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Soft Machine「Volume Two」レビュー

カンタベリー・ロック(カンタベリー系)の概要については、「カンタベリー・ロックシーンを整理する」を参照してください。
2nd Album
Release Date: 1969
Personnel:
Mike Ratledge - Keyboards
Hugh Hopper - Bass
Robert Wyatt - Drums, Vocals
+
Brian Hopper - Soprano & Tenor Sax

 前作「The Soft Machine」発表後、ケヴィン・エアーズがツアーに疲弊してバンドを脱退し、代わりにヒュー・ホッパーが加入する。ホッパーは彼の実験的なソロアルバム「1984」からも伺えるように、ボヘミアン気質のエアーズとは依って立つものが異なる厳格なミュージシャンであり、これによってソフト・マシーンの音楽性はロバート・ワイアットが主導していたサイケポップからシリアスなジャズロックへと変貌を遂げていく。とはいえ今回レビューする「Volume Two」では未だワイアットの存在感も強く、その絶妙なバランス感が本作品の魅力となっている。なお、このアルバムにはヒュー・ホッパーの兄であるブライアン・ホッパーがゲストとして参加しているが、管楽器の導入は後の作品への布石とも取れる。

 ソフト・マシーンは前作の時点ですでにメドレー形式を導入していたが、「Volume Two」ではその手法をさらに発展させており、レコード時代のA面(「Pataphysical Introduction - Pt. I」~「Out Of Tunes」)、「As Long As He Lies Perfectly Still」と「Dedicated To You But You Weren't Listening」を除くB面(「Fire Engine Passing With Bells Clanging」~「10:30 Returns To The Bedroom」)は全て切れ目なしに進行する。それぞれのメドレーにはタイトルが付けられており、A面は「Rivmic Melodies」、B面は「Esther's Nose Job」となっている。

「Rivmic Melodies」は主にワイアットとホッパーによる作品集で、特にワイアットの意向が色濃く反映されている。この組曲、個人的にはワイアットの溢れんばかりの創造性に思わず畏れ慄いてしまうほどの大傑作なのだが、特に冒頭三曲の流れが素晴らしい。オープニングを飾る「Pataphysical Introduction - Pt. 1」では「Good evening - or morning」と、さながらラジオDJのような語り口でワイアットがアナウンスを行う。そして彼の「Ladies and Gentlemen - the British Alphabet!」という言葉に続いて演奏される「A Concise British Alphabet - Pt. 1」の歌詞は「A, B, C, D, E, F, G……」そう、この曲はソフト・マシーン版「ABCの歌」なのである。まさに人を食ったような展開! さらに間髪入れずに突入する「Hibou, Anemone And Bear」ではここまでの流れから一転して、マイク・ラトリッジのキーボードが火を噴くジャズロックが繰り広げられる。この硬軟織り交ぜた構成には脱帽せざるを得ない。その後も鳥肌が立つほど感傷的なメロディの「Thank You Pierrot Lunaire」等の佳曲を挟みつつメドレーは進んでいき、最後は今までの曲をグシャグシャにコラージュした「Out Of Tunes」で狂騒のうちに幕を閉じる。

「Esther's Nose Job」はラトリッジによる作品集でライブでも頻繁に演奏されており、ソフト・マシーンの代表曲の一つであるといえよう。こちらはA面とは打って変わってシリアスなジャズロックが全編に渡って展開され、ホッパーの加入により前作からさらに切れ味を増したアンサンブルを存分に味わえる。しかし、ワイアットは巧みなドラムプレイやボイスパフォーマンスで演奏に大きく貢献しているものの、こうした方向性の曲では彼のユーモア感覚が入り込む余地はなく、その後の彼のバンド内における立ち位置の変化を示唆する内容にもなっているのにはやや複雑な思いを抱いてしまう。

