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令和時代の心地よい働き方とは?

本記事は、宣伝会議 第43期 編集・ライター養成講座の卒業制作として提出したものを元にしています。

「好き」だけを仕事にしなくてもいいー。新たな一歩を踏み出したワーキングマザーにインタビューして見えてきた、令和時代のこれからの働き方に迫る。

1.今の時代を生き抜くヒントを求めて

母と娘 (2)

「この働き方をずっと続けていい? 私、このままでいいの?」と、ふと立ち止まって考えることがある。首都圏を中心に緊急事態宣言が発出され、休校で子どもたちの生活がガラリと変わった時期には、特にそんな悩みを持つ人々も増えたのではないだろうか。 
渦中にいると気づきにくいが、非日常だったマスク生活もいつしか日常となり時代は確実に大きく変化している。例えば、朝の通勤時間帯の東京駅・新橋駅・品川駅の利用者数は、令和2年と3年の同時期を比較すると5割以上も減少した。(*1) 在宅勤務のため出社することがほぼなくなったり、オンラインミーティングにも抵抗がなくなったり、以前では想像できなかった光景も多い。

 心地よい働き方をし、より人生の満足度を上げるにはどんな基準で仕事を選べばよいのだろうか。好きなこと、やりがい、働きやすさなど、自分が大切にしたい価値観を掘り下げることで何か見えてくるかもしれない。

 令和時代になりもう4年目。新しい仕事をスタートした人たちから、今の時代を生き抜くヒントが得られるのではないだろうか。そんな思いで、今回は新たな一歩を踏み出した首都圏に住むワーキングマザー3人に話を聞いた。

2.感じることを「あるまま」受け入れ、得意なことを生かした自分らしい働き方を模索している、あらのたか子さん (東京都在住)

「好きを仕事に、とか売り文句があるじゃないですか。私にはあまり響かなかったし、好きという感覚がわからなかった」そう話すのは、「好き」ではなく得意な施術を生かした働き方をしながら、保育園に通う娘を育てるあらのたか子さんだ。

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 彼女は、大学卒業後、10年以上働いて身につけてきたリラクゼーションの施術の仕事を一度手放している。5人全員が四大卒の兄弟の末っ子である彼女は、兄たちに「大学卒業してサービス業かよ」と言われたことがずっと心に引っかかっていた。長年サービス業に従事しながらも、その一言で施術への誇りが持てないまま仕事を続けていた。ある時しんどくなってしまい、派遣の仕事ならすぐ見つかるし他のことをやってみようと思い、糸がプツンと切れたかのように施術の仕事を突然辞めてしまったのだった。

 仕事は仕事として割り切ろうと思い、派遣社員として営業事務をしていた。そこに再び転機が訪れる。在宅勤務が増えた影響で、出社日の残業が増えてしまった。20時まで保育園に預ける状況が続き、家族への影響も大きくなり、仕事を続けることに困難を感じるようになってきた。
 ちょうど同時期に「ナチュラルブランディング」や「セルフチューニングメソッド」などを学び、仕事は仕事として割り切らなくてもいい、自分は自分のままでいい、と思うようになる。また、過去を振り返ったときに、身体を使っていた方が何かとうまくいっていたということにも気がつき始める。そうして、少しずつ「施術への封印」を解いてもいいかなと感じていた。なぜそう思ったのか自分でもはっきりとはわからないまま、もう一回やってもいいという感覚になっていた。そんな時、なんと不思議なことに以前お世話になった店長から施術の仕事に戻ってこないか、と声がかかったのだった。「逆に連絡をもらって、あまりにびっくりしてすぐに夫に連絡したのを鮮明に覚えています」と当時を振り返る。そうして、元の職場に戻り一年が経とうとしている。

