2023 天皇賞・秋回顧 "私の心に深い傷を負わせたイクイノックス"

下世話な話、レースの回顧というものは次の一戦へ向けた情報商材でもある為大っぴらに話す様なことはしたくないのですが、それでも昨日の天皇賞・秋のイクイノックスの走りは「コイツをどうやって倒せばいいんだ」というタイトルの通り「私の心に深い傷を負わせる」様な内容だったので珍しく回顧してみようと思います。


1.イクイノックスの血統概要

Lyphard 5・5×4 Halo 4×4

父:キタサンブラック 母シャトーブランシュ
安平町 ノーザンファーム生産 2019年3月23日生

Lyphardを4×4で持つ父キタサンブラックに対して2015年マーメイドSを制したシャトーブランシュを配することでLyphardを継続しつつ、トニービン・Nureyevを織り交ぜ、キタサンブラック内のノーザンテーストと合わせて潤沢なスタミナや底力、粘着力・持続力を強化する一方でサンデーサイレンスにキングヘイローを合わせることでHalo≒Sir Ivor≒Droneを4・6×5・4・5で持つ為瞬発力も潤沢に持ち合わせている配合系。
また、キタサンブラック内のジャッジアンジェルーチも現役時にダート9F前後で活躍した様にスピードとパワーを持っておりここがノーザンテーストを中心としたスピードの持続力とNorhtern Dancerのパワー源にも直結している。
その他にミオスタチン遺伝子がCC型のサクラバクシンオーも入っておりその点でパワーにも優れるが、元を辿っていくと1986年天皇賞・秋を制したサクラユタカオー、そのサクラユタカオーをはじめ3200m時代だった1977年天皇賞・秋を制したホクトボーイや1976年有馬記念を制したトウショウボーイを輩出したテスコボーイ-Princely Giftに繋がり、コーナリング性能面に優れる柔軟性をも持ち合わせている。

特にサンデーサイレンスの瞬発力・爆発力源であるAlmahmoud-Mahmohd≒Sun Princess、と肉Mahmoud≒Sun Princessはサンデーサイレンス・Halo・Sir Ivor・Drone・Sir GaylordのRoyal ChargerとLypahrd・ノーザンテースト・Nureyevの中からMahmoud≒Sun Princessは8・7・9・9・9×8・9・8・7・8・9・8・9≒4.69%という血量を誇り、これが根幹となっている。

2.昨年の天皇賞・秋との大きな違い

この話をする前に前提条件として昨年と今年で馬場に大きな差が感じられなかったというのをお伝えしておきたい。
念のため含水率・クッション値を並べると
2022年
含水率 4コーナー:13.8% ゴール前:13.3%
クッション値:9.1
2023年
含水率 4コーナー:15.7% ゴール前:13.6%
クッション値:9.0
昨年と変わらないが、強いて言うなら今年の方が4コーナーが気持ち重たいくらいである。 

2022年天皇賞・秋

昨年パンサラッサが快調に飛ばしていった時の1000m通過タイムは57.4、しかし後続は続かずおおよその数字ではあるが2番手のバビットで60秒を切るか切らないか程度
イクイノックスに関しては0.7~1秒遅れとなる為通過タイムは約61秒弱くらいといったところになる。
また、ここから割り出されるイクイノックスの後半1000mのタイムはおおよそだが56.5~57秒程度となる。
後半圧倒的な追走スピードでパンサラッサを捉えきった辺り高パフォーマンスであることは間違いないのだが、やはり2番手以下はスローでパンサラッサも止まるか止まらないかのギリギリの所だった為、決勝タイムも1:57.5と悪い言い方をすると「結局例年の天皇賞・秋」という様相だった。

2023年天皇賞・秋

今年は前年果敢に攻めたパンサラッサが不在の中鞍上藤岡佑介のジャックドールが腹をくくった逃げを選択、2番手にガイアフォースが後ろから突くような形になり、レースペースを緩めさせなかった結果57.7で通過、イクイノックスはここから2馬身程遅れての追走となった為、概算でも58秒を切るか切らないか程度で既に昨年と比較して1000m通過が3秒近く早い状態である。
仮にイクイノックスが58.5程度で通過したとした場合、2018年から2021年までの間で言えば「単騎逃げの状態」に当たるペースとなる。
また、上記の1000m通過が58.5だった場合、後半1000mは昨年同様56.7程度で走っていることになる。