 自分はこの「Volume Two」がソフト・マシーンの最高傑作だと考えている。これ以降のラトリッジやホッパーが主導権を握った作品群も魅力的ではあるが、本作品ではワイアットと彼等の発言力がギリギリの所で並び立っており、そのユーモアとシリアスの相克がこのアルバムを唯一無二の領域へと押し上げているように思う。また、作品全体を通してどことなくブリティッシュポップの残り香が漂っているのも特筆すべき点として挙げられる。そうしたノスタルジックな要素を振り捨てて実験的な音楽性を選んだことにソフト・マシーンというバンドの意義があるのだが、それでも自分はサイケポップにもジャズロックにも寄り切らない、狭間のこの時期だからこそ成立した「Volume Two」という作品を、たまらなく愛おしいと感じてしまうのである。

 ちなみにこのアルバムは、フランク・ザッパ率いるザ・マザーズ・オブ・インヴェンション / The Mothers Of Inventionの作品である「Absolutely Free」にインスパイアされているらしい。「Absolutely Free」も同じくA面とB面がメドレー形式となっており、他にも音の感触や捻くれたポップ感覚など共通する点が多いので、本作品が気に入った方にはこちらもお勧めしたい。

PICK UP

03. Hibou, Anemone And Bear
 ラトリッジ作のジャズロック。各楽器が順番に入ってくるイントロが印象的で、特にピアノのこぼれ落ちるようなフレーズが凄まじく格好良い。激しく盛り上がるインストパートと静かな曲調の中に緊張感を孕むボーカルパートの対比も決まっている。

11. As Long As He Lies Perfectly Still

Here's a song for 'clean machine Kevin Majorca'
He's found his own way of 'live in Majorca'
Don't walk, don't drink
Don't talk, just think
Heaven on Earth he'll get there soon

 ソフト・マシーンを脱退した後、一時期イビサ島に隠遁していたエアーズに捧げられた曲。カンタベリー・ロックのエッセンスを2分半に凝縮したような演奏も圧巻の一言だが、何と言っても歌詞が素晴らしい。バンドとは別の道を行くこととなったエアーズへの様々な想いが込められた歌詞は、元は一つ屋根の下で暮らしていた彼等の繋がりの深さを強く感じさせるものである。とはいえすっかり感傷的になっているわけではなく、エアーズの作品である「Why Are We Sleeping?」や「Lullabye Letter」の歌詞を引用するなど洒落っ気も見せているのがいかにもカンタベリー系らしい。自分はカンタベリー・ロックのそうした面がとても好きだ。
 なお、キング・クリムゾン / King Crimsonのメンバーであるジャッコ・ジャクスジクは自身のソロアルバム「The Bruised Romantic Glee Club」にてこの曲をカバーしているが、参加メンバーにはデイヴ・スチュワートヒュー・ホッパークライブ・ブルックスといったカンタベリー人脈のミュージシャンを揃えており、一聴の価値がある。
 また、この曲はKING CRIMSON 和訳集というサイトに訳詞と解説が掲載されているので、こちらもぜひ一読をお勧めしたい。

12. Dedicated To You But You Weren't Listening

When I was young, the sky was blue
And everyone knew what to do
But now it's gone, the telly's here
Mass media, the sewer too

 ホッパーが弾くアコギの上でワイアットが歌う弾き語り風の佳曲。どことなく虚ろな空を連想させるようなワイアットのボーカルが印象に残る。
 ちなみにこの曲はザ・キース・ティペット・グループ / The Keith Tippett Groupの2ndアルバムのタイトルにもなっており、わずか30秒ほどの演奏ではあるが「Dedicated To You But You Weren't Listening」もカバーされている。本作品にはワイアットが参加しており、その縁で取り上げられたのだろうか。
 また、ワイアットがソフト・マシーン脱退後に結成したマッチング・モール / Matching Moleの1stアルバム「Matching Mole」では「Dedicated To Hugh, But You Weren't Listening」と、タイトルの「You」「Hugh」に変えた曲が収録されている。こちらは原曲とは特に関係ない内容だが、ワイアットのホッパーに対する何らかの感情の表れなのか、それとも単なる言葉遊びなのか?

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