「施術そのものは、好きではない」と言い切るあらのさん。施術は苦労せずにできたので、特別なことではない、やっても仕方がない、だから手放してもいいと思っていた。簡単にできることで報酬を得ることは、ふさわしくないとハードルを上げていた。でも、一度離れてみてよくよく考えたら誰にでもできることではなかったと気づく。「好きではないけど得意な施術と、自分が関心のある内面や心のことをただつなげればいいという感覚になりました。自分の内側から出てくる感覚の方が正しいと思う。好きではなくても人に喜ばれることならやろうと感じるようになりました」と封印を解いた時のことを振り返る。

 施術について改めて見直すと、自分らしい見方があると感じるようになった。「私は、身体に触れることを通してその人の性質を見たいと考えています。硬さとか筋肉の凝り具合とか、実は身体の不調と比例しないこともあります。では何かと言うと、その人の潜在的な想いにつながっていることがあるのです。今は、店舗での仕事をしながら、施術と対話を通して心や身体の違和感や不調を自分のど真ん中で生きるための“メッセージ”と“よみとく”『スキャン施術』というサービスを個人で立ち上げたところです」と腑(ふ)に落ちたように語った。

 身体と心がつながっていることを伝える『スキャン施術』では、例えば、足のむくみは、フィジカルに考えれば、単純に余分な水分を蓄えている状態である。メンタル的に考えると、余分に蓄えている水分というのは、身体に残っている未消化な感情を象徴することもある、という。身体の不調は、生きる上での大事なメッセージでもあることをクライアントに伝えている。

 今後は、施術のほかに自分自身と対話する時間をクライアントと一緒に楽しみたいと考えている。ゆったりとおしゃべりができる空間で、施術をしながら自分の内側の話ばかりをするリアルな場を作っていきたい。店舗での施術の仕事も、自分では出会えない人がいるので続けるつもりだ。「あるまま生きる」をコンセプトに、好きではなく、得意なことと自分らしさを軸にする価値観を選んだあらのさん。施術をベースに生まれたサービスは本格始動し、新たな展開を迎えつつある。

3.大好きなフランスに関わる仕事をしたいという想いから「貿易家」という仕事に出会った橳島(ぬでじま)亜季さん(東京都在住)

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 もちろん、好きなことから仕事を見つけるという選択をしてもいい。「貿易家」としての仕事をスタートした橳島(ぬでじま)亜季さんは、好きなことで生活したいという価値観を大切にし、心地よいライフスタイルを自然に実現している一人だ。

 中学生、小学生、幼稚園児の3人の母でもある彼女は、大学卒業後、フランスへ留学した経験をもつ。フランス東部の小さな町トゥールとアンジェにある語学学校へ通ったのち、パリにある観光業の専門大学で学ぶ。その後インターンとして現地のホテルに勤務した。20代の3年間をフランスで過ごしたのちに帰国した彼女は、結婚・出産を経てフランス語を使った在宅ワークを始めた。最初にスタートしたのは自分のペースでできる旅行業の業務委託だった。来日するフランス人向けに、顧客のやりたいことを引き出しながら旅行プランを作る仕事を、子育ての合間に受けられる分だけ請け負っていた。

 軌道に乗ってきた頃、コロナ禍で来日観光客もいなくなり、仕事も激減してしまう。友人に「回遊魚だよね」と言われることもあるほど暇であることが苦手な橳島さんは、空いた時間にできる他の仕事を探し始める。いろいろと検索し貿易家と呼ばれる輸入業に挑戦してみることにした。主婦やママに特化した輸入ビジネスコミュニティ「ママレボ」に入り、自分にあった商材を探した。

 ここでもフランスから輸入できるものを探した。フランスの小さなメーカーの担当者は、英語を話さない方も多い。幸いなことに、フランス語で商談ができるというだけで日本への輸出を前向きに考えてくれる人も現れた。「コロナ禍じゃなかったら、フランスの物を輸入したい人は現地の展示会に行くでしょ。本当なら展示会で直接会った人のほうが信頼関係を築きやすくて、ビジネスもスムーズにいくはず。でも今は誰も行けないから、ネット経由で連絡した私でも仲良くなることができて、独占契約をもらうことができた。コロナはいい機会だったんじゃないかな」クラウドファンディングの立ち上げのために、有名ブランドと同じ革を使用したフランス製バッグの独占契約を結べた彼女は、1年前をそう振り返る。