ここで何が言いたいかというと、仮にジャックドールが腹を括った逃げに出ず、ソロっと出たなりでレースをしたにしても、ガイアフォースが後ろから突っつかずにスローペースに落とし込もうとしたとしても「イクイノックスは自分の力だけでレコードタイムを更新してしまう走りを出来た」ということである。

2018年JCのアーモンドアイの様に「自分でレースを作れなくはないが、時計を出すのに周りの馬が自分のスピードレンジのレースに仕立て上げてもらった結果時計が出た」というのは分かるのだが、最早ここまで来てしまうと血統なんて何の役にも立たない、サラブレッドを模したフォーミュラマシンか何かとでも言った方が良いかもしれない。

個人的な持論として「本当のトップホースは血統の領域を超える」というものがあるが、今回のイクイノックスの走りは無理矢理血統の範疇に収められなくもないが、まさしくその典型例だったと思う。
強いて言うならAlmahmoud-Mahmoud≒Sun Princessの爆発力とMutaz Mahalのスピードの集合地の極致といったところだろうか。
とてもでないがLyphardの持続力が、とかHaloの瞬発力が、とかで収めた説明が出来るものではない。

3.イクイノックスの今後の展望

次走ジャパンカップが今年の最大目標とされているイクイノックス。
今回最大のライバルと目されるドウデュースが出てくるだけあって生半可な仕上げではなかった。
ただ、最後に余裕すら感じさせる内容からするとまだ上積みはあるだろうし、未だに成長期にあるだろう。
牝馬3冠を引っ提げて挑んでくるリバティアイランドもかなりの難敵になりうるが、またもねじ伏せる競馬をしてくるのではないだろうか。

天皇賞・秋の結果が出る前のJRA GⅠのレコード一覧

時計的なことを考えると中間に荒れた天気にならない限りまたも更新は考えられる。
ただし、昨日の天皇賞・秋と比べると更新するタイムの差は然程大きくはならないと考えられる。
今回叩き出した1:55.2は1F平均でいくとそのまんま÷10となる為11.52が1F平均となる。
1200mのスプリント戦から約0.2秒刻みで1F平均が上がっていることを考えると2400mの11.71というのは割と理論値に近いと考えられ、ここから大幅な更新があるとなると1600mのマイル戦も2000m戦もタイムが縮まないとバランスが成り立たなくなってしまう。
あってもコンマ数秒の更新が関の山だと思われる。
というか、思いたい。寧ろそれくらいじゃないと本当にすべてが覆る。

後はどこまで現役を続行するか。
正直JCを制してしまったら極端な話「海外の強豪と戦う以外やることが無い」状態に陥る。
ここで引退として次のステージへ向かうのか、それとも大きな挑戦に出るのか。
個人的にはBCターフや香港国際競争、今春制したドバイSC連覇への挑戦の他に以前シャフリヤールが挑戦したプリンスオブウェールズSなんかは面白そうに思う。
ブリティッシュウェザーで重馬場になり、そこで苦しむという可能性は排除できないが、6月のイギリスは比較的好天になりやすい為、「ババガー」に苦しむことは余り考えずに済むだろう。
レースペースも今年のドバイSCで披露した様にレースを引っ張る馬がいなければ自分でペースを作れる為、シャフリヤールの二の舞になることにはなるまい。
ここまで心に傷を負わせるような衝撃的なレースをしてくれた手前、出来れば来年も現役続行して大きな挑戦をして欲しいものである。

4.オマケの他馬短評

本文は前項で終わりだが、せっかくなので他の馬についても軽く短評(で収まるか分からないが)を載せてみようと思う。

1.ドウデュース

ドバイターフが跛行で取消となり、空輸送となってしまったところからの立て直しの1戦で、尚且つ今年緒戦となった京都記念の内容から真っ向勝負になるのを期待された方も多いだろう。かくいう私もその1人。

まさかの豊さんから戸崎騎手への乗り替わりとなったが、ソングラインの騎乗から見て取れる通り比較的柔らかいスパートをかけるタイプのジョッキーの為、一気にスパートをしてパタッと止まる心配は余りしていなかった。
だが、それ以上に久々の影響で行きたがる面を見せ、尚且つイクイノックスの真後ろというかなり激流に乗せてしまったというのが1番の敗戦のポイントだろう。

ただし内外で同じ位置でレースを運んだヒシイグアスとノースブリッジに対して6馬身以上差を付けたのは流石の底力と褒めるべき。
これでガス抜きにもなっただろうし、幸い負傷した豊さんも骨折の重症にはなっていない様なのでJCまでに復帰していただき、怪物退治の一角となってもらいたい

2.ジャスティンパレス

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