後もっともブラジルチドメグサが蔓延した場所になっていました。辛すぎです。

以後、ここの駆除に手を焼きます。

以後、4月7日、4月15日、5月7日、5月21日、6月1日、6月21日と、仕事や学業の合間を縫って防除作業に勤しみます。

仕事の昼休み「飯食ってきます!」と外に出て、防除作業で泥だらけになって帰ってきたり、 とにかく時間を見つけて行ける限り川へ(笑)

夜は千切れた葉を見落とす(拡散に繋がる)可能性が高く日中しか作業できないのが面倒で、しかも5月からの漁協の仕事が100連勤とかなるので休日が存在せず、時間を工面するのが大変でした(汗)

またこの時期に入ると、暖かくなり本格的に繁茂し始めます。その繁殖力は脅威ですが、こちらにも好都合で、今まで見落としていた小さな群落が巨大化して発見が容易になり、見落としが少なくなります。

ただまぁ、少し怠けて「次回でいいや」なんて思った群落が次回には数倍に巨大化していて後悔することも……。全く、早期防除を訴えておきながら本末転倒ですね(汗)

それでも回数を重ね、何度も何度も確実に除去していくことで、ブラジルチドメグサは着実に減っていきました。幸か不幸か、この頃になるとかなり掘り返す能力が上がり、綺麗に1度で群落除去が出来るようになったり……なんとも皮肉な能力ですけれど(笑)

さて、そんなこんなで大雨後の8月10日、川を一通り見て回った時にはもうブラジルチドメグサの群落を確認することが出来ませんでした。


根絶へ

それ以後、国内廻ったり、アフリカ行ったり、しばらく私用で福岡を離れることに……。

11月13日、久方ぶりに久留米に戻り恐る恐る川の様子を見に行くことにしました。さながら、旅に出る前に捨て損ねた生ゴミが待つ家に帰る心持ちです(笑)

数ヶ月も放置したので凄まじいくらい増えているのではと思っていたものの、実際探してみても浚渫跡に若干生えていたのみ。

これだけ時間を開けてこの程度しか再生していないのなら本当に残り少なくなってきたのでしょう。あと少しです。

続く11月19日と21日に上流部で草陰に隠れ残っていた最後の群落を除去。

いよいよ終わりが見えてきました。

11月26日、下流から上流までの調査を行いました。
筑後川合流地点から最上流域まで河川内を歩き、隈無く探してまわります。
見落しのないよう、友人たちにも協力してもらいました。1月以来の複数人での作業、これは心強い。

今まで岸からは確認しづらい場所も、川の中からなら良く見えます。強いて辛いところをいえば、河口から上流まで歩くには体力と時間がかなりかかるところ。

疲れと、隠れている群落があるんじゃないか、見落としはないかという緊張感の中で、繁茂するクレソンの紛らわしさに振り回されつつ登っていきます。

僅かに21日に除去した群落の取り残しが再生していましたが、それ以外は全く確認できず。もうあと幾つかは残っているのではないかと危惧していただけに、かなり嬉しい結果となりました。

11月26日に続き、12月12日も群落の確認へ。おそらく最後であろう小さな断片を除去。隈無く取り残しが無いかを確認し、防除作業を終えました。

以後、再生の兆しはありません。

もしかしたらまだどこかに残っているかもしれませんし、気は抜けません。来年も継続して調査していく必要があります。

ただ2018年12月に発見し、2019年12月丸1年かけた防除作業がようやくひとつの形になりました。
各地で猛威を振るうブラジルチドメグサを、人の力で、ただひたすらに回数を重ね、丁寧に駆除し続ければ根絶できたという事実。それがひとりの保全家にとって、どれ程待ち望んだ喜びの瞬間であったか言うまでもないでしょう。

何はともあれ、高良川のブラジルチドメグサの危機は去りました。この物語はひとまずハッピーエンドで幕を閉じたいと思います。

長文にお付き合いくださりありがとうございました。

以下、参考にどうぞ。

A地点  筑後川合流部

B地点  浚渫工事跡下流部
浚渫工事のため、現在は航空写真と地形は異なる。



C地点 浚渫工事跡上流部



D地点 高良川公園周辺




E地点 信愛女学院付近

F地点 上流部


以下、年間の防除作業日程

2018年12月27日 筑後川合流地点、浚渫工事地点でブラジルチドメグサ、オオフサモを発見

2019年1月5日 第1回防除作業 
参加者 小宮、田中、M、K、k
防除地点 A1,A2,A3,A4,A5

2019年1月9日 第2回防除作業 
参加者 小宮、山本
防除地点 A3,A4,A5,D5,D6,D7

2019年1月19日  第3回防除作業
参加者 小宮、村上、m
防除地点、D8,E2,E3,F5

2019年2月1日 第4回防除作業
参加者 小宮
防除地点 F2,F3,F4

2019年2月2日 第5回防除作業
参加者 小宮
防除地点 F1

2019年3月1日 第6回防除作業
参加者 小宮
防除地点 B6,B7,B8,D6,D7
備考 浚渫工事後、B地点周辺でブラジルチドメグサが拡散。

2019年4月7日 第7回防除作業
参加者 小宮
防除地点 D7,F4,F5

2019年4月15日 第8回防除作業
参加者 小宮
防除地点 B6,B7,B8,C1,C2,C3

2019年5月7日 第9回防除作業
参加者 小宮
防除地点 A4,B2,B3,C4

2019年5月21日 第10回防除作業
参加者 小宮
防除地点 B6,B7

2019年6月1日 第11回防除作業
参加者 小宮
防除地点 C5,C6,C7,D1,D2,D3,D4,D7
備考 C5地点の群落はオオフサモ。2018年12月27日に確認したが、浚渫工事後は初確認。

2019年6月22日 第12回防除作業
参加者 小宮
防除地点 B2,B3,B4,B5,D1,D4,D7

2019年8月10日 第13回防除作業
参加者 小宮
防除地点 
備考 A,B,C地点を調査したが群落を確認できず。

2019年11月13日 第14回防除作業
参加者 小宮
防除地点 B1,B9
備考 A,B,C,D地点を河岸から調査。

2019年11月19日 第15回防除作業
参加者 小宮
防除地点 E1,E4
備考 D,E,F地点を河岸から調査。

2019 年11月21日 第16回防除作業
参加者 小宮
防除地点 E1

2019年11月26日第17回防除作業
参加者 小宮、宗田、井上
防除地点 E1,E4
備考 A,B,C,D,E,Fの筑後川合流地点から上流部まで河川内から通して調査。同月に除去したE1から僅かな再生が確認できたが、他の地点では再生が認められなかった。

2019年12月12日 第18回防除作業
参加者 小宮
防除地点 E1
備考 E1の再生したブラジルチドメグサの断片を除去。他の地点では再生を確認できず。

2019年12月15日 第19回防除作業
参加者 小宮
防除地点
備考 全体を通して確認できず。

市内にはまだまだ対処すべき問題は沢山あります。例えばこれはホテイアオイ。ブラジルチドメグサもオオフサモも各所に侵入しています。
また外来種の問題だけでなく、残された希少な生息環境が工事で失われたり、水辺環境を取り巻く状況は芳しくありません。

そんな中でも、ひとりの生物屋として少しでも環境保全に役立てればと考えております。

noteの支援はそういった自然で遊び、生き物を伝え、環境を守る活動に役立てていきます。御支援宜しくお願いします。

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