 現在は、主にそのバッグやフランス製のパズルなどを輸入する仕事を行っている。子どもが起きている間はできるだけ仕事をしないことにしている。現地とのやり取りは時差の関係で夜になることが多い。一人の時間が確保できる早朝や午前中は、チラシなどデザインの作りこみ作業のほか、将来フランスからメーカーの担当者が来日したときに役立つような日本語案内ガイドの勉強にあてている。今の仕事を選んだ理由は、やはり「フランスと仕事をしたいという想いが強かったから」と話す。帰国後、ほとんどフランス語を使っていなかった橳島さん。言葉の不安がなかったのかとたずねると、「言語は自転車みたいなもの。自転車って何年乗っていなくても乗れるでしょ。難しい単語は忘れてしまっていたけど、日常会話は問題なく思い出せました」と軽やかに答えた。

 将来は、30代から50代の女性が好みそうなものをフランスからたくさん集めて輸入したいと考えている。今は現地に行くことはできないが、数年後は子どもを連れてフランスを訪れたい。将来的には、法人化も視野に入れている。子どもが起きている時間は基本的に仕事をしないと決めているものの、展示会の時期は、やむを得ず実家の母に助けてもらいながら朝から夜まで家を空けることも。「家族のサポートがあってこそ、今の仕事ができているので感謝しかないです」と話す。

 コロナ禍以前に請け負っていた旅行の仕事を失い、新たに貿易家として別の側面からフランスと関わる仕事を始めてもうすぐ1年が経つ。ある程度の売上がないと事業としては成り立たないと理解しつつも、せっかく仕事をするのなら楽しいこと、好きなことを選びたいと考えている。「好きなこと」で生活したい、がまんしないことにしたという彼女の価値観は、ライフスタイルにも表れている。食事のメニューも子どもの好きなものを優先するだけではなく、自分が食べたいものも大切にしているそうだ。

 結婚・出産のブランクがあっても、再びフランスに関わる仕事をしたい、時間をうまく使いやりたいと思う仕事を楽しくこなす橳島さん。好きなことを大切にするという価値観で仕事を選んでもいい、あきらめなければ再び語学を生かした仕事に就くこともできると勇気をもらえるのではないだろうか。


4.専業主婦時代の社会との距離が原動力に。再就職後に異業種への転職を果たした高松絵美さん(神奈川県在住)

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 小学生2人の子育てをしながら、希望通りの転職をかなえたワーキングマザーを最後に紹介したい。営業職としてキャリアップしながら異業種に挑戦するため、人材紹介業からSaaS企業への転職を選んだ高松絵美さんだ。

 人材業界を中心に経験を積みつつ、結婚出産のため一度専業主婦となる。「何か確固たる資格がひとつあると自信になるし武器になるよ」というアドバイスがきっかけで、子どもが4歳と3歳のときに、キャリアコンサルタントの資格を取得する。試験勉強のため、3カ月間、毎週末都心にある学校に通った。もう一度受けるとなると犠牲になることが多すぎる、と自分にプレッシャーをかけ気合と根性で一発合格する。資格を取得してから、正社員として再就職することができた。

 再就職した後、転職を考えたきっかけもコロナ禍にあった。景気の影響に左右されやすい人材紹介業に再就職した高松さん。彼女の会社もコロナの影響で売り上げが落ち、社内の雰囲気が悪くなり、プレッシャーのかかり方が変わってきてしまった。彼女自身、新卒からエグゼクティブ層まで千人以上のキャリアカウンセリングを実施した経験をもち、相場観もわかっている。これからは時代に求められる将来性の高い会社で働いてみたい、70歳定年が一般化することを予測し、より長く勤められそうな企業へ転職したい、と考えるようになった。

 「私は例えるなら、家庭教師より塾が向いているタイプ。みんなの中で切磋琢磨(せっさたくま)して対話をしたり、チームビルディングを深めたりする方が、自分にあっている。組織人として生きていくなら、社会から求められているような業界で、スキルを磨いていきたいですね」と話す高松さん。今までの能力と可能性が認められて、昨年の秋、データ分析ツールを扱うリーディングカンパニーに営業職として転職した。

 転職先では、ワーキングマザーでも、在宅勤務をしていても、全く関係なく同じ土俵で評価してもらえるので、転職してよかったと感じている。また、オンライン営業でクロージングまでできるスキルや、画面上で伝わる情報だけでコミュニケーションの精度を高められる力はこれからの時代に生きると思っている。一方で、商材が「人材」から「製品」に変わったことで、ここに関わる人の違いも感じ、やはり自分自身は、人に興味があるんだなと気づく機会にもなった。

 高松さんの仕事の原動力には、5年間の専業主婦時代が深く関係している。地方都市で過ごした数年間、仕事でのつながりもなく、何も貢献していない価値のない人みたいな感覚が一番辛いと感じていた。その当時から、社会とつながっていたいという気持ちが強烈にあった高松さんが今仕事に求めることは、「自己成長、関わる人が幸せになれること、そして社会貢献の3つです」とはっきりと語る。好きなことに関わりつつも、この3つを実現するには苦しいことをあえて選んでもいい、自己成長することで、困っている人を助けてあげられる強さを持ちたいと思っている。「好きを仕事にしなくてもいいけれど、大事にしている価値観は譲ってはいけない。自分の心に正直になる、つまり自分を見つめるのが大事だと思います」と、キャリアコンサルタントとしての一面も見せながら語った。

 数年後の未来については、こう語る。「経験のない業界に飛び込んだものの、営業としてのキャリアを追求したい。営業スキルを磨きいずれはマネジメントをやってみたいという気持ちも芽生えています」長年の人材業界での経験もあり、組織づくりを常に身近に感じてきた影響も大きい。

 組織の中が一番自分の力が発揮できる環境であることに気づき、成長し続けること、社会に貢献できることを軸に新たな仕事を選んだ高松さん。在宅勤務制度を上手に使いフルタイムで働きつつ、今彼女は、周りから求められて本職とは別にキャリアコンサルタントとしての活動も少しずつスタートさせている。

 

5.好きかどうかに限らず、どんな働き方をしたいか、という「自分の中にある価値観」に気づくことが大切


 世の中には、「好きを仕事にする」というタイトルのウェブサイトの記事や書籍があふれている。今の仕事は好きとは言えないけれど仕方なくやっている、もっと好きなことを仕事にしたいという潜在的ニーズがあるのかもしれない。

 今回のインタビューを通して、この先どんな仕事をしていくか考えたときに、「好きを仕事にする」以外の選択肢もたくさんあることが見えてきた。働き方は、十人十色。自分に求められることをやってもいい、好きを仕事にしてもいい、世の中に貢献できることを選んでもいい。あなたが一番大切にしたいことを自分の本音に耳を傾けながら考えるとどうだろうか。

 アメリカの『タイム』誌の「世界で最も影響力のある百人」に選出されたこともある片づけコンサルタントの近藤麻理恵さんは、著書の中で「『何の仕事をしているか』よりも、『どんな感情で仕事をしているか』の方が大切。いつもストレスを抱えてイライラ働いているのではなく、いいエネルギーを出して働いていると、周りにもポジティブな影響が伝わる」と語っている。自分の価値観に気づき、それを大切にすることは、いいエネルギーで働くことにつながるのではないだろうか。

 なぜ今自分がこの働き方をしているか、どんな気持ちで働いているかをまずは言語化してみてはどうだろう。うまく説明できなくても、そのモヤモヤした状態を受け入れ、自分に問い続けることが心地よい働き方に結びつくのではないかと感じている。
   
ーあなたが心地よく働くために、大切にしたいことは何ですか?ー

【注】
(*1)令和3年11月発表 JR東日本ニュースより引用。
https://www.jreast.co.jp/press/2021/20211104_ho04.pdf


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