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Poem)花が咲くように、風は…

懐かしい風が吹いてくる。
風そのものには匂いも音もない。
時々風が連れてくる風景は、
オーロラの裾のように、
風が衣を翻して通り過ぎながら
垣間見せるもの。
花が咲くように、
風の置き土産の包みが、
そっとほどかれる。

風は透明だけれど、
その体の中は時打っている。
風は、時の顔だと思う。
風は、時の手だと思う。
風は、時の足だと思う。

風は、遠い記憶を今に、
今日の記憶を明日へ運ぶ。
風は幼子の涙を乾かして、
頭を撫でながら通り過ぎる。

風はいつまでもずっと、そこに吹く。
猫は、髭と耳に届く風の声を、
よく聞いている。
人間には聞こえない風の話。

風のない晩は、
長旅に疲れた風が、
鳥の羽の中に潜り込んで休んでいる。
朝、一緒に飛び立ちながら、
風は時を進めていく。

#詩 #現代詩 #エッセイ